日にいちど入る日は沈み信天翁(あほうどり)
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評 言 |
第二句集「眞神」収録。作者は航海中である。眼の前には海と空のほかはない。今、赤くて大きな夕日が沈んでゆく。船の切る波音が聞こえるばかり。静かだ。「日にいちど入る日は沈み」の措辞がスケールの大きな景を広げてくれる。太古から変わらないこの現象を収斂して、このように言い止める詩心と技に敬意を表する。大胆で繊細なこの表現を何度も称しては大海の夕暮れを思い描く。そこを悠々と信天翁が滑って行く。ここは鳥島沖だろうか、無季ではあるが南の海の暖かさを思う。 敏雄は海の男である。戦後運輸省航海訓練所に入って以来、船の事務長として実習生の航海訓練、抑留者の引き揚げ、戦没者の遺骨収集と追悼などに長年携わって来た。16歳の時「馬酔木」に初入選した敏雄だが、海上勤務の間をも含め作句をしばしば中断している。むかし船乗りだった私はこの句にぐんと吸い寄せられる。そして、作者の心を過ぎるものを推測しては共感を覚えるのである。 取り合せの信天翁は、全長1メートル、翼を広げると3メートル近くになるという。抜群の飛翔力を持つ反面、警戒心が少なく地上の動きが緩慢である。そのため羽毛目的の人間に乱獲され、いまは国際保護鳥、絶滅危惧種に指定されている。 掲句は、美しい夕焼の大海原に私を連れて行ってくれる。陸の社会からは忘れられた若き自分がそこに居る。信天翁のように何時か天翔る時が来るか、それともお人好しで緩慢な動きのまま人生を終えるかなど悩み多き日々があった。再び「日にいちど入る日は沈み」のフレーズに返り宇宙を思う。宇宙に漂う元素で構成されている自分の命を思う。そして、ゆっくりと生きていれば、それで十分なのだと心が安まるのである。 |
評 者 |
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備 考 |
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