翻訳における役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/24 01:19 UTC 版)
FMRPの役割として、翻訳の負の調節因子としてシナプス可塑性に影響を与えることが提唱されている。FMRPはRNA結合タンパク質であり、ポリソームと結合する。FMRPのRNA結合能は、KHドメイン(英語版)とRGGボックスに依存している。KHドメインは多くのRNA結合タンパク質を特徴づける、保存されたモチーフである。このドメインの変異によって、FMRPのRNAへの結合能は損なわれる。 FMRPはmRNAの翻訳を阻害することが示されている。FMRPの変異によって、野生型FMRPが有する翻訳抑制能は失われる。上述したように、mGluRの刺激はFMRPのタンパク質レベルの増加と関係している。さらに、mGluRの刺激はFMRPの標的mRNAのレベルの増加も引き起こす。FMRP欠損マウスでは、こうした標的mRNAにコードされるタンパク質の基底レベルが大きく上昇し、適切な調節が行われなくなることが明らかにされている。 FMRPによる翻訳抑制は、翻訳開始過程の阻害によって行われる。FMRPはCYFIP1(英語版)と結合し、続いて翻訳開始因子eIF4Eに結合する。FMRP-CYFIP1複合体はeIF4E依存的な翻訳を阻害することで、翻訳の抑制因子として作用する。脆弱X症候群で観察される表現型である、標的の過剰なタンパク質レベルと翻訳制御の低下はFMRPによる翻訳抑制の喪失によって説明される可能性がある。FMRPは多数の標的mRNAの翻訳を制御することが知られているが、FMRPによる翻訳制御の程度は未知である。FMRPはシナプスで標的mRNAの翻訳を抑制することが示されており、その標的にはArc/Arg3.1(英語版)やMAP1B(英語版)といった細胞骨格タンパク質やCaMKII(英語版)が含まれる。 FMRPによる翻訳制御はmGluRを介したシグナル伝達によって調節されることが示されている。mGluRの刺激は、シナプスでの局所的タンパク質合成のためのmRNA複合体の輸送を引き起こす。FMRPを含む粒子は樹状突起においてMAP1BのmRNAやrRNAと局在することが示されており、局所的タンパク質合成のためにこうしたFMRP-RNA複合体全体として樹状突起へ輸送される必要があることが示唆されている。さらに、FMRPのmGluR依存的な樹状突起への輸送には微小管が必要であることが明らかにされている。FMRPはmRNAの積み荷と微小管との結合を補助することで、局所的タンパク質合成にさらなる役割を有している可能性がある。このように、FMRPは輸送効率を調節することができるとともに、輸送中の翻訳を抑制することができる。FMRPの合成、ユビキチン化、タンパク質分解はmGluRシグナル伝達に応答して迅速に行われ、翻訳の調節因子として極めて動的な役割を果たしていることが示唆される。
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