分布と分化の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/10 15:50 UTC 版)
「シオダマリミジンコ属」の記事における「分布と分化の問題」の解説
日本のシオダマリミジンコでは地域による変異が見られる。これは他の海産のカイアシ類とは異なり、本種の分布が連続していないため、地理的な変異が生じたものと考えられる。 それを含め、この属の分布と遺伝的分化の問題は重視されている。一般に地理的な隔離は遺伝的な変異を、ひいては種分化を促すものと考えられる。本属の生態分布は上記のように潮上帯の潮溜まりである。このような環境は海岸では普遍的に見られるものであるが、岩礁海岸に独特のものであるため、砂浜が随所にあることによって不連続となる。その上に潮上帯であることから、海水によってそれらが行き来することが自由にならない。つまり、ここに研究者にごく身近な環境であり、容易に触れることが出来る生物において、ある程度隔離された個体群がある程度連続的に、しかも海岸線という線の上に配置するという、この問題についての研究対象として興味深い例が存在することになる。これについて個体群生態学や集団遺伝学の立場から多くの研究がある。 さらに、このような潮溜まりは小さいものであっても、その中で本属の動物が多数生息し、繁殖することが出来るから、1つの潮溜まりにいる個体の集合が1つの個体群をなすと見ることが出来る。すると1つの岩礁にある複数の水たまりは、それぞれにある程度隔離された個体群の集合、つまりメタ個体群と考えることが出来る。海岸の潮溜まりの生物の多くはこのように見ることが出来るが、潮間帯のそれは満潮時に内部が入れ替わる可能性が大きく、隔離の程度は低い。また陸を歩くなどして潮溜まり間を移動出来るものについてもこのように考えるのは難しい。その点、本属のものは潮溜まり間の移動が困難と考えられ、きわめて好適な研究対象である。個々の潮溜まりを島と見なせば、島嶼生態学的研究の対象ともなる。 例えばBurton and Feldman(1981)では、カリフォルニアシオダマリミジンコの生息する北アメリカ西岸、約300kmに渡る地域の各所のサンプルについて遺伝的変異を調べた。その結果、各所で高い確率で独特な遺伝子が存在していた。また、距離が0.5km程度であっても、切り離されて存在する岩礁では遺伝子頻度に明瞭な差が見られたが、その個々の岩礁の中では遺伝的均一性が高かった。これはつまり、この種では生息地のパッチである岩礁間での個体の行き来がごく少ないことを意味する。
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