救助袋の降下検証実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 22:45 UTC 版)
「千日デパート火災」の記事における「救助袋の降下検証実験」の解説
1972年6月13日午後、大阪府警捜査一課・南署特別捜査本部は、千日デパートビル火災に関して防火管理者の刑事責任を追及するため、7階「プレイタウン」に設置されている救助袋の機能を確認する降下検証実験を火災現場で実施した。同救助袋は、火災発生直後から様々な欠陥があることは既に判明していた。例えば救助袋の入り口付近にネズミによって齧られてできたと推定される大きな穴が数か所開いていたり、出口先端部分が地上へ投下された際に機能する「誘導用の砂袋」が取り付けられていなかったりという欠陥である。救助袋自体も1952年に設置された古い器具であり、保守管理もされていなかったことから老朽化が指摘されていた。降下検証実験では、火災の際に使用された実物の救助袋を地上に投下し、府警科学捜査研究所員および大阪市消防局員の立会いの下で実施された。先ず降下実験に先立って先端部分の砂袋が取り付けられるロープを検証したところ、長さがわずか「30センチメートル」しかないことが判明した。当該ロープは、地上誘導の役割だけではなく、地上で救助を補助する者がロープを手繰り寄せて救助袋に適切な張りと角度を付けるための機能もあることから、最低でも救助袋と同じ程度の長さが必要とされている。プレイタウンの救助袋は31.35メートルの長さがあることから、降下実験に際しては「50メートル」の長さのロープを出口先端に取り付けてから実験が開始された。地上に投下されたプレイタウンの救助袋は、係員によってロープを引っ張り、十分に展張させた。ところが地上から7階までの高さ25.5メートルに対して袋の長さが「31.35メートル」では出口付近の地面に対する傾斜角度が「55度(ビル壁面基準では35度)」と、かなり急になることが判明した。理想の角度は「45度(地面基準)」よりも緩くなることが望ましいとされているなかでは、プレイタウンの救助袋は安全に脱出できる状態からは程遠かったのは明らかである。45度の傾斜角度にするためには、救助袋の長さは最低でも36メートルよりも長くする必要があったが、プレイタウンの救助袋は、1963年に移動式から固定式へ改造された際に入り口側を「5メートルから6メートル」切断していた。 実際の降下実験の段階では、出口を6人の係員が把持し、7階から人間に見立てた「2種類の土嚢(重さ30キログラムと60キログラム)」を救助袋の中に入れて投下した。出口を既定人数の6人で支えても、地上からの出口の高さは1.5メートルよりも低くならず、55度の急傾斜の影響で土嚢はわずか5秒弱で地上へ滑り落ち、出口から5メートルも飛ばされた。この実験からは、仮に袋の入り口が開いていて、避難者が袋の中を滑り降りたとしても安全に脱出できたかどうか確証が持てない結果となった。また土嚢を投下するたびに元から開いていた「穴」や「裂け目」が擦り切れたり、穴が更に広がったりする現象も確認され、出口では5回目の投下で「50センチメートルの新しい穴」が開いた。南署特捜本部は、以上の降下検証実験の結果から、デパートビルやプレイタウンの防火管理者が救助袋の点検や整備を怠っていたのは明らかであり、従業員が救助袋の使い方を知らなかったことが立証できたとして、関係者の刑事責任を追及する方針とした。
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