千原しのぶとは? わかりやすく解説

千原しのぶ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/13 23:54 UTC 版)

千原しのぶ(1955年)

千原 しのぶ(ちはら しのぶ、1931年1月16日 - 2009年11月22日[1])は、日本女優。本名、石原知子(いしはら ともこ)[2]岡山県久米郡久米町(現・津山市)出身[2][3]

来歴・人物

父は中日新聞の前身・新愛知記者[2]、父の転勤に伴い、小学校石川県金沢市福井県敦賀市長野県松本市と3度転校した[2]岡山県美作高等学校に進学し[2]、将来は日舞で身を立てようと考えていたが[2]、同校卒業後、フルーツパーラーでアルバイトをしながら日舞の稽古に励んでいたある日、父が親交のあった片岡千恵蔵に会い[2]、片岡の推薦で1952年東映に入社[2][4]

千恵蔵のお声がかりという看板はあまりの効き目で[2]、ズブの素人だったにもかかわらず、次々にお呼びがかかった[2]。千恵蔵主演の『忠治旅日記・逢初道中』でデビュー。ちょうど時代劇の黎明期にあたり[2]、アッという間に東映時代劇に欠かせぬ女優となる[2]月形龍之介東千代之介大川橋蔵らの相手役もつとめた。東映の「お姫様女優」の一人として活躍[4]。町娘、武家娘、ヤクザの娘、女房、芸者、鳥追いと時代劇のあらゆる役柄を演じながら、細面に古風な美貌の持ち主の千原は、着実に演技力も身に着けてゆく[2]1953年『大菩薩峠 甲賀一刀』に披擢され、シリーズに出演。1954年 - 1956年まで60本の映画に出演する[2]1957年の『暴れん坊街道』では飯盛女に扮し、つかの間の愛に燃え尽くす女の情炎を演じきり[2]、『仇討崇禅寺馬場』でも、男を殺してともに死んでゆく女の哀しみを捨て身で演じきり、この2作で第4回京都市民映画祭助演女優賞に輝いた[2]。しかし1958年頃から、丘さとみ大川恵子桜町弘子ら若手女優陣がグングン抬頭し、以降脇役に回る[2]

1957年1月13日、同1月20日から1月25日まで開催された日本映画見本市に出席のため、団長の東映社長の大川博らと共にニューヨークへ出発。当時はまだ海外渡航自由化の遥か前で、大変貴重なニューヨーク訪問となった。

1963年は東映の製作方針が、時代劇映画からヤクザ路線へ大転回を遂げた年で[2]、当時、東映東京撮影所の所長だった岡田茂が『人生劇場 飛車角』をプロデュースし、大ヒット[5][6]。岡田が1964年東映京都撮影所所長として京都に帰還すると時代劇を切り捨て、京都でもヤクザ路線を敷いた[5][6][7]。時代劇に携わってきた人たちの誇りは無惨に踏みにじられた[2]。雪崩をうったように、陽の当たる場所へ逃げ出してゆく映画人の大移動を横目に見ながら、可憐な町娘はひたすら因業おやじにシマを追われた恋人(時代劇)の帰りを待ち続けた[2]。1年、そして1年、仕事は目に見えて減ってゆく[2]。もしもこのとき、千原が上手く時流に乗っていたら、今よりもずっと有名だったろうといわれる[2]。町娘は京都を愛しすぎていた[2]。しかし町娘はついに因業おやじのいうことを聞いた[2]。それが1973年の『山口組三代目[2]

千原には商才もあり、京都で喫茶店、割烹、うなぎ処と手広く経営したが[2]、体調を崩し全て閉店した[2]関西の政財界専門誌『報道ニッポン』のインタビュアーの仕事を通じて知り合った沖縄の女事業家に勧められ[2]、1974年に那覇市で「高級おりじなる呉服・しのぶ好み」を妹夫婦と3人で立ち上げ、那覇の国際通りの近くで呉服店を開いた[2]。のちに京都市で高級オリジナル呉服を扱う「しのぶ好み」を経営。呉服デザイナーとしても有名になり[2]茶道具の店『千原』もオープンさせた[2]

1978年に東映が時代劇復活の狼煙を上げた『柳生一族の陰謀』は映画館に観に行き、声を殺して泣いたという[2]。1993年に相米慎二監督の『お引越し』、1995年に『南京の基督』で久々に映画に出演した。

全日本書芸学院副理事[2]。1981年12月に名取になり、藤間勘しのぶとなった[2]

2009年6月、「中村錦之助(萬屋錦之介)十三回忌 錦之助映画祭りin京都Part2」のゲストで登場し、車椅子で酸素呼吸器をつけながらも元気な姿を見せたが、それから5ヶ月後に肺がんのため死去[1][4]。千原の自宅は京都市左京区浄土寺真如町の高台にあり[2]、先の妹夫婦とその子(千原の甥)の4人で同居[2]。五十路を越えてからは、仕事と芸事以外でここを離れることはなかった[2]。生涯独身だった[2]

出演作品

千原しのぶ(右)
『里見八犬伝 第二部 芳流閣の龍虎』(昭和29年、東映)。左は東千代之介

映画

  • 忠治旅日記 逢初道中(1952年)
  • 大菩薩峠 甲賀一刀流の巻(1953年)
  • 大菩薩峠 第二部 壬生と島原の巻 三輪神杉の巻(1953年)
  • 大菩薩峠 第三部 竜神の巻 間の山の巻(1953年)
  • 片目の魔王(1953年)
  • 青空大名(1953年)
  • 南国太平記(1954年)
  • 真田十勇士 忍術猿飛佐助 忍術霧隠才蔵 忍術腕くらべ(1954年)
  • 続南国太平記 薩南の嵐(1954年)
  • 水戸黄門漫遊記 女郎蜘蛛の巻 妖血復讐鬼の巻 破邪義剣の巻(1954年)
  • 血ざくら判官(1954年)
  • 悪魔が来りて笛を吹く(1954年)
  • 里見八犬伝 第二部 芳流閣の龍虎(1954年)
  • 母恋人形(1954年)
  • 唄ごよみいろは若衆(1954年)
  • 犬神家の謎 悪魔は踊る(1954年)
  • 続水戸黄門漫遊記 地獄極楽大騒ぎ(1954年)
  • 快傑まぼろし頭巾(1954年)
  • 三日月童子 第一篇 剣雲槍ぶすま(1954年)
  • 三日月童子 第二篇 天馬空を征く(1954年)
  • 三日月童子 完結篇 万里の魔境(1954年)
  • 竜虎八天狗 第一部 水虎の巻(1954年)
  • 竜虎八天狗 第二部 火龍の巻(1954年)
  • 竜虎八天狗 第三部 鳳凰の巻(1954年)
  • 竜虎八天狗 完結篇 追撃の巻(1954年)
  • 新選組鬼隊長(1954年)
  • 水戸黄門漫遊記 闘犬崎の逆襲(1954年)
  • さいざんす二刀流(1954年)
  • 月笛日笛 第一篇 月下の若武者(1955年)
  • 月笛日笛 第二篇 白馬空を飛ぶ(1955年)
  • 越後獅子祭 やくざ若衆(1955年)
  • 月笛日笛 完結篇 千丈ケ原の激斗(1955年)
  • まぼろし小僧の冒険 第一篇 平家部落の黄金(1955年)
  • まぼろし小僧の冒険 第二篇 天狗ケ池の激斗(1955年)
  • 水戸黄門漫遊記 第五話 火牛坂の悪鬼(1955年)
  • 天兵童子 第一篇 波濤の若武者(1955年)
  • 天兵童子 第二篇 高松城の蜜使(1955年)
  • ふり袖侠艶録(1955年)
  • 天兵童子 完結篇 日の丸初陣(1955年)
  • 夕焼童子 第一部 出羽の小天狗(1955年)
  • 御存じ快傑黒頭巾 新選組追撃(1955年)
  • 夕焼童子 第二部 暁の槍騎隊(1955年)
  • 旗本退屈男 謎の伏魔殿(1955年)
  • まぼろし小僧の冒険 たつまきの決戦(1955年)
  • まぼろし小僧の冒険 仁王坂の追撃(1955年)
  • 幻術影法師(1955年)
  • 幻術影法師 快剣士梵天丸(1955年)
  • 獅子丸一平(1955年)
  • 続獅子丸一平(1955年)
  • 荒獅子判官(1955年)
  • 水戸黄門漫遊記 幽霊城の佝僂男(1955年)
  • 雄呂血の秘宝(1955年)
  • 雄呂血の秘宝 完結後篇(1955年)
  • 忍術左源太(1956年)
  • 晴姿一番纏(1956年)
  • 赤穂浪士 天の巻 地の巻(1956年)
  • 狸小路の花嫁(1956年)
  • 獅子丸一平 第三部(1956年)
  • 続源義経(1956年)
  • 水戸黄門漫遊記 怪力類人猿(1956年)
  • 剣法奥儀 飛剣鷹の羽(1956年)
  • 長脇差奉行(1956年)
  • 悲恋 おかる勘平(1956年)
  • 剣法奥儀 二刀流雪柳 (1956年)
  • 江戸三国志 第一部(1956年)
  • 江戸三国志 疾風篇(1956年)
  • 若様侍捕物帳 魔の死美人屋敷(1956年)
  • 怪談 千鳥ケ淵(1956年)
  • 水戸黄門漫遊記 怪猫乱舞(1956年)
  • 水戸黄門漫遊記 人喰い狒々(1956年)
  • 忍術快男児(1956年)
  • 海の百万石(1956年)
  • 危し!獅子丸一平(1956年)
  • やくざ大名(1956年)
  • 獅子丸一平 完結篇(1956年)
  • 魔像(1956年)
  • 新諸国物語 七つの誓い 黒水仙の巻(1956年)
  • 新諸国物語 七つの誓い 奴隷船の巻(1957年) 
  • 新諸国物語 七つの誓い 凱旋歌の巻(1957年) 
  • 暴れん坊街道(1957年)
  • 源氏九郎颯爽記 濡れ髪二刀流(1957年)
  • 鞍馬天狗 角兵衛獅子(1957年)
  • 鞍馬天狗 御用盗異聞(1957年)
  • 喧嘩道中(1957年)
  • ふたり大名(1957年)
  • 仇討崇禅寺馬場(1957年)
  • 阿波おどり 鳴門の海賊(1957年)
  • 水戸黄門(1957年)東映京都 - 掏摸お六
  • 若さま侍捕物帳 鮮血の人魚(1957年)
  • 佐々木小次郎 後篇(1957年)
  • はやぶさ奉行(1957年) お景
  • 任侠東海道(1958年)
  • 神変麝香猫(1958年)
  • 千両獅子(1958年)
  • 旅笠道中(1958年)
  • 大江戸七人衆(1958年)
  • 伊那の勘太郎(1958年)
  • 血汐笛(1958年)
  • 新選組(1958年)
  • 若君千両傘(1958年)
  • 旗本退屈男(1958年)
  • 紫頭巾(1958年)
  • いろは若衆 ふり袖ざくら(1959年)
  • 忠臣蔵 桜花の巻 菊花の巻(1959年)
  • ふたり若獅子(1959年)
  • 怪談一つ目地蔵(1959年)
  • 雪之丞変化(1959年)
  • 壮烈新選組 幕末の動乱(1960年)
  • 次郎長血笑記 秋葉の対決(1960年)
  • 次郎長血笑記 殴り込み道中(1960年)
  • 砂絵呪縛(1960年)
  • 桃太郎侍 江戸の修羅王(1960年)
  • 桃太郎侍 南海の鬼(1960年)
  • 次郎長血笑記 富士見峠の対決(1960年)
  • 神田祭り 喧嘩笠(1960年)
  • 妖刀物語 花の吉原百人斬り(1960年)
  • 次郎長血笑記 殴り込み荒神山(1960年)
  • 緋ぼたん浪人(1960年)
  • お奉行さまと娘たち(1961年)
  • 江戸っ子肌(1961年)
  • 赤穂浪士(1961年)
  • 忍術使いと三人娘(1961年)
  • 気まぐれ鴉(1961年)
  • 港祭りに来た男(1961年)
  • 千姫と秀頼(1962年)
  • 胡蝶かげろう剣(1962年)
  • 怪談三味線掘(1962年)
  • 紀州の暴れん坊(1962年)
  • 裏切者は地獄だぜ(1962年)
  • 恋と十手と巾着切(1963年)
  • 伝七捕物帖 女狐小判(1963年)
  • 右京之介巡察記(1963年)
  • 人斬り笠(1964年)
  • 暗黒街大通り(1964年)
  • 悪坊主侠客伝(1964年)
  • 山口組三代目(1973年)
  • ちゃんばらグラフィティー 斬る!(1981年)
  • お引越し(1993年)
  • 南京の基督(1995年)

テレビドラマ

脚注

  1. ^ a b 時代劇で活躍…千原しのぶさん死去”. Sponichi Annex. スポーツニッポン (2009年11月23日). 2024年11月22日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al シリーズ・人間追跡 東映時代劇の超売れっ子女優だった千原しのぶさん(51歳)は独身を保ちつつ、女事業家として大成功! でもスクリーンへの想い断ちがたく…」『週刊平凡』1982年3月4日号、平凡出版、113–116頁。 
  3. ^ 任侠劇、時代劇を皮切りに 骨のある映画人を育てた土壌 尾上松之助、八名信夫やオダギリジョーを輩出した岡山県”. Wedge ONLINE. 株式会社ウェッジ (2010年8月2日). 2024年11月22日閲覧。
  4. ^ a b c 「東映『お姫様女優』:千原しのぶさん78歳」 『毎日新聞』 2009年11月24日、13版、27面。
  5. ^ a b 歴史|東映株式会社〔任侠・実録〕(Internet Archive)
  6. ^ a b コラム|東映京撮・盟友対談② | 合同通信オンライン(Internet Archive)
  7. ^ 松島利行『風雲映画城』 下、講談社、1992年、121-125頁。ISBN 4-06-206226-7 

参考文献

  • 円尾敏郎、高橋かおる編『千原しのぶ』、2000年4月、ワイズ出版、ISBN 4-89830-021-9 C0074

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