問題の内容と経緯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/07 17:05 UTC 版)
「ヒルベルトの第12問題」の記事における「問題の内容と経緯」の解説
まずアーベル拡大について簡単にふれる。ガロアにより、今日ではガロア群と呼ばれる群が体の拡大を制御することが明らかになった。ガロア群が可換、すなわちアーベル群である場合をとくにアーベル拡大という。たとえば有理数体に n {\displaystyle {\sqrt {n}}} をつけ加えてえられる拡大は、そのガロア群が {1, −1} となりアーベル群である。このような体を二次体とよび、ガウスはすべての二次体はある円分体に含まれることを示した。二次体ではなくより一般のアーベル拡大についても クロネッカー・ウェーバーの定理により有限アーベル拡大体はある円分体に含まれることが示される。 クロネッカー(とヒルベルト)の問題は、有理数体のアーベル拡大ではなく一般的な代数体 K のアーベル拡大はどのように構成できるかを問うている。この問題については、K が虚二次体のとき、もしくはその一般化であるCM体のときに解答があたえられる。クロネッカー・ウェーバーの定理は次のようにいいかえることができる。指数函数の特殊値 exp(2πi/n) を全てつけ加えた拡大を考えると有理数体 Q の最大アーベル拡大を得ることができる。ヒルベルトの第12番目の問題は、指数函数をより一般化したような関数を考え、その特殊値が一般的な代数体 K の最大アーベル拡大 Kab を生成することが可能かどうかを問う問題と解釈できる。Kが虚二次体 Q(τ) の場合には虚数乗法論によりその最大アーベル拡大はモジュラ函数 j(τ) と楕円函数 ℘(τ, z) の特殊値(対応する楕円曲線の等分点における値)と 1のべき根を全てつけ加える事で得られることがわかる。これが虚二次体に対するヒルベルトの問題への解答である。さらに虚二次体の高次元化ともいえるCM体に対する結果は志村五郎により得られた。 ヒルベルトの第12問題の元々の設定は少し不正確な点がある(というか、ヒルベルトが正確にはどのような意図を述べたのかはわからない)ので、それについて注意する。問題の主張は「虚二次体のアーベル拡大は楕円(モジュラ)函数の特殊値により生成される」であるように思われる。まず実際には アーベル拡大を生成するには1のべき根を使うことも必要となる(ヒルベルトは暗にそのつもりで言ったかもしれない)。より重要なのは、楕円モジュラ函数の値がヒルベルト類体を生成するのに対して、より一般のアーベル拡大に対しては楕円函数の値を使う必要もある点である(この問題点は、ヒルベルトがヴァイヤシュトラスの楕円函数 ℘ と楕円モジュラー函数 j のどちらも「楕円函数」と呼んでいて生じたことかもしれない)。例えば、アーベル拡大 Q ( i , 1 + 2 i 4 ) / Q ( i ) {\displaystyle \mathbf {Q} (i,{\sqrt[{4}]{1+2i}})/\mathbf {Q} (i)} は、特異モジュライと 1のべき根によっては生成されない。 絶対アーベル拡大体 Kab の記述は類体論によって得られる。類体論はダフィット・ヒルベルト自身と、エミル・アルティンと20世紀前半の他の人々により開拓された。特に、高木貞治は、絶対アーベル拡大体が存在することを証明した。高木の存在定理を参照。しかしながら、類体論の中で Kab を具体的に構成することは、最初にクンマー理論を使いより大きな非アーベル拡大を構成し、それからアーベル拡大へ落とし込むことでなされるので、従ってアーベル拡大のより具体的な構成方法を問うているヒルベルトの問題の解には至っていない。
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