応力集中
(応力集中係数 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/03 06:19 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動応力集中(おうりょくしゅうちゅう、英: stress concentration)とは、物体の形状変化部で局所的に応力が増大する現象である[1]。機械・構造物の疲労破壊や脆性破壊では、この応力集中を起こす部分が破壊の起点となることが多い。
概要
物体に力が負荷されると、物体内部に応力が発生する。一般に、内部の応力の分布は一様ではなく、力の負荷の仕方や物体の形状によって、応力は場所ごとに変化する。特に、孔や溝、段といった一様な形状が変化する部分では応力分布が乱れ、形状変化部の前後に比べて局所的に応力が増大する。このような現象を応力集中と呼び、応力集中を起こす箇所を応力集中部あるいは切欠きと呼ぶ。
以下に代表的な応力集中が問題になる事例を示す。
- 物体の外形が変化する場合(例:段や溝のような局所的なものから、外板の形状変化部のような骨組みの変化まで)
- 物体に空洞が存在する場合(例:貫通穴や材料中の空洞欠陥)
- 集中荷重を受ける場合(例:荷重を受ける範囲が十分に小さいと見なせる場合)
- 別の物体の接触(例:ヘルツの接触応力)
- 材料の弾性率が異なる物質が介在する場合(例:金属材料に含まれる非金属介在物)
応力集中がどの程度起こるかは、弾性力学、塑性力学といった個体力学理論による応力分布の解析により解明される。しかし、応力分布の厳密解が判明している問題は限られており、特に3次元問題の解析は2次元問題よりも非常に難しく、厳密解が得られる問題は非常に限られている[2]。そのため、実際の複雑な形状の応力分布を計算する方法としては、有限要素法(FEM)による数値解析が行われている。また、実物で応力分布を計測する方法としては、光弾性応力測定、熱弾性応力測定、ひずみゲージによる応力測定がある。
応力集中部あるいは切欠きは応力が高まることから破壊の起点となり易い。疲労破壊では切欠きから発生したき裂が進展して破壊に至ることが多い。切欠きが存在する場合は、存在しない場合よりも疲労強度が低くなり、このような効果を切欠き効果と呼ぶ。脆性破壊においても、切欠きの存在により脆性破壊が起き易くなる。鉄鋼のような延性材料でも切欠きの存在により脆性的な破壊を起こすことがあり、このような現象を切欠脆性と呼ぶ[3]。
応力集中係数
応力集中の度合いを表すために、応力集中による最大応力を基準となる応力で除した応力集中係数(stress concentration factor)を用いる。
-
遠方から一様な引張応力を受ける無限板に存在する円孔について、最大応力を含む線上での垂直応力分布は次式で与えられる[10]。
-
遠方から長軸に垂直な一様引張応力を受ける無限板に存在する楕円孔について、最大応力を含む線上での応力分布は次式で与えられる[11]。
-
理想的な円孔や楕円孔と異なる複雑な形状の孔や切欠きの応力集中係数を簡易に近似計算するために、等価楕円(equivalent ellipse)の考え方が平野により考案された[13]。等価楕円の考え方では、板中の孔に対しては孔の曲率半径ρと孔の全長2aと等しい楕円を、板縁切欠きに対しては切欠き底半径ρと切欠き深さaと等しい楕円を当てはめて応力集中係数を推定する。すなわち、これら2つのパラメータが応力集中に対しては影響が大きく、他の形状要素(例えば切欠きの開き角など)の影響は相対的に小さいと考える方法である[14]。
等価楕円による推定は万能ではなく、例えば、大きな孔縁にある非常に小さな切欠きの応力集中では、等価楕円による推定値は正確な応力集中係数値から大きく外れる[15]。ただし、上手く使用すれば実用上十分な近似値を推定できる。例えば遠方で引張を受ける無限板縁のV形切欠きの場合では、開き角がθ = 90°、切欠き深さと切欠き底半径の比がa/ρ = 4のときで、正確な数値計算結果ではKt = 5.274、等価楕円による計算ではKt = 5である[16]。
き裂の応力集中
き裂の応力集中は楕円孔の短長をb → 0とした極限として考えることができる。遠方からき裂に垂直な一様引張応力を受ける無限板に存在する貫通直線き裂について、き裂延長線上での応力分布は次式で与えられる[17]。
-
-
応力集中係数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/03 06:19 UTC 版)
応力集中の度合いを表すために、応力集中による最大応力を基準となる応力で除した応力集中係数(stress concentration factor)を用いる。 K t = σ m a x σ n {\displaystyle K_{t}={\frac {\sigma _{max}}{\sigma _{n}}}} ここで Kt:応力集中係数 σmax:応力集中部の最大応力 σn:公称応力 応力集中係数の他に形状係数(shape factor)とも呼ぶ。記号としては K t {\displaystyle K_{t}} や α {\displaystyle \alpha } が用いられる。 公称応力は応力集中係数を定義するための基準の応力で任意に定義されるものである。公称応力の取り方としては大きく3つの取り方がある。 穴などの応力集中要素がある場合、これらの要素により母体の断面そのものが減少し、応力分布の乱れによる応力集中とは別に正味断面積の平均応力が高まるが、この平均応力で公称応力を定義する場合。 応力集中要素による減少断面積を使わずに定義する公称応力。応力集中部手前の一様形状における遠方応力を使用する場合。 応力集中要素による最大応力を含む断面で定義するが、断面積の計算する際には応力集中要素は存在しない(切欠きが埋まっている)場合の断面積を使用する場合。 ハンドブックや教科書などに種々の場合の応力集中係数がまとめられているが、公称応力の取り方に注意して利用する必要がある。
※この「応力集中係数」の解説は、「応力集中」の解説の一部です。
「応力集中係数」を含む「応力集中」の記事については、「応力集中」の概要を参照ください。
- 応力集中係数のページへのリンク