パーニニと現代言語学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/09 13:50 UTC 版)
パーニニや後のサンスクリット言語学者であるバルトリハリ(6-7世紀)は、現代構造言語学の父といわれるソシュールによる先駆的アイデアに明確な影響を与えたと考えられている。しかしまた、1998年に出たパーニニのドイツ語訳の前書きでプレム・シン(Prem Singh)がこの見方を擁護する一方、ジョージ・カルドナ George Cardona(ペンシルベニア大学)は過大評価に対して警告している。「私がソシュールの論文を再読した限り、パーニニの文法の直接的な影響をみとめられなかった。時折、パーニニの方法とまったく反対のやりかたを採用しているようにさえみえた」(Journal of the American Oriental Society, Vol. 120)。 ノーム・チョムスキー自身は、生成文法がパーニニによるところが大きいと認めている。またたとえば、こんにちの言語学における理論のひとつ、「最適性理論」は "パーニニの制約順位定理" としても知られている。パーニニの文法理論はサンスクリット以外の言語にも工夫されてきた。パーニニの言語研究を、形式言語の理論や形式文法の先駆けであると考え、さらにはコンピュータ科学の魁であったと考える向きもある。彼が用いた手法は、こんにちの形式的な手法における、メタ規則、(数学における)変換、再帰といったものに似ている。他には、プログラミング言語の構文を記述するために用いられるバッカス・ナウア記法(BNF)もパーニニによる言語研究との類似がある(というよりも、BNFが句構造規則のうちの単純なもの(文脈自由文法)に特化した記法であり、また、パーニニの研究が句構造文法的であった、というように捉えるのが正当な捉え方であろう)。19世紀のフレーゲとそれに続く数理論理学の発展以前、パーニニの文法が世界最古の形式体系と考えることもできるだろう。
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