一瞬を束ねて冬のすみれ咲く
作 者 |
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季 語 |
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季 節 |
冬 |
出 典 |
レモンの種 |
前 書 |
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評 言 |
一句から何かメッセージが欲しいと思うときがある。掲句はそんな底なる気分に光りを投げかけてくれた。冬咲き菫の薄紫は、生まれたての色とでも言いたいような淡さだが、日当たりの良い枯れ草の中や、舗装路脇のちょっとした隙間に咲くさまは、健気そのもの。掲句、作者の直感が捉えた冬すみれの真相と思う。間髪を容れず“一瞬を束ねて”と表現したスピードに高揚した感情が見える。かけがえのない表現。この「一瞬」に特定できない精神の凝縮のようなものを感じるが、ここは読者が自由に想像連想して一句の世界を創り味わう部分と思う。私は全体のイメージから母性を感じ取っている。 たとえば歌の一節にある かなしかったあの時のあの白い花/ さみしかった時のあの白い雲 の「白い花・白い雲」に、母親としての切ない心情を重ねるのだが、反面、最後のどたん場で一言主張して子に添うのも母なればこそ。喜怒哀楽を大河の一滴のように発露した場面場面を「一瞬」と置き換えて、母性本能のしなやかさと強かさを表出しているように思う。冬菫の、優しい色をして寒風に晒されても咲き通す在りようは母親の意気地。冬すみれのメッセージがここにあると思った。冬菫の句では他に「磐石の割れ目に咲きて冬すみれ 津田清子」が心にあるが、客観的な描写の句だが、対象の本質の把握は共通しているのではなかろうか。いずれも培われた洞察力と表現力がもたらした作品とおもう。 |
評 者 |
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備 考 |
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