ノルム空間上の射影作用素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/12 06:24 UTC 版)
「射影作用素」の記事における「ノルム空間上の射影作用素」の解説
考えるベクトル空間 X が(有限次元とは限らない)ノルム空間のとき、(有限次元の場合には関係ないが)解析学的なことも考えないといけないので、ここでは X はバナッハ空間であることを仮定する。 先に述べた代数的な概念の多くはこの文脈においても有効である。例えば、互いに補空間となるような部分空間への X の直和分解が与えられればやはり射影が定まるし、逆に射影からそのような直和分解が得られる。実際、X が直和分解 X = U ⊕ V を持つとき、P(u + v) = u で定義される作用素はやはり値域 U および核 V の射影である(P2 = P は明らかである)。一方 P が X 上の射影、即ち P2 = P を満たすならば (I − P)2 = (I − P) は容易に確かめられ、即ち (I − P) もまた射影となる。関係式 I = P + (I − P) から X が Ran(P) ⊕ Ran(I − P) なる直和に分解されることが従う。 しかし、有限次元の場合とは対照的に、射影は一般に連続とは限らない。実際、X の部分空間 U がノルムの定める位相に関して閉でないときは U の上への射影は連続でない。同じことだが、連続な射影 P の値域は必ず閉部分空間でなければならない。更には、連続射影の(実は一般の連続線型作用素の)核は閉部分空間である。従って、連続射影 P は X の互いに補空間となる閉部分空間の直和への分解 X = Ran(P) ⊕ Ker(P) = Ran(P) ⊕ Ran(I − P) を与える。 逆は、適当な仮定を追加すれば成り立つ。U を X の閉部分空間とすると、X = U ⊕ V となる閉部分空間 V が存在する場合に限り、値域が U, 核が V となる射影 P は連続である。これは閉グラフ定理から従う。即ち、xn → x かつ Pxn → y とするとき、Px = y が示されればよい。U が閉で、{Pxn} ⊂ U だから y は U に属し、Py = y が成り立つ。また、xn − Pxn = (I − P)xn → x − y である。このとき、V は閉で {(I − P)xn} ⊂ V だったから、x − y ∈ V 即ち P(x − y) = Px − Py = Px − y = 0 を得て、主張が示される。 今の議論では U, V がともに閉であるという仮定が効いているが、閉部分空間 U が与えられたときにその閉補空間 V の存在は一般には保証されない。ただし、ヒルベルト空間では直交補空間をとることで常にそれができる。バナッハ空間の場合には、一次元部分空間が常に閉補空間を持つことが、ハーン・バナッハの定理から直ちに従う。実際、U を u が張る一次元部分空間とすると、ハーン・バナッハから、有界線型汎函数 Φ で φ(u) = 1 なるものがとれる。このとき、作用素 P(x) := φ(x)u は P2 = P を満足し、射影となる。φ の有界性から P の連続性が出るから、従って Ker(P) = Ran(I − P) が U の閉補空間となる。 そうは言うものの、開写像定理により、バナッハ空間上の任意の連続射影は開写像であることが言える。
※この「ノルム空間上の射影作用素」の解説は、「射影作用素」の解説の一部です。
「ノルム空間上の射影作用素」を含む「射影作用素」の記事については、「射影作用素」の概要を参照ください。
- ノルム空間上の射影作用素のページへのリンク