新聞初出本文の意義と問題点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/19 07:13 UTC 版)
「新聞小説」の記事における「新聞初出本文の意義と問題点」の解説
芥川龍之介当時の『大阪毎日新聞』の夕刊は、朝刊と同じく1ページに10段、1行16文字、ルビ付き活字による、総ルビ付きの本文で、芥川の新聞小説は第1面下部に掲載されることが多かった。新聞小説においては、漱石は言うまでもなく芥川においても、新聞掲載の初出の本文がもっと重視されるべきではないであろうか。限られた少数の読者にしか読まれなかった同人誌発表の作品ならともかく、新聞掲載の本文は他のメディアとは比較にならないほど多数の読者を獲得したはずだからである。しかし最新の『芥川龍之介全集』全23巻(岩波書店、1995-98)を含む従来の全集は、新聞小説の本文も他の雑誌掲載の作品と同列に扱い、芥川のその後の改稿の手が入ったという理由だけで後の単行本の方を機械的に底本にしてきた。こうした十把一絡げな編集方針は早急に改め、新聞に掲載された初出本文を、その掲載形態にまで配慮しもっと人目に触れさせる必要がある。東京版(芥川の場合は東京日日)と大阪版(芥川の場合は大阪毎日)の両方に掲載された新聞小説においては、漱石の場合もそうであったが、両者間に認められる本文の異同がいつも問題となる。漱石の場合は、初期の数作品を除きほとんどの自筆原稿が東京朝日へ送られ、東京版がまずそこで組まれた。大阪版は、自筆原稿そのものからではなく、東京から送られたゲラ刷りをもとに製作されたと推定される。芥川の場合はこれとは逆で、自筆原稿が先に大阪へ送られそこで大阪版が組まれ、東京版は大阪版のゲラ刷りから製作されのではないかと思われる。その場合東京版は大阪版のリプリントということになる。芥川の単行本は、漱石の単行本と同じく東京版を底本にしているようなので、漱石の単行本に比べても自筆原稿からさらに一歩離れた本文ということになり、それだけ多くの問題を抱えることになる。芥川の新聞小説においては、その点からも初出新聞原紙の重要性が高まるのである。
※この「新聞初出本文の意義と問題点」の解説は、「新聞小説」の解説の一部です。
「新聞初出本文の意義と問題点」を含む「新聞小説」の記事については、「新聞小説」の概要を参照ください。
- 新聞初出本文の意義と問題点のページへのリンク