行商専用車とは? わかりやすく解説

行商専用列車

(行商専用車 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/16 00:32 UTC 版)

行商専用列車(ぎょうしょうせんようれっしゃ)は、行商のための団体専用列車である。

成り立ち

行商人を専用に輸送する列車は関東大震災以前はあまり見られなかったが、同震災により物資が都内で不足したことを機に、千葉県から東京都への一般農家による野菜などの行商が始まり、後にその固定した需要から専用列車として京成電鉄の野菜行商専用列車、通称「なっぱ電車」が走り始めた。京成では正式には「嵩高荷物専用車」と称する。ただし、その対象は「京成行商組合」の加入者で、定期手回り品切符を発行の上で利用している。

1935年昭和10年)頃には、常磐線の列車にも野菜を中心に扱う行商人が1日500人程度利用するようになり、大きな荷物が一般客の乗車の障害になり始めた。このため同年12月1日から上野駅着7:28、8時4分、8時30分の3本の列車に限り、行商隊専用客車を2両増結するようになった[1]

これら農産物や食品の行商人は背に商品となる野菜などを担いでいたことから「カツギ屋」とも呼ばれ、京成のみならず国鉄でも見られ、前述の常磐線(おおよそ勝田駅以南)のほか成田線にも同様の専用車(出荷組合員指定車)が存在していたこともある。そのため、2019年12月時点でも湖北駅-下総松崎駅間のホームには、旧行商組合が設置したとされる行商人専用の荷物置き台(いわゆる行商台)が現存しており[2]、湖北駅の「担ぎ台」は博物館などでも保存している[3]。また常磐線でも2021年11月までは土浦駅のホームに行商台が現存していた。[4]

現状

私鉄で運行されていた行商専用列車は、地方私鉄の相次ぐ廃線や合理化に伴い縮小の一途を辿り、京成の「なっぱ列車」も次第に縮小され、1982年2月14日から行商専用列車に代わり、京成上野行・西馬込行(専用車扱いは押上駅まで)各1本最後尾1両だけの専用車扱いで運行され、以降は「行商専用車」と称された[5]。その車両は若干窓を開けてそこに板を吊り下げる形でその旨を示し、後期にはステッカーを貼り付けていた。

行商人の利用の減少と車内の混雑対策もあり、1998年10月1日より押上方面行の専用車設定は無くなり、以降は上野方面のみの設定となり、2013年3月29日の運行を以て廃止された[6]。廃止直前に行商車両が設定されていた当該列車は、普通(列車番号 第732列車)芝山千代田発(7時46分発)京成上野行(9時52分着)[7]で、平日のみの設定だった。この列車が到着する駅のホームでは、「当駅○時○○発(平日)普通上野行の最後部一両は 行商専用車です」との但し書きがあった(○の中には、その駅の発車時間を表す算用数字が入る)。また、行商組合が休みの場合は、専用車は中止された。

2020年3月13日、近畿日本鉄道が運行する鮮魚列車の廃止を最後に、行商人しか乗ることが出来ない貸し切り列車は姿を消し、翌週16日以降は平日のみ急行列車に専用車両を連結する形で運行した[8]

しかし、環境負荷の軽減や鉄道事業の収入減の補填、さらにトラック運転手の時間外労働の上限規制に伴い運転士不足を起因する、いわゆる「2024年問題」から、これに影響を及ぼす物流危機への対策として、かつての「行商専用列車」のような形態ではないものの、鉄道運行の定時性を利用した貨客混載へ取り組む動きも起こりつつある[9][10]

2021年3月から、東武鉄道では東上線の車内で野菜の輸送の実証実験を開始し[11]、同年6月にも再び実証実験がされた[12]。ほぼ同時期には西武鉄道京浜急行電鉄東日本旅客鉄道西日本旅客鉄道などでも試験目的を含めて実施例が出ている。特に後2社は北陸新幹線でも農産物および鮮魚輸送を行うようになった。ただし、行商人の乗車はない。

その他

地方私鉄では気動車の端に「鮮魚台」と呼ばれるカゴを設置して、乗客とともに鮮魚を輸送していた。

東京都電車では、第二次世界大戦前後のガソリン統制の折、早朝に築地始発の魚屋さん専用電車を出していた。戦後、専用電車は廃止されたが、朝方に築地を通る電車には魚を仕入れたブローカーが大量に乗車する状態が続き、臭気などから苦情が出るなど実質的な専用列車の状態となっていた[13]

脚注

  1. ^ 女性の野菜行商隊に常磐線が二両増結『東京朝日新聞』昭和10年11月28日夕刊(『昭和ニュース事典第5巻 昭和10年-昭和11年』本編p365 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
  2. ^ JR成田線湖北駅 一部撤去「行商台」持ち主探しまでの顛末”. 週刊ポスト (2019年12月22日). 2019年12月22日閲覧。
  3. ^ “千葉から東京へ、野菜行商の歴史伝える「担ぎ台」保存へ JR成田線湖北駅”. 毎日新聞. (2020年1月23日). オリジナルの2020年1月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200123074605/https://mainichi.jp/articles/20200123/k00/00m/040/147000c 2022年2月24日閲覧。 
  4. ^ 土浦駅の貴重な鉄道遺産「行商台」が鉄道博物館へ 行商全盛期の歴史伝える”. J-CAST ニュース (2021年11月18日). 2021年12月1日閲覧。
  5. ^ 「私鉄年表」『私鉄車両編成表 -全国版- 83年版』ジェー・アール・アール、1983年3月20日、140頁。 
  6. ^ 京成電鉄の「行商専用車両」が廃止に - ウェイバックマシン(2014年1月1日アーカイブ分)朝日新聞
  7. ^ 京成時刻表vol.26 75ページ
  8. ^ 鮮魚列車、ラストラン 半世紀の歴史に幕―近鉄 - archive.today(2020年7月24日アーカイブ分)
  9. ^ 鮮魚も運ぶ!「荷物新幹線」は物流危機を救うか JR東が東北、上越、北陸新幹線で密かに試した - 東洋経済オンライン 2023年12月7日
  10. ^ 北陸新幹線で敦賀駅から新鮮な海の幸を首都圏に輸送 - NHK NEWS WEB 2024年3月22日
  11. ^ “令和の行商列車? 東武東上線の快速急行で野菜輸送→池袋駅で直売 背景に社会課題”. (2021年3月19日). https://trafficnews.jp/post/105638 2021年7月28日閲覧。 
  12. ^ “電車が運んできたキャベツはなぜ「おいしい」のか”. (2021年6月20日). https://toyokeizai.net/articles/-/435179 2021年7月28日閲覧。 
  13. ^ 「魚・乗客を押のける」『朝日新聞』昭和26年10月26日2面

関連項目


行商専用車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/08 17:24 UTC 版)

京成東成田線」の記事における「行商専用車」の解説

行商専用列車」も参照 かつて、平日の上り普通京成上野行き6両編成)1本の最後車両対象に行商専用車が設定されていた。2013年3月29日運行をもって廃止された。

※この「行商専用車」の解説は、「京成東成田線」の解説の一部です。
「行商専用車」を含む「京成東成田線」の記事については、「京成東成田線」の概要を参照ください。

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