海洋無酸素事変を示す堆積物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/31 11:58 UTC 版)
「西中山層」の記事における「海洋無酸素事変を示す堆積物」の解説
1970年以降、酸素に乏しい還元的な底質環境におけるアンモナイト殻の溶解が報告されるようになり、1990年代には、西中山層の有機物に富む黒色泥岩がトアルシアン期の海洋無酸素事変(T-OAE)を特徴づける堆積物として注目されるようになった。2000~2010年代には有機炭素同位体比(δ13Corg)の分析によりOAEのあった期間の地層の国際対比が行われるようになり、2007年には石浜・松本によって西中山層下部において有機炭素同位体比の負異常が報告されたが、ヨーロッパには西中山層のように後期プリンスバッキアン期の貧酸素環境を示す堆積物がなく、西中山層では貧酸素環境の開始時期が早く長期間継続したと考えられた。その後、中田・松岡により西中山層のアンモナイト化石帯の年代が再検討され下位より後期プリンスバッキアン期末のCanavaria japonica帯、前期トアルシアン期のPaltarpites paltus帯、Dactylioceras helianthoides帯、Harpoceras inouyei帯に再区分が行われ、この化石帯区分の北部地域全域への適用が試みられている。化石帯が設定された範囲の年代は、従来、北西ヨーロッパ標準化石帯のStokesi亜帯からFibulatum亜帯に至るアンモナイト化石帯との対比により後期プリンスバッキアン期の前期 - 中期トアルシアン期の前期中葉とみられていたが、中田・松岡による再検討で、Apyrenum亜帯からFibulatum亜帯までの範囲に短縮され、後期プリンスバッキアン期の後期 - 中期トアルシアン期の前期中葉の年代となる。この生層序年代の改訂では、Fontanelliceras fontanellense帯における断層による層序の繰り返しが見出されたことで、実際よりも長く推定されたアンモナイトの生存期間と新・旧のタクサの生存期間の重複が明らかにされるとともに、西中山層のDactylioceras属をはじめ後期プリンスバッキアン期に置かれていたPaltarpites paltus(=Protogrammoceras paltum)の初産出をプリンスバッキアン期/トアルシアン期境界とし、新設されたPaltarpites paltus帯が北西ヨーロッパ標準のpaltum亜帯と同じく前期トアルシアン期の初頭に位置付けられた。さらに、重要な新産種が発見され、地中海地域の前期トアルシアン期初頭のMirabile亜帯に産するPetranoceras aff. rinaldiniiとPaltarpites paltus・Fontaneliceras fontanellenseとの共産や、後期プリンスバッキアン期のStokesi亜帯 - Apyrenum亜帯に産するAmaltheus margaritatusなどにより化石帯の年代の整合性がとられた。 改訂された生層序年代に従うと西中山層の炭素同位体異常の認められる時期は、イギリス、フランス、ポルトガルなどのプリンスバッキアン期/トアルシアン期境界の炭素同位体異常(P-T-CIE)の時期と一致するものの、前期トアルシアン期の炭素同位体異常(T-CIE)はヨーロッパよりも早期にシフトしている。T-CIEは急速な炭素の解放に起因する温暖化により水理学的に強調されたものであると解釈されている。
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