見かけ上の周圏分布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/25 23:00 UTC 版)
言語地図上で周圏分布をしていても、かならずしもその分布の中心が新しく周辺が古いとは限らない。方言周圏論が成り立つのは、離れた地域で偶然同じ意味で同じ語ができるとは考えられないときである。しかし離れた地域で同じ変化を起こしたと考えられる場合には、周圏論を適用できない。発音・アクセント・文法のように、体系性を持つものでは、離れた地域で同じ変化を起こして見かけ上の周圏分布を示すものがある。例えば麦粒腫を意味する言葉で、中国地方に「めぼいと」、その外側に「めぼ」、さらに外側に「めいぼ」がある。これについては、周辺地域で「めぼいと(目陪堂)」→「めぼ」の変化が起こり、さらにこれに目+イボという間違った語源意識がはたらいて「めいぼ」に変わったと考えられている。また「借りる」を表す語には、西日本の「かる」の外側に、東日本と山陰に「かりる・かれる」があるが、この場合「かる」が別々の地域で活用の変化を起こした可能性がある。このように中心部より周辺部の方が新しいと考えるのは逆周圏論と呼ばれる。 元々あった語を繋げて新語を造った場合には、別々の地域で同じ語が発生しうる。肩車を表す「うまのり」、つむじ風を表す「まきかぜ・まいかぜ」などは、各地に散在するが、同じ発想によって各地で発生した可能性がある。 このほか、海上交通により語が飛び火的に伝播して、離れた地域に分布するようになり、見かけ上の周圏分布を起こすこともある。 方言の分布と文献から知られる新古が一致しない例もある。「女」を表す「おんな」「おなご」や、「顔」を表す「かお」「つら」は、周圏分布している。分布の上では「おんな」「かお」が中央にあり新しいと推定されるが、中央語の文献からは「おなご」「つら」の方が新しいことが知られる。
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