上皮間葉転換誘導因子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/05 01:16 UTC 版)
「上皮間葉転換」の記事における「上皮間葉転換誘導因子」の解説
Eカドヘリンの消失は上皮間葉転換において不可欠な事象と考えられている。Eカドヘリンを抑制することができる多くの転写因子をEMT-TF(上皮間葉転換誘導転写因子)と捉えることができる。SNAI1/Snail1、SNAI2/Snail2(Slug)、ZEB1、ZEB2、E47、KLF8 (Kruppel-like factor 8) などはEカドヘリンのプロモーター領域へ結合し、その転写を抑制することができる。一方、TwistやGoosecoid、E2.2 (TCF4)、ホメオボックス転写因子であるSIX1やFOXC2 (fork-head box protein C) などのタンパク質はEカドヘリンを間接的に抑制する。SNAILおよびZEBはプロモーター領域におけるE-Boxコンセンサス配列に結合する。一方、KLF8はGT-Boxを介してプロモーター領域に結合する。これらの上皮間葉転換誘導転写因子は、直接的にEカドヘリンを抑制するだけではなく、クローディンや接着斑などを含む他の接着タンパク質の転写を抑制し上皮間葉転換を促進する。一方、GRHL2 (grainyhead-like protein 2 homologue)、やETS関連転写因子であるELF3、ELF5などの転写因子は上皮間葉転換の過程で減少する。なお、これらの転写因子が間葉系細胞において過剰発現した際は間葉上皮転換が惹起される。がんの発育・進展における上皮間葉転換は、正常な組織の発育、成長プログラムを模しているため(成長を正方向へと促進するため)、多くの上皮間葉転換誘導転写因子は浸潤、転移の促進因子へとなる。 いくつかのシグナル伝達経路(TGF-β、FGF、EGF、HGF、Wnt/β-カテニン、Notchシグナリングなど)や、低酸素刺激は上皮間葉転換を誘導する。特に、RAS/MAPKシグナル伝達経路は、SnailやSlugを活性化することが示されている。Slugはデスモソームの分解や、細胞の広がり、細胞-細胞境界の部分的解離など、上皮間葉転換の過程において必要な、最初の段階の引き金となる。一方で、Slugは二次的な段階(細胞運動の誘導、サイトケラチンの抑制、ビメンチンの発現誘導など)の引き金となるわけではない。SlugとSnailは上皮形態の適切な発育に必要な転写因子p63アイソフォームの発現を制御していることが知られている。p63アイソフォームの異常発現は、細胞接着を減少させ、がん細胞の浸潤能を亢進させる。p63因子は上皮間葉転換の阻害に関わっており、p63アイソフォームの減少は上皮がんにおける発育、伸展に重要であると考えられている。これらの多くは、サイトケラチン発現を調節していることがわかっている。最近、PI3キナーゼ/AKTシグナルが上皮間葉転換において中心的役割を果たしているのではないかとの考えが急浮上している。同じく、ヘッジホッグシグナル伝達経路や、NF-κB (nuclear factor-kappaB)、ATF2 (Activating Transcription Factor 2) などが、上皮間葉転換に関連していると考えられている。 Wntシグナル経路は原腸陥入や心臓弁の形成、およびがんにおいて上皮間葉転換を制御している。肺がん細胞においてWntシグナル経路を活性化すると、上皮間葉転換を引き起こすSnailが誘導され、間葉系マーカーであるビメンチンが上昇する。また、Wnt/βカテニン経路は臨床医学において肺がん患者の予後不良と相関している。同様に、心臓弁形成や、口蓋形成、がんなどにおいてTGF-βはSnailやZEBの発現を誘導する。肺がんの骨転移病変はTGF-βシグナルを活性化させることで、さらなる転移の形成に寄与する。一方で、がん抑制遺伝子としてよく知られているp53は、ZEBやSnailなどのタンパク質産生を阻害する様々なマイクロRNA(miR-200(英語版)、miR-34(英語版)など)の発現を誘導することにより、上皮間葉転換を抑制している。
※この「上皮間葉転換誘導因子」の解説は、「上皮間葉転換」の解説の一部です。
「上皮間葉転換誘導因子」を含む「上皮間葉転換」の記事については、「上皮間葉転換」の概要を参照ください。
- 上皮間葉転換誘導因子のページへのリンク