個体適応度と遺伝的適応度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/22 02:56 UTC 版)
現在一般に用いられている定義としては、一般的には自然選択説の考えに立ち、より多く子供を残すものが選択されるのだから、「ある生物個体がその生涯で生んだ次世代の子のうち、繁殖年齢まで成長できた子の数」となる。動物学などのフィールドワークや実験では遺伝的適応度を計測することは困難であるため、この定義を近似値として用いる。これを個体適応度と呼ぶ。また子の実数で表す適応度のことを絶対適応度と呼ぶ。個体数が安定した環境では、平均的な絶対適応度は1である。しかし繁殖戦略によっては、次世代の子供の数が同じでも孫の数に差が出ることもある(「フィッシャーの原理」も参照)。そのためより正確な(厳密ではないが)表現としては「十分遠い将来のある世代に残った子孫の数」と言うことができる。 一方、遺伝的適応度は「ある形質をもたらす対立遺伝子(進化ゲーム理論の場合は戦略)が集団中に広まる速度」と言うことができる。たとえば二組のペアがおり、一方が遺伝子Xの影響で生涯に6匹の子をもうけたとする。もう一方は対立遺伝子Yの影響によって生涯に4匹の子をもうけたとする。この群れの平均産子数は (4 + 6) / 2 = 5 であり、Xの適応度は 6 / 5 = 1.2 となる。Yの適応度は 4 / 5 = 0.8 となる。この値を相対適応度と呼ぶ。集団遺伝学、数理生態学などで通常用いられるのは遺伝的適応度であり、相対適応度である。遺伝的適応度は個体適応度と一致しない場合がある。集団全体の相対適応度は常に1であり、相対適応度が1であればその遺伝子は広まりも減りもしないが、1より小さければ集団内で次第に数を減らし、1より大きければ次第に数を増す。値が大きければ大きいほど急速に広まる。この例ではXが増してゆく。
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