様相に対する検査意味論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/28 06:13 UTC 版)
「動的意味論」の記事における「様相に対する検査意味論」の解説
更新意味論の枠組みは、共通部分的な意味に限定されないため、静的意味論よりも一般化されていると言える。非共通部分的な意味は、文脈の中にすでに存在する情報に応じて異なる情報を提供するので、理論的に有用である。例えば、 φ {\displaystyle \varphi } が共通部分的であるならば、 φ {\displaystyle \varphi } は、どのような入力文脈も、まったく同じ情報――すなわち命題 [ [ φ ] ] {\displaystyle [\![\varphi ]\!]} によって符合化された情報――によって更新することになるだろう。他方、 φ {\displaystyle \varphi } が非共通部分的であるならば、 φ {\displaystyle \varphi } はある文脈を更新する際には [ [ φ ] ] {\displaystyle [\![\varphi ]\!]} を与える一方で、別の文脈を更新する際にはまったく異なる情報を与えうる。 多くの自然言語表現は、非共通部分的な意味をもつと論じられてきた。認識様相の非共通部分性は、認識的矛盾(epistemic contradiction)の不適切さに見ることができる。 認識的矛盾: #雨が降っておりかつ雨が降っていないかもしれない。 こうした文は、表面的にはムーア文にも似ている。しかしムーア文が語用論的に説明されうるのと違って、認識的矛盾は真の意味での論理的矛盾であると論じられてきた。 認識的矛盾原理: φ ∧ ◊ ¬ φ ⊨ ⊥ {\displaystyle \varphi \land \Diamond \neg \varphi \models \bot } こうした文は、様相論理のクリプキ意味論のような、純粋に共通部分的な枠組みの中では、論理的矛盾として分析することができない。認識的矛盾原理は R w v ⇒ ( w = v ) {\displaystyle Rwv\Rightarrow (w=v)} となるようなクリプキフレームにおいてのみ成り立つ。しかしながら、そうしたフレームでは ◊ φ {\displaystyle \Diamond \varphi } から φ {\displaystyle \varphi } を導く推論も妥当となる。したがって、認識的矛盾の不適切さを様相の古典的意味論の中で説明しようとすれば、「雨が降っているかもしれない」から「雨が降っている」が導かれるという、受け入れがたい帰結を招くことになるのである。更新意味論は、様相の非共通部分的な意味論的値を与えることによってこの問題を回避する。そのような意味論的値が与えられるとき、 ◊ ¬ φ {\displaystyle \Diamond \neg \varphi } は、入力文脈が φ {\displaystyle \varphi } によってもたらされる情報をすでに含んでいるかどうかによって、異なる仕方でその入力文脈を更新することができる。更新意味論における様相の意味論として最も広く採用されているのは、フランク・ヴェルトマンによって提案された検査意味論(test semantics)である。 様相に対する検査意味論: C [ ◊ φ ] = { C if C [ φ ] ≠ ∅ ∅ otherwise {\displaystyle C[\Diamond \varphi ]={\begin{cases}C&{\text{if }}C[\varphi ]\neq \varnothing \\\varnothing &{\text{otherwise}}\end{cases}}} この意味論では、 ◊ φ {\displaystyle \Diamond \varphi } は、入力文脈が自明化されずに(つまり空集合を返さずに) φ {\displaystyle \varphi } によって更新されうるかを検査する。この検査に合格した場合、入力文脈は変更されない。検査に合格しなかった場合、更新は空集合を返すことで、文脈を自明化する。この意味論は認識的矛盾を扱うことができる。なぜならば、入力文脈がどのようなものであっても、 φ {\displaystyle \varphi } による更新はつねに ◊ ¬ φ {\displaystyle \Diamond \neg \varphi } によって課された検査に失敗する文脈を出力するからである。
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