成熟過程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/18 17:14 UTC 版)
新たに形成されたファゴソームは、それ自体が殺菌作用を持っているのではない。ファゴソームは成熟するにつれて、pH 6.5からpH 4へと酸性化し、特徴的なタンパク質マーカーや加水分解酵素を獲得していく。酵素によって至適pHは異なるため、それぞれ成熟過程の狭い段階で機能するようになっている。酵素の活性がpHの変化によって微調整されることで、ファゴソームによる処理の柔軟性は増大する。ファゴソームは細胞骨格の微小管に沿って移動し、動的なkiss-and-run機構によって逐次的にエンドソームやリソソームと融合する。この細胞内輸送はファゴソームのサイズに依存している。大きなもの(直径約3 μm)は常に細胞の周縁部から核周辺領域へ向かって輸送されるの対し、より小さなもの(直径約1 μm)は細胞の中心部と周縁部の間で双方向に輸送される。V-ATPase(英語版)はファゴソーム内を酸性化するために運搬され、病原体にとって厳しい環境を作り出し、タンパク質の分解を促進する。細菌のタンパク質は低いpHでは変性し、それによってプロテアーゼがアクセスしやすくなる。こうしたプロテアーゼは酸性環境の影響を受けない。酵素は細胞外への排出の前にファゴリソソームからリサイクルされ、廃棄されることはない。ファゴソームが成熟するにつれて、リン脂質膜の組成も変化する。 ファゴソームの融合には、その内容物によって数分から数時間かかる。FcRやマンノース受容体を介した融合は30分以内に終了するのに対し、ラテックスビーズを含むファゴソームがリソソームと融合するのには数時間かかる場合がある。ファゴソーム膜の組成が成熟の速度に影響を与えることが示唆されている。結核菌M. tuberculosisは非常に疎水的な細胞壁を持っており、これが膜のリサイクリングや融合因子のリクルートを防いでいると考えられている。その結果ファゴソームはリソソームと融合せず、微生物は分解を免れる。 小さな内腔側分子は大きな分子よりも融合によって速く移行する。このことは、ファゴソームと他の小胞とのkiss-and-runの過程では小さな水性チャネルが形成され、限定的な物質交換のみが行われていることを示唆している。
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