神経発達症仮説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 18:58 UTC 版)
統合失調症の初発患者において脳の容積が一部低下していたり、死後脳において脳の構造異常が見られたりする例があることから、脳の発達段階での何らかの障害が関与しているとする仮説。 名城大学の鍋島俊隆らは統合失調症の一部は、胎児期の脳神経系の神経発達症が原因であることを明らかにした。鍋島教授らは統合失調症の候補遺伝子で、神経系の成長を促す「DISC1」に注目し、マウスを使った実験によってこのことを確かめた。脳のDISC1を一時的に働かないようにすると、成長したマウスは音に過敏に反応したり、認知機能が低下したりするなど、統合失調症に特有の症状を示した。マウスは統合失調症の治療薬の投与で症状は改善し、また、脳の神経細胞の数は正常だが、回路が未熟で、機能が低下していた。鍋島教授は「統合失調症の特徴をここまで再現したマウスはなかった。治療薬の開発に役立てたい」と話したという。 しかしながら、脳の構造的異常が意味するところは今のところ不明である。例えば、もともと脳に異常があるために症状が発現(統合失調症を発症)したのか、慢性的で長期に渡る罹患と治療の結果、症状や服薬等の影響が脳を変成させた可能性との鑑別が困難であることがこの問題の研究上の課題として挙げられる。また、この両者は矛盾せずに両立することができるが、現時点でも脳を見ただけで統合失調症か否かを鑑別できるわけではなく、そもそもMRIやCTといった検査方法で発見できるのはマクロな異常だけであるので、原因がミクロな異常にあった場合や単一的というより複合的であった場合、こうしたマクロ的アプローチの有効性は低いものとなる。また、脳検査で何らかの異常な所見を示す患者よりも示さない患者の方が多いことも、多くの研究者が「統合失調症患者の脳研究」を放棄した理由の一つである。
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