価格賠償
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/02 15:38 UTC 版)
代金分割と同じ場合で、どちらか一方の単有とし、他方には金銭などの財産的補償をすることができる。これが価格賠償である。 価格賠償は民法に規定が存在しないため、協議による分割の場合は契約自由の原則から認められるが、裁判による分割の場合は認められないとされてきた。しかし、判例は下記のような変遷をたどり、条件付きではあるが、全面的価格賠償(共有物を共有者のうち特定の者に取得させること)を認めるに至った。 部分的価格賠償、すなわち現物分割をしたが現物の価格に過不足が生じたときは、持分の価格以上に現物を取得する者に超過分の対価を支払わせて過不足の調整をすることもできるとした判例(最大判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁)が出た。 そして、1.共有物の性質及び形状・共有者の数及び割合・共有物の利用状況などを総合的に考慮し、全面的価格賠償が相当であると認められ、2.共有物の価格が適正に評価され、3.当該共有物を取得する者に支払能力があり、4.他の共有者にその持分の価格を取得させることが共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存在するとき、は全面的価格賠償も許されるとされた(最判平成8年10月31日民集50巻9号2563頁)。 土地の価格賠償による分割の場合は以下のようになる。 すべての土地が共有のケースA・B共有の一筆の土地につき、Aの単独所有としBには金銭補償をする場合、当該土地につきB持分全部移転登記をすればよい。 A・B共有の甲・乙両土地につき、甲土地についてはAの単独所有とし、乙土地についてはBの単独所有とする場合(登記研究442-84頁)、甲土地につきB持分全部移転登記をし、乙土地につきA持分全部移転登記をすればよい。 一筆の土地は単独所有であるケース甲土地はA・Bの共有だが、乙土地はAの単独所有である場合につき、甲土地をAの単独所有とし、乙土地をBの単独所有として補償することもできる。この場合、甲土地につきB持分移転登記をし、乙土地につき所有権移転登記をすればよい。 その他の実例持分と異なる割合で共有とする分割もできる(昭和44年4月7日民三426号回答)。例えば、A(持分5分の3)・B(持分5分の2)共有の土地を分筆し、一方はAの単独所有とし、もう一方の土地をA(持分5分の1)・B(持分5分の4)の共有とすることもできるという意味である。 A・B・C・D共有の土地を分筆し、一方をA・Bの共有とし、もう一方をC・Dの共有とすることもできる(登記研究143-49頁)。また、44名で共有している不動産につき、そのうち2名の共有とする持分移転登記の申請は受理される(登記研究367-136頁)。 一方、権利能力なき社団の代表者個人名義で所有権の登記がされている不動産につき、当該社団の他の構成員に対して共有物分割を原因とする所有権移転登記はすることができない(登記研究403-78頁)。 なお、分割の対象となる共有物が多数の不動産である場合、一括して分割の対象とし、分割後の各部分を各共有者の単独所有とすることも許される(最大判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁)。例えば、甲・乙両土地をそれぞれA・Bが2分の1ずつ共有している場合において、原則は甲・乙両土地をそれぞれ分割し、A・Bがそれぞれ甲土地を2分の1、乙土地を2分の1に分割したものを単独に所有するべきであるが、甲土地全部をAの単独所有に、乙土地全部をBの単独所有とすることもできるという意味である。これは現物分割ではなく、価格賠償(土地で補償した)とされている。
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