指数・対数法則の不成立
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 00:51 UTC 版)
正の実数に対する冪および対数に関する等式のいくつかは、複素数冪や複素対数がどのように一価函数として定義されようとも、複素数に対しては成り立たないことが起こる。 等式 log(bx) = x⋅log(b) は b が正の実数で x が実数のときにはいつでも成り立つ。しかし、複素対数の主枝(英語版)に対して i π = log ( − 1 ) = log [ ( − i ) 2 ] ≠ 2 log ( − i ) = 2 ( − i π 2 ) = − i π {\displaystyle i\pi =\log(-1)=\log \left[(-i)^{2}\right]\neq 2\log(-i)=2\left(-{\frac {i\pi }{2}}\right)=-i\pi } は反例になる。複素対数のどの枝を用いたかに関わらず、この等式には同様の反例が存在する。(この結果のみを使うものとすれば) log ( w z ) ≡ z ⋅ log ( w ) ( mod 2 π i ) {\displaystyle \log(w^{z})\equiv z\cdot \log(w){\pmod {2\pi i}}} であるとまでしか言えない。 この等式は log を多価函数と考えるときでさえ成り立たない。log(wz) の取り得る値は z⋅log(w) の取り得る値を部分集合として含む。log(w) の主値を Log(w) とし、m, n を任意の整数とすると、両辺の取り得る値は { log ( w z ) } = { z ⋅ Log ( w ) + z ⋅ 2 π i n + 2 π i m } {\displaystyle \{\log(w^{z})\}=\{z\cdot \operatorname {Log} (w)+z\cdot 2\pi in+2\pi im\}} { z ⋅ log w } = { z ⋅ Log ( w ) + z ⋅ 2 π i n } {\displaystyle \{z\cdot \log w\}=\{z\cdot \operatorname {Log} (w)+z\cdot 2\pi in\}} である。 等式 (bc)x = bx⋅cx および (b/c)x = bx/cx は x が実数でさらに b と c が正の実数ならば成り立つ。しかし主枝を用いた計算で 1 = ( ( − 1 ) ( − 1 ) ) 1 2 ≠ ( − 1 ) 1 2 ( − 1 ) 1 2 = − 1 {\displaystyle 1=((-1)(-1))^{\frac {1}{2}}\neq (-1)^{\frac {1}{2}}(-1)^{\frac {1}{2}}=-1} および i = ( − 1 ) 1 2 = ( 1 − 1 ) 1 2 ≠ 1 1 2 ( − 1 ) 1 2 = 1 i = − i {\displaystyle i=(-1)^{\frac {1}{2}}=\left({\frac {1}{-1}}\right)^{\frac {1}{2}}\neq {\frac {1^{\frac {1}{2}}}{(-1)^{\frac {1}{2}}}}={\frac {1}{i}}=-i} が反例として示される。他方、x が整数のときには任意の非零複素数に対して成り立つ。複素数冪を多価函数として考えれば、((−1)(−1))1/2 の取り得る値は {1, −1} で、等式は成り立つが {1} = {((−1)(−1))1/2} と言うことは間違っている。 等式 (ex)y = exy は x と y が実数であるときには成り立つが、任意の複素数に対して正しいと仮定すると、Clausen et al. (1827)の発見した.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}任意の整数 n に対して、 e 1 + 2 π i n = e 1 e 2 π i n = e ⋅ 1 = e {\displaystyle e^{1+2\pi in}=e^{1}e^{2\pi in}=e\cdot 1=e} ( e 1 + 2 π i n ) 1 + 2 π i n = e {\displaystyle (e^{1+2\pi in})^{1+2\pi in}=e} e 1 + 4 π i n − 4 π 2 n 2 = e {\displaystyle e^{1+4\pi in-4\pi ^{2}n^{2}}=e} e 1 e 4 π i n e − 4 π 2 n 2 = e {\displaystyle e^{1}e^{4\pi in}e^{-4\pi ^{2}n^{2}}=e} e − 4 π 2 n 2 = 1 {\displaystyle e^{-4\pi ^{2}n^{2}}=1} を得るが、これは n が 0 でないとき誤りである。 という不合理が生じる。この推論にはいくつも問題がある: 主な誤りは、二行目から三行目に行くときに冪の順番を変えることで選ばれる主値が変わることである。 多価函数の視点から見ると、最初の誤りは更に早く起きている。一行目で暗に e は実数としているにも拘らず、e1+2πin の結果は複素数であり、e + 0i と書いたほうがよい。二行目を実数ではなくこの複素数で置き換えることで、そこでの冪が取れる値を複数持つようになる。二行目から三行目で指数の順番を変えたことも、取りうる値の数に影響を及ぼす。(ez)w ≠ ezw だが、整数 n にわたって多価な意味で (ez)w = e(z+2πin)w としたほうがよい。
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