複雑性とカオス理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/04/12 07:35 UTC 版)
複雑性理論はカオス理論に根ざしており、その起源は19世紀のフランス人数学者アンリ・ポワンカレの研究に求めることができる。カオスは時に、秩序を持たないものというよりも極めて込み入った情報として理解されることがある。この点は、カオスにはまだ決定論的な側面が残っているという観点が垣間見える。すなわち、初期条件の完全な情報と作用の仕方が分かっているならば、その作用が引き起こす結果はカオス理論において予測可能である。これに異を唱えるのがイリヤ・プリゴジンで、複雑性は非決定論的で未来における挙動をきちんと予測するためのいかなる方法も存在しない( も参照)。 複雑性の理論における創発性は、それが属する領域が、決定論的な秩序と確率論的な乱雑さとの中間にあるということを示すものになっている。このことを指して「カオスの辺縁」('edge of chaos') ということがある。 複雑系の解析に際して、例えば初期条件に対する鋭敏性などは、それが強く問題となるカオス理論における重要性ほどには、重い問題ではない。コランダーの弁を借りれば複雑性の研究はカオスの対極にある。複雑性の研究は、非常に大きな数のきわめて複雑で動的な関係性の集合体が、いかに単純な振る舞いのパターン(決定論的カオスの意味でのカオス的挙動)を発生させることができるか、あるいはどれほど比較的小さな数の非線型な相互作用からそれが得られるか、といったことを扱うものである。 従って、カオス力学系と複雑系との主な違いというのは、その履歴 (history) であるということになる。複雑系は履歴に強く依存するが、カオス力学系は履歴に依るものでない。カオス的挙動というのは、カオス的な秩序(というのは、言い換えれば、伝統的に考えられてきた意味での「秩序」の外側にあるような秩序)を持った平衡状態へ系を導くものである。他方で複雑系は、カオスの辺縁において平衡状態から遠ざかる方向へ展開する。複雑系の展開は、非可逆で予期しない事象からなる履歴によって臨界状態を形作る。この意味で、カオス系を履歴依存性を持たないという特徴を持った複雑系の一種として見ることもできる。現実の多くの複雑系は、実用に耐えうる期間あるいは有限だが十分長い時間において堅牢 (robust) であるけれども、それらが系の全体性を維持しつつも急激な質的変化を起こす性質を持ちうる可能性は残されている。これは変形に関する比喩によるよりも、メタモルフォシス (Metamorphosis) を例に取るほうが分かりよいかもしれない。
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