ジーンズ散逸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/30 21:08 UTC 版)
古典的な熱的散逸のメカニズムの一つが、ジーンズ散逸 (英: Jeans escape) である。この名称は、この大気散逸過程を記述したイギリスの天文学者ジェームズ・ジーンズから名付けられた。ジーンズ散逸は、大気の静水圧平衡が成り立っている状態で発生する熱的散逸である。この散逸過程は大気の「蒸発」に喩えられ、後述のハイドロダイナミックエスケープで起きる大気の「流出」とは区別される。 大量の気体が存在する状態では、任意の一つの分子の平均速度は気体の温度によって測定されるが、個々の分子の速度は他の分子との衝突によって変化し、運動エネルギーを獲得したり失ったりする。分子が持つ運動エネルギーの分布は、マクスウェル分布によって記述される。分子の運動エネルギー ( E k i n {\displaystyle E_{kin}} )、質量 ( m {\displaystyle m} )、速度 ( v {\displaystyle v} ) の間には、 E k i n = 1 2 m v 2 {\displaystyle E_{\mathit {kin}}={\frac {1}{2}}mv^{2}} という関係がある。分布のロングテールではいくつかの粒子は平均的な速度よりもずっと大きな速度を持っており、別の粒子と衝突を起こさなければ、脱出速度に達して大気から散逸する場合がある。この散逸は主に、大気のスケールハイトと平均自由行程が同程度になる外気圏において発生する。散逸することができる粒子の数は熱圏界面(英語版) (もしくは外圏底) における分子の密度に依存し、これは熱圏での拡散によって律速される (拡散律速散逸(英語版))。 ジーンズ散逸による大気散逸は、ほぼエスケープパラメータで決まる。ジーンズ散逸の相対的な重要性には、次の3つの要素が大きく関与する。分子の質量、その惑星の脱出速度、そして主星からの輻射による高層大気の加熱である。同じ大気温度の場合、重い分子は軽い分子よりも低速であるため、散逸しにくい。これが二酸化炭素よりも水素がより容易に散逸する理由である。二番目に、より重い惑星は重力も強いため脱出速度も大きくなる傾向があり、脱出するための十分なエネルギーを得ることができる粒子は少なくなる。これが、地球の大気ではより容易に散逸してしまう水素を、木星型惑星では依然として大量に保持できている理由である。最後に、惑星の恒星からの距離も影響を及ぼす。つまり、恒星に近接する惑星はより高温な大気を持ち分子の速度も大きいため、散逸する可能性が高くなる。遠方にある天体は低温な大気を持ち分子の速度も小さいため、散逸する可能性も低い。
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