他の紅葉伝説との差異
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 06:14 UTC 版)
「北向山霊験記戸隠山鬼女紅葉退治之傳全」の記事における「他の紅葉伝説との差異」の解説
一般的に平維茂の紅葉退治の伝承は能の『紅葉狩』が基本であり、それに沿ったかたちのあらすじが流布している。そちらでは、戸隠山へ狩りに来た維茂が、紅葉狩りをしている身分の高い女の集団(正体が鬼)と遭遇し八幡神(石清水八幡宮)の加護をもって退治したというのが主な筋運びになっており、内容を比較すると『戸隠山鬼女紅葉退治之伝』は大幅に展開が異なることがわかる。豪華な紅葉見物の場面が存在しない点をはじめ、能や浄瑠璃などでは、平維茂が女たちに酒をすすめられ酔って眠ってしまう場面が著名な場面として登場するが、これも本作では登場しない。逆に自身の体をあたためるために紅葉が酒を飲んで眠っている。 「紅葉狩」では維茂を加護したのは八幡神であるが、『戸隠山鬼女紅葉退治之伝』では別所の北向観音であるとされた。これは、作者が別所周辺の人間であり、観光客を別所に呼び込むためであると考えられる。 平将門の残党との合流がなどが説かれている点も一般的な筋書との大きな差異である。戸隠山に紅葉たちが籠城する場面などは、酒呑童子の物語からの影響が大きいなどと考察されている。また、源経基およびその従者、平維茂の軍勢にしたがう武士たちの名称がひろく登場する点も大きな差異である。部分的にではあるが、維茂にしたがう武士の名として菰茨次郎(おもだかじろう)、金剛兵衛政景(こんごうひょうえまさかげ)という名は近松門左衛門による浄瑠璃『栬狩剣本地』に先行して見られる。紅葉は登場せず別の鬼が登場するものではあるが、戸隠山を舞台とする『戸隠山絵巻』では、鬼の大王が軍勢に対してさまざまな術を使っているなど本作で維茂の軍勢が戸隠山へ攻め寄せて以後の展開と共通する箇所も見られる。 他にも、滝沢馬琴の『傾城水滸伝』や『玉藻の草子』を参考にしたと見られる箇所も見受けられる。 このように、先行する作品を基本とした一般的な伝承との差異も多い本作であるが、鬼女「紅葉」のストーリーとして明治~平成にかけて、その部分部分が伝説として用いられ続けている。
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