人物再登場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 13:40 UTC 版)
『ゴリオ爺さん』は、バルザックの代名詞ともいえる人物再登場法を初めて採用した重要な作品として知られる。以前の作品に登場した人物が、あとの作品に、普通はまったく異なった年齢となって再登場する。バルザックは、ラスティニャックを再登場させた効果に満足して、初版で23人を再登場させている。これは版を追うごとに増加して最後は48人になった。バルザックは、『ゴリオ爺さん』以前にもこの手法を使ったことはあったが、そこでは常に端役として、以前とうりふたつの人物として登場させていた。ラスティニャックの登場によってはじめて、バルザックの作品はある一つの小説がそのまま、別の小説に再登場した人物のバックストーリー(人物背景)となった。 バルザックは、『人間喜劇』に取り組んだ30年間を通じてこの方法を実験し続けた。この方法によって、人物設定は単に人物描写や会話で行われる以上に深いものにできた。評論家のサミュエル・ロジャースは次のように述べている、「ある人物が再登場するとき、彼はそこにいるだけではない。彼は自分の私生活の秘密とともに現れる、それは長い間我々が見ることを許されなかったものなのだ」。読者がしばしば困るのは、バルザックの作品世界に登場する人物の膨大さで、そのおかげで大切な物語の筋を見失ってしまうように感じたりする。推理小説家のアーサー・コナン・ドイルは、決してバルザックを読もうとしなかった、彼は「どこから読み始めていいものやら解らない」からであったという。 この登場人物を再利用するというやり方は、『ゴリオ爺さん』の筋立てそのものにも影響を与えている。ニュシンゲン男爵が再登場する『ニュシンゲン銀行』(1837年)で明らかにされるのだが、彼の妻デルフィーヌとラスティニャックの情事は、実は男爵自身が計画しお膳立てしたものだったという。この新たな仔細が、『ゴリオ爺さん』の中の三人の行動に更なる光を当てることになる。つまりこの小説は、あとから書かれた小説の内容によってさらに進化するのである。
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