プラズマの要件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/23 02:49 UTC 版)
プラズマはイオンと電子との混合物で電気的に中性な物質である。それが真にプラズマらしく振る舞うには次の3つの要件を満たさなければならない。 その物質系の大きさ L がデバイの長さ λD より充分大きくなければならない。すなわち L ≫ λD。 考えている現象の時間スケール t がプラズマ振動の周期よりも長くなければならない。すなわち t ≧ 1/ωpe。 半径が λD の球の中の粒子数 Λ が充分大きくなければならない。すなわち Λ ≫ 1。Λ をプラズマ・パラメタという。 これらの要件の意味は次の通りである。 デバイの長さ デバイの長さ λD はプラズマ中で電場が遮蔽される現象(デバイ遮蔽)の特徴的な長さであり、λD より小さい領域では電気的中性が保証されない。従って、考えている物質系がプラズマとして振る舞うためには、その空間的大きさ L が λD よりも充分に大きくなくてはならない。すなわち要件1が必要である。 特に容器に入ったプラズマはその容器壁との境界に λD の厚さのシースと呼ばれる非中性領域が出来るから、これはシース部分を除くプラズマ本体が充分な大きさをもつことを意味する。 プラズマ振動数 (電子)プラズマ振動数 ωpe はプラズマ振動の固有振動数で、その逆数 1/ωpe は電気的中性が破れたとき、電子がそれに反応して中性を取り戻すに必要な時間を表す。そこでこれより短い時間内では電気的中性が保証されず、プラズマらしく振る舞わない。従って、イオンと電子との混合物がプラズマとして振る舞うためには、考えている現象の時間スケール t が要件2を満たして充分に大きいことが必要である。 プラズマ・パラメタ 要件3は次のように考える。すなわち半径 λD の球の中の粒子数であるプラズマ・パラメタ Λ の値が1の程度だと、実際には他の荷電粒子は時々やってきてクーロン力を及ぼして去るだけであり、沢山の粒子の協同作用であるデバイ遮蔽などが実質的意味を持たない。逆に Λ の値が充分に大きければ、荷電粒子は常に沢山の粒子と作用を及ぼしあっていて、全体としてプラズマらしくまとまって行動する。これが上の条件の意味である。 この Λ ≫ 1 の条件はまた次の条件の各々と等価である。詳しくは項目プラズマ・パラメタを参照。粒子間相互作用のポテンシャルエネルギーの平均が粒子の運動エネルギーよりずっと小さい。一般に粒子間相互作用のポテンシャルエネルギーが運動エネルギーより小さい粒子系を弱結合系、逆に運動エネルギーより大きい粒子系を強結合系というが、Λ ≫ 1 はプラズマが弱結合系であることを意味する。 進行方向が大きく曲がる衝突に必要な近接距離 r0 がデバイ長さ ΛD より充分小さい。つまり粒子はデバイの長さより充分内側まで近づかないと衝突が起こらない。r0 はその距離でのクーロンポテンシャルが熱運動エネルギー kBT と等しいとして得られ、r0 = e2/(4πε0kBT) で与えられる。 粒子の衝突頻度 νc がプラズマ振動数 ωpe よりも充分小さい。すなわちプラズマ中の電子を主体とする現象では粒子間の衝突は無視でき、プラズマは無衝突とみなせる。
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