巡回群
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/01 22:48 UTC 版)
代数的構造 → 群論 群論 |
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群論における巡回群(じゅんかいぐん、英: cyclic group、英: monogenous group)とは、ただ一つの元で生成される群(単項生成群)のことである。ここで群が「ただ一つの元で生成される」というのは、その群の適当な元 g をとれば、その群のどの元も(群が乗法的に書かれている場合は)g の整数冪として(群が加法的に書かれている場合は g の整数倍として)表されるということであり、このような元 g はこの群の生成元(generator)あるいは原始元(primitive)と呼ばれる。
定義
群 G が巡回的(cyclic; 循環的)または巡回群であるとは
巡回群の表現論は、もっと一般の有限群の表現論の重要な基本となる場合となっている。通常表現(複素線型表現)の場合は指標理論と表現論とを透過的に繋ぐことにより、巡回群の表現は(一次)指標の直和に分解される。正標数の場合には、巡回群の直既約表現の全体が、巡回的シロー部分群を持つ群の表現論やもっと一般の blocks of cyclic defect の表現論のモデルおよび帰納的な基礎を成す。
巡回群の部分群と記法
巡回群の任意の部分群および剰余群は、それ自身が巡回群である。特に整数全体の成す加法群 Z の任意の部分群は、適当な整数 m ≥ 0 によって mZ の形で書ける。これらの部分群は m が異なれば全て互いに異なり、一方(m = 0 のとき自明群となることを除けば)全て Z に同型である。Z の部分群束は整除関係を順序とする自然数全体の成す束の双対に同型である。Z の任意の剰余群は、自明な例外 Z/{0} = Z/0Z を除いて全て有限群である。また n の任意の正の約数 d に対して、剰余群 Z/nZ は位数 d の部分群をちょうど一つ持ち、それは n/d の属する剰余類によって生成される。Z/nZ の部分群は必ずこのようにして得られるので、部分群の束は n の約数全体の成す集合に整除関係で順序を入れたものに同型となる。特に、巡回群が単純群となるための必要十分条件は、その位数(元の個数)が素数となることである。
位数 n の(加法的に書かれた)巡回群を加法群 Z の剰余群として定式化するならば Z/nZ がそれを表す標準的な記法ということになる。あるいは環論の言葉で言えば、部分群 nZ は環 Z のイデアルでもあり、(n) とも書かれるので、同じ巡回群を Z/(n)(あるいは Z/n)と書くことも(剰余環の加法群として捉えれば意味のある記法であるので)記号の濫用ということにはならない。これらの別記法であれば p-進整数環の記法と衝突しないし、後者の記法であれば環としても群としても言葉の上では「Z 割る n」といった感じで読めるので、形式張らない計算ではよく用いられる。
実際の問題としては、g で生成される位数 n の有限部分群 C が与えられたとき、適当な整数 k に対する gk で生成される部分群の位数 m を求めよというようなものが挙げられる。この場合、m は mk が n で割り切れるような最小の正整数として得られるものであり、従って d = gcd(k, n) を k と n の最大公約数とするときの n/d に等しい。別な言い方をすれば gd が生成する部分群の指数が m である。
巡回群の自己準同型
アーベル群 Z/nZ の自己準同型環は、環としての Z/nZ 自身に同型である。この同型のもとで、数 r は Z/nZ の r 倍写像(各元をその r 個のコピーの和として得られる元に写す自己準同型)に対応する。この自己準同型が全単射となる必要十分条件は r が n と互いに素となることであり、従って Z/nZ の自己同型群は上述の単元群 (Z/nZ)× に同型である。
同様に加法群 Z の自己準同型群は環 Z に同型であり、自己同型群は環 Z の単元群 { ±1 } ≅ C2 に同型である。
実質的巡回群
群が指数有限な巡回部分群を含むとき、その群を実質的巡回群または実質巡回群と呼び、その群は実質巡回的 (virtually cyclic) であるという。言い換えれば、実質的巡回群の任意の元はその指数有限な巡回部分群の適当な元を掛けることによりある有限集合(完全代表系)の元に写される。
任意の巡回群は実質巡回的であり、同様に任意の有限群も実質巡回的である。また、ちょうど二つの端 (end) を持つ有限生成離散群(例えば Z/nZ と Z の直積群)は実質巡回群となることが知られている。あるいはグロモフの双曲群の任意の可換部分群は実質巡回群となる。
脚注
- ^ a b c 星 (2016, pp. 94f)
- ^ 星 (2016, pp. 47f)
- ^ 星 (2016, pp. 68–70)
- ^ a b 星 (2016, pp. 77–85)
- ^ 星 (2016, p. 102)
- ^ 星 (2016, p. 123)
- ^ 星 (2016, pp. 129–133)
- ^ a b 星 (2016, pp. 86f)
- ^ a b 星 (2016, pp. 126–129)
- ^ ヴィノグラードフ (1959, pp. 85–98, 第6章 原始根と指数)
- ^ Vinogradov (2003, § VI PRIMITIVE ROOTS AND INDICES)
- ^ ヴィノグラードフ (1959, p. 85)
- ^ Vinogradov (2003, p. 106)
- ^ ヴィノグラードフ (1959, pp. 95–97)
- ^ Vinogradov (2003, pp. 116f)
参考文献
- 星明考 『群論序説』日本評論社、2016年3月25日。ISBN 978-4-535-78809-1。
- Gallian, Joseph (1998) (English), Contemporary abstract algebra (4th ed.), Boston: Houghton Mifflin, ISBN 978-0-669-86179-2, especially chapter 4.
- Herstein, I. N. (1996), Abstract algebra (3rd ed.), Prentice Hall, ISBN 978-0-13-374562-7, MR1375019, especially pages 53–60.
- Vinogradov, I. M. (2003), “§ VI PRIMITIVE ROOTS AND INDICES”, Elements of Number Theory, Mineola, NY: Dover Publications, ISBN 0-486-49530-2
- И.М.ヴィノグラードフ 『整数論入門』三瓶与右衛門・山中健 訳、共立出版〈共立全書 517〉、1959年11月。ISBN 978-4-320-00517-4。
- И.М.ヴィノグラードフ 『復刊 整数論入門』三瓶与右衛門・山中健 訳、共立出版、2010年2月。ISBN 978-4-320-01917-1。 - ヴィノグラードフ (1959)の復刊。
関連項目
- 局所巡回群 - 任意の有限生成部分群が単項生成となるような群。
- 原始根
- 合同算術
- 巡回拡大
- 巡回加群
- 有限生成アーベル群の基本定理
外部リンク
- An introduction to cyclic groups
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_2". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_3". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_4". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_5". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_6". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_7". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_8". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_9". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_10". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_11". MathWorld (英語).
- Weisstein, Eric W. "Cyclic Group C_12". MathWorld (英語).
- 『巡回群』 - コトバンク
- 無限巡回群のページへのリンク