被害者支援政策と刑事政策の関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 04:24 UTC 版)
「日本の刑事司法」の記事における「被害者支援政策と刑事政策の関係」の解説
犯罪被害者は心に大きな悲しみを抱え、加害者への復讐を望むことが多い。そのような報復感情は、時に極めて苛烈なものとなる。そのこと自体は人間として自然な感情である。 このような処罰感情を受けて、犯罪被害者を刑事司法手続の一方当事者と捉え、加害者(被疑者・被告人)に比して犯罪被害者の権利がないがしろにされているから、刑事司法手続内において犯罪被害者の権利を拡張すべきであるとの主張がなされることがある。 しかしながら、犯罪被害者を刑事司法手続の当事者と位置付ける考え方や、加害者への報復を刑事司法を通じて実現しようとする考え方には問題がある。 そもそも近代司法は報復の連鎖を断ち切ることを目的に発展してきたものであり、感情的な復讐が理性的な裁判と国家による刑罰に昇華されてきたというのが歴史の流れである。刑事司法制度は被害者の復讐を国が代わって行うためのものではないし、刑法も、被害者の復讐心を満足させるためにあるのではなく、あくまで国家として犯罪を防止することを目的としている。 このように、近代法の下では私的復讐は禁止され、刑罰は公的なものと位置付けられているのである。被害者の処罰感情は刑罰の正当化根拠とはされていないし、刑罰権の行使主体たる国家に被害者の処罰感情を考慮する義務があるわけでもない。歴史的経緯を紐解けば、「国家が被害者に代わって刑罰権を行使するようになった」という見方も誤りである。近現代の刑事司法制度においては、いかなる意味でも、犯罪被害者は刑事司法手続上の権利主体ではないのである。 犯罪被害者には、民事的に損害の補填を受ける権利、医療的・福祉的な支援を受ける権利、刑事司法に関して二次被害を受けない権利などは当然認められるべきである。しかし、近現代の刑事司法制度の発展の経緯に照らせば、犯罪被害者支援は刑事司法制度とは切り離して考えるべきであり、むしろ、刑事司法制度内での権利拡大に固執すれば、被害者の救済が不十分となる結果を招くこととなる。公的資金による被害者救済や被害者の心のケアなどの制度を充実させることにより、被害者が不相当に恨みを増大させて重すぎる刑罰を求めるといった、被害者にとっても被疑者・被告人にとっても不幸な結果を回避することが重要である。
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