大気中へ放出された放射性物質の評価
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/24 03:10 UTC 版)
「国際原子力事象評価尺度」の記事における「大気中へ放出された放射性物質の評価」の解説
放出された放射性物質の重大性を評価するために、各核種の放射能の等価性を評価するための換算率を与えるという方法が用いられる。ヨウ素の総線量因子を基準として、それぞれの核種の倍率係数(ヨウ素換算倍率係数/放射線学的ヨウ素等価増倍係数; Multplication Factor for Radiological Equivalence to I-131)が規定されている。 総線量因子(Dtot/(Q.X))は地表からの線量係数と吸引による線量係数の二つを合わせたものである。地表からの線量係数は土壌堆積物から50年積算で求めた線量因子(Dgnd [Sv/Bq・m-2])と堆積速度(Vg: deposition velocity)の積で表され、吸引による線量係数は吸引線量因子(Dinh)と呼吸率(breathing rate)の積で表される。 Dtot/(Q・X) = Dinh・breathing rate + Vg・Dgnd チェルノブイリ原子力発電所事故や福島第一原子力発電所事故では、短寿命核種でありながら甲状腺癌への影響が懸念されるヨウ素131に加えて、揮発性で長寿命核種であるセシウム137をヨウ素換算した値の二つの合計値が放射能の放出量として、比較のために取り上げられることがある。たとえば、チェルノブイリ原発事故によって放出された放射能は、ヨウ素131が1800ペタベクレル、セシウム137がヨウ素換算で3400ペタベクレル、合計、5200ペタベクレルという値が報道されている。 補足:京都大学の門信一郎准教授(当時東京大学)は事故当時のINESユーザーマニュアルに掲載されているセシウム134の増倍係数が間違っていることを見出した。著書によると、Dgndとして採用したデータベースが1桁間違っており、その間違った値を用いて増倍係数が評価されていたためである。IAEAに訂正依頼が出され、現行版(INES 2013年英語版)では最終結果のみ、3から17(1桁に丸める指針だと20が正しい)へ変更されている。正しい値を用いて評価し直した結果を→の後に記載する。 核種総線量因子[Sv/(Bq・s・m-3 )]ヨウ素換算倍率係数放射性物質の放出量チェルノブイリ原発事故福島第一原発事故放射能[1015Bq]ヨウ素換算 [1015Bq]放射能 [1015Bq]ヨウ素換算 [1015Bq]241Am4.17×10-8 8000 60Co2.65×10-10 50 134Cs1.43×10-11 →8.31×10-11 3→20 ∼47 141→940 18 54→360 137Cs2.08×10-10 40 ∼85 3400 15 600 3H8.58×10-14 0.02 131I5.14×10-12 1 ∼1760 1760 160 160 192Ir8.78×10-12 2 54Mn2.15×10-11 4 Mo4.18×10-13 0.08 >72 5.76 0.000000088 7.04×10-9 32P1.13×10-12 0.2 239Pu5.24×10-8 10000 0.013 130 0.0000032 0.032 106Ru2.90×10-11 6 >73 438 0.0000021 1.26×10-6 90Sr8.43×10-11 20 ∼10 200 0.14 2.8 132Te1.7×10-12 0.3 ∼1150 345 0.76 0.228 235U (S)5.06×10-9 1000 235U (M)3.27×10-9 600 235U (F)2.42×10-9 500 238U (S)4.74×10-9 900 238U (M)3.06×10-9 600 238U (F)2.27×10-9 400 U nat6.12×10-9 1000 希ガス 85Kr 0 33 0 133Xe 0 6500 0 11000 0 合計 6420→7219 817→1123
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