小澤の関係式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/07 08:14 UTC 版)
小澤正直は、(当初のハイゼンベルクの思考実験では混同されており、ボーアが指摘している)測定限界や測定することによる対象の擾乱や測定誤差と、量子自体の性質(不確定性関係)による量子ゆらぎを厳密に区別した式(小澤の不等式)を提案した。式の形は、ハイゼンベルクの式に補正項を付け加えた形になる。さらに、その式に従えば(従来のハイゼンベルクの式に従って信じられていた)「ハイゼンベルクの不確定性原理による測定の限界」を超えて、量子に対する精度の良い測定が可能であると、2003年1月に発表した(この結果につながった論争は、1980年代に、重力波検出装置の可能性と限界を巡って始まったものである)。オブサーバブル O {\displaystyle {\mathcal {O}}} の測定の誤差(すなわち精度)を ϵ O {\displaystyle \epsilon _{\mathcal {O}}} 、測定過程による撹乱を η O {\displaystyle \eta _{\mathcal {O}}} 、量子ゆらぎを σ O {\displaystyle \sigma _{\mathcal {O}}} とすると以下の不等式が成り立つ。 ϵ A η B + ϵ A σ B + σ A η B ≥ | 1 2 i ⟨ [ A ^ , B ^ ] ⟩ | {\displaystyle \epsilon _{A}\eta _{B}+\epsilon _{A}\sigma _{B}+\sigma _{A}\eta _{B}\geq \left|{\frac {1}{2i}}\langle [{\hat {A}},{\hat {B}}]\rangle \right|} 位置と運動量の測定の関係を小澤の不等式に当てはめると、 ϵ P η Q + ϵ P σ Q + σ P η Q ≥ ℏ 2 {\displaystyle \epsilon _{P}\eta _{Q}+\epsilon _{P}\sigma _{Q}+\sigma _{P}\eta _{Q}\geq {\frac {\hbar }{2}}} となる。この改良された不等式から見ると、1927年に発表されたハイゼンベルクの不確定性原理は上式の第1項についてのみ述べていたということになる。 小澤の不等式が示す測定誤差(左辺の第1項)の下限は、ハイゼンベルクの不等式が示していた測定誤差下限よりも第2項、第3項の分だけ小さい。このことは、ハイゼンベルクの不等式が示した限界よりも精度の良い測定ができる可能性を示唆しており、実際にそのような小澤の不等式を実証する実験結果が2012年に発表された。この実験では原子炉から出る中性子のスピン角度を2台の装置によってはかり、ハイゼンベルクの不等式の限界を超えて精度よく測定することに成功したと発表された。
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