潮汐破壊現象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 15:05 UTC 版)
光度曲線とスペクトルの特徴が、超新星よりもよく合致する現象として、ブラックホールによる潮汐破壊現象(TDE)が考えられる。ただし、過去にみつかっているTDEは、最も高速なものでもAT2018cowより1桁長い時間尺度で進行する現象で、AT2018cowの変化の速さは異例。そこで、観測された増光・減光の速さを説明できるような、TDEの条件を検証した結果、二つの仮説が提唱されている。一つは、質量が太陽の1万倍程度の中間質量ブラックホールに、太陽程度の質量の恒星が破壊されたTDEである、とするもの。もう一つは、質量が太陽の10万倍から100万倍のブラックホールに、低質量の白色矮星が破壊されたTDEである、というものである。 太陽型星のTDE説は、GROWTHなどのグループが、TDEの理論と紫外線・可視光の光度曲線との比較から導き出したもので、紫外線・可視光で急速に変化する明るさをよく説明する。ただし、ブラックホールの質量が低めなので、エディントン光度では観測されたAT2018cowの明るさに届かない。AT2018cowの可視光での放射は、黒体放射が支配的なので、ジェットのように収束した光を観測したことで、見かけの光度が高くなったと解釈するのも難しく、この説では追加の熱源を考える必要があるかもしれない。 一方、白色矮星のTDE説は、ニール・ゲーレルス・スウィフトのUVOTチームを中心とするグループが、光球の大きさや光度を基にTDEの理論から導いたものである。白色矮星のようなコンパクト天体であれば、TDEが小さな領域で集中して起こるため、主系列星よりも急速に巨大な光球を形成できるとされる。スペクトルも考慮すると、質量が太陽の2割以下のヘリウム白色矮星がTDEで破壊されたとすると、既存の理論では観測を最もよく説明できるとみられる。 太陽型星にしろ白色矮星にしろ、AT2018cowが発生した位置が、母銀河の銀河核から遠く離れている点は問題である。銀河核であれば、超大質量ブラックホールが存在することが一般的だが、この位置で想定されるのは、星団の中心に存在する中間質量ブラックホールである。しかし、星団の中では通常、星間物質が少ない一方で、AT2018cowは密度が高い物質に囲まれた中で起きたと考えられるため、整合性がとれない。 ALMAでの偏光観測の結果は、高密度、強い磁場の環境下でAT2018cowが発生していること示しており、潮汐破壊現象ではなく、超新星後を起源とする説で説明できる。
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