葬送儀式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/03 09:35 UTC 版)
「死ぬために生きている」とも言われるトラジャ族の社会において、葬儀は労力面も費用面からも最も贅を尽くした行事である。財力や権力を持つ者ほど、葬儀もまた盛大なものになる。アルクの宗教において、このような大規模な葬儀を行なえるのは貴族だけに限られている。 トラジャ族は、死を突然で断絶的な出来事とは考えず、プヤ(Puya)と呼ぶ魂の地(または来世とも考えられる)へ至るゆるやかな流れの一環と捉えている。肉体的な死を迎えると、死体は香油を塗られ、吸湿性を持つ生地の帯でぐるぐる巻きにされてトンコナンに安置され、ゆっくりと乾いてゆく。この殯(もがり)の間、死者の魂は村の中を一時的に彷徨っているだけであり、遺体は生前同様に家族と共に過ごす。この期間は、葬儀が終わり故人は正式に亡くなったと見なされプヤへ向かい旅立つまでの待ち時間と考えられている。そして葬儀は多くの場合収穫期に執り行われるため、殯は数ヶ月間続く場合もある。- トンコナンでの殯が終わると、貴族の儀式では通常数千人が参列する第二次祭宴が始まり、長い期間続く。式場はランデ(rante)と呼ばれ、通常広い草原に用意される。そこには遺族によって米倉など葬儀に必要な建物が造られ、参列者を収容する場所として使われる。そして、笛の演奏、葬送の唱和、歌や詩、泣き叫ぶ行為など、トラジャ伝統の悲嘆を示す表現が行なわれる。これらは、幼い子供や貧しい者、階層の低い者の葬儀では行なわれない。弔慰金を集めて遺族が支払う費用を賄うため、葬儀は数週間、ときに数ヶ月または数年に亘って行なわれる事もある。 葬儀におけるもうひとつの重要な儀式は、水牛の屠殺である。これには、白い水牛が特に喜ばれる。その人物が持つ権力が大きければ、屠殺される頭数も増える。水牛の体と頭は式場に並べられ、「眠る場所」にいる主人(の魂)が来訪するのを待つ。トラジャの信仰では、魂がプヤへ向かうには水牛が必要で、その数が多ければより速やかに到着することができるとされている。踊りと謡いの中数十頭もの水牛と百を越える豚が山刀で屠殺され、少年たちが噴出する血を長い竹筒に受ける儀式で葬送は頂点に達する。この大量の動物の中には、参列者から贈られるものもあり、慎重に記録される。これらは通常、故人やその家族から借りた負債の返済とされるためである。 葬儀が終わると、遺体はあの世で必要なものと一緒に棺に収められる。棺が安置される場所は三種類ある。石の断崖に掘られた室、石質層の洞窟、または断崖に吊るされるかのどれかである。富める者が収められる断崖の石室は、掘り上げるまでに数ヶ月がかかり、費用もかかる。洞窟は、時に家族全員さえ安置できるほど大きなものもある。断崖にはバルコニーが設けられ、外界を向いたタウタウ(Tau Tau)と呼ばれるパラミツの木で作られた像が置かれる。赤ん坊や子供の棺は断崖や木に吊るされ、ロープが朽ちて地面に落下するまで何年もの間そのままにされる例もある。
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