動的意味論とは? わかりやすく解説

動的意味論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 08:16 UTC 版)

動的意味論(どうてきいみろん)は、論理学自然言語意味論において、「文の意味」というものを「文脈を更新する能力」として扱う枠組みである。静的意味論では、文の意味を知ることはその文がいつ真となるかを知ることであるが、動的意味論では、文の意味を知ることは「その文によって伝達された情報を受け入れた人の情報状態にもたらされる変化」[1]を知ることである。動的システムでは、文は、文脈を受け取って文脈を返す関数へと写像される。この関数は文脈変化力(context change potentials)と呼ばれる。動的意味論は元々、照応をモデル化するために1981年にイレーネ・ハイム英語版ハンス・カンプ英語版によって開発されたが、その後、前提複数形疑問文、談話関係、様相などの現象に広く応用されている[2]

照応の動態性

動的意味論の最初の体系は、ファイル変化意味論や談話表示理論と密接に関連しており、イレーネ・ハイムとハンス・カンプによって同時期に独立に開発された。これら体系は、ロバ照応を捉えることを目的としている。ロバ照応は、モンタギュー文法のような意味論への古典的アプローチでは、合成的な扱いが難しい言語現象である[2][3]。ロバ照応の例としては、悪名高いロバ文がある。これは、中世の論理学者ウォルター・バーリーが最初に気付き、ピーター・ギーチが現代で注目したものである[4][5]

ロバ文(関係節): Every farmer who owns a donkey beats it.
ロバ文(条件文): If a farmer owns a donkey, he beats it.

一階述語論理によってこれら文の真理条件を捉えるためには、"a donkey"という不定名詞句を、代名詞"it"に対応する変項を作用域として持つ全称量化子へと、翻訳する必要があるであろう。

ロバ文の一階述語論理による翻訳: ポータル 言語学

参考文献

  1. ^ Veltman, Frank (1996). “Defaults in Update Semantics”. Journal of Philosophical Logic 25 (3). https://staff.fnwi.uva.nl/f.j.m.m.veltman/papers/FVeltman-dius.pdf. 
  2. ^ a b Nowen, Rick; Brasoveanu, Adrian; van Eijck, Jan; Visser, Albert (2016). "Dynamic Semantics". In Zalta, Edward (ed.). The Stanford Encyclopedia of Philosophy. 2020年8月11日閲覧
  3. ^ Geurts, Bart; Beaver, David; Maier, Emar (2020). "Discourse Representation Theory". In Zalta, Edward (ed.). The Stanford Encyclopedia of Philosophy. 2020年8月11日閲覧
  4. ^ Peter Geach (1962). Reference and Generality: An Examination of Some Medieval and Modern Theories 
  5. ^ King, Jeffrey; Lewis, Karen (2018). "Anaphora". In Zalta, Edward (ed.). The Stanford Encyclopedia of Philosophy. 2020年8月11日閲覧
  6. ^ Dekker, Paul (2001). “On If And Only If”. 11. Semantics and Linguistic Theory. Linguistic Society of America. http://journals.linguisticsociety.org/proceedings/index.php/SALT/article/viewFile/3097/2820 

関連文献


動的意味論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/22 06:54 UTC 版)

形式意味論」の記事における「動的意味論」の解説

言語情報背景情報組み合わされることで、知識の状態を更新していくと考え立場である。ハイムカンプよる。

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「動的意味論」を含む「形式意味論」の記事については、「形式意味論」の概要を参照ください。

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