照応の動態性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 08:16 UTC 版)
動的意味論の最初の体系は、ファイル変化意味論や談話表示理論と密接に関連しており、イレーネ・ハイムとハンス・カンプによって同時期に独立に開発された。これら体系は、ロバ照応を捉えることを目的としている。ロバ照応は、モンタギュー文法のような意味論への古典的アプローチでは、合成的な扱いが難しい言語現象である。ロバ照応の例としては、悪名高いロバ文がある。これは、中世の論理学者ウォルター・バーリーが最初に気付き、ピーター・ギーチが現代で注目したものである。 ロバ文(関係節): Every farmer who owns a donkey beats it. ロバ文(条件文): If a farmer owns a donkey, he beats it. 一階述語論理によってこれら文の真理条件を捉えるためには、"a donkey"という不定名詞句を、代名詞"it"に対応する変項を作用域として持つ全称量化子へと、翻訳する必要があるであろう。 ロバ文の一階述語論理による翻訳: ∀ x ∀ y ( ( farmer ( x ) ∧ donkey ( y ) ∧ own ( x , y ) ) → beat ( x , y ) ) {\displaystyle \forall x\forall y(\,({\text{farmer}}(x)\land {\text{donkey}}(y)\land {\text{own}}(x,y))\rightarrow {\text{beat}}(x,y)\,)} この翻訳は自然言語文の真理条件を捉えている(あるいは近似している)が、この翻訳と文の統語形式との関係は二つの点で不可解である。第一に、ロバ文以外の文脈では、不定詞は通常、全称量化子ではなく存在量化子を表す。第二に、ロバ代名詞の統語上の位置は、通常、不定詞に束縛されることを許さないはずである。 こうした特殊性を説明するために、自然言語の不定詞はそれを導入した演算子の統語的作用域の外で利用可能な新しい談話指示対象を導入するということを、ハイムとカンプが提案した。この考えを実現するために、彼らは、ロバ照応を捉える形式体系をそれぞれ提案した。この形式体系は、エグリの定理とその補題を妥当とする。 Egli's Theorem: ( ∃ x φ ) ∧ ψ ⇔ ∃ x ( φ ∧ ψ ) {\displaystyle (\exists x\varphi )\land \psi \Leftrightarrow \exists x(\varphi \land \psi )} Egli's Corolary: ( ∃ x ϕ → ψ ) ⇔ ∀ x ( ϕ → ψ ) {\displaystyle (\exists x\phi \rightarrow \psi )\Leftrightarrow \forall x(\phi \rightarrow \psi )}
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