エジプト逃避途上の休息のある風景_(レンブラント)

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エジプト逃避途上の休息のある風景 (レンブラント)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2025/05/13 22:35 UTC 版)

『エジプト逃避途上の休息のある風景』

オランダ語: Nachtlandschap met de rust op de vlucht naar Egypte 英語: Landscape with the Rest on the Flight into Egypt
作者	レンブラント・ファン・レイン
製作年	1647年
種類	板上にキャンバス
寸法	34 cm × 48 cm (13 in × 19 in)
所蔵	アイルランド国立美術館、ダブリン

『エジプト逃避途上の休息のある風景』（エジプトとうひとじょうのきゅうそくのあるふうけい、英: Landscape with the Rest on the Flight into Egypt）^[1][2]、または『エジプト逃避途上の休息のある夜景』（エジプトとうひとじょうのきゅうそくのあるやけい、蘭: Nachtlandschap met de rust op de vlucht naar Egypte、英: Nocturnal Landscape with the Rest on the Flight into Egypt）^[3]は、オランダ絵画黄金時代の巨匠レンブラント・ファン・レインが1647年に板上に油彩で制作した絵画である。画面下部左側に「Rembrandt f. 1647」という画家の署名と制作年が記されている^[1][3]。作品は1883年に購入されて以来^[1][3]、ダブリンにあるアイルランド国立美術館に所蔵されている^[1][2][3]。

作品

この絵画の主題は、『旧約聖書』中の「マタイによる福音書」(2章13-14) から採られている^[4]。誕生したばかりのイエス・キリストの養父聖ヨセフは、天使からお告げを受けた。それは、ヘロデ大王が「ユダヤ人の王」となる新生児の脅威から自身を守るためにすべての初子 (ういご) を殺そうとしているというものであった。ヨセフは、聖母マリア、イエスとともにローマ帝国領となっていたエジプトへ逃げよという天使の指示に従った^[1][4]。

エジプト逃避という主題は中世から人気のあるものであった^[1]が、聖家族が逃避行に出てからの詳細は福音書に記述されていないので、レンブラントに大きな選択の可能性を与えた。本作は本質的に風景画である^[2]。主題が占める空間はわずかで、レンブラントは人物群たちを取り巻く風景に注意を向けており、いくつかの光源に照らされた魅惑的な夜の丘陵の風景を描いている。そのため、本作はレンブラントの9点の風景画の1つとして分類されており、唯一の夜景図でもある^[1]。

アダム・エルスハイマー『エジプトへの逃避』 (1645年)、アルテ・ピナコテーク、ミュンヘン

エルスハイマーにもとづくヘンドリック・ホウト（英語版）の銅版画『エジプトへの逃避』 (1613年)、ボストン美術館

主人公たちを劇的な光に照らされた風景の中に小さく描くのは、ドイツの画家アダム・エルスハイマーの様式を継承したものである^[2]。銅板に描かれたエルスハイマーの『エジプトへの逃避』 (アルテ・ピナコテーク、ミュンヘン) の夜景も昇る満月に加えて焚火とカンテラを光源とし、川面の反映も伴っている。空には、銀河やいくつかの星がきらめている^[2]。

レンブラントは、エルスハイマーの絵画をヘンドリック・ホウト（英語版）による複製銅版画を通して知っていたのであろう^[2]。ハウトの版画には、「世の光が暗黒のなかに逃避する」という銘文があり、光景の明るさを説明している。レンブラントの本作における緊張感は、危険にさらされていながらも揺るぎがない、という現世におけるイエス・キリストの位置の巧みな比喩となっている^[2]。

脚注

1. ^ ^{a b c d e f g} “Landscape with the Rest on the Flight into Egypt”. アイルランド国立美術館公式サイト (英語). 2025年5月13日閲覧。
2. ^ ^{a b c d e f g} マリエット・ヴェステルマン　2005年、184-185頁。
3. ^ ^{a b c d} “Nocturnal landscape with the rest on the flight into Egypt, dated 1647”. オランダ美術史研究所サイト (英語). 2025年5月13日閲覧。
4. ^ ^{a b} 大島力　2013年、110頁。

参考文献

• マリエット・ヴェステルマン『岩波　世界の美術　レンブラント』高橋達史訳、岩波書店、2005年刊行　ISBN 4-00-008982-X
• 大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行 ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク

• アイルランド国立美術館公式サイト、レンブラント・ファン・レイン『エジプト逃避途上の休息のある風景』 (英語)

表 話 編 歴 レンブラント・ファン・レイン
歴史画	『五感（ドイツ語版）』（1624‐1625年） 『聖ステファノの石打ち』（1625年） 『トビトと子ヤギを持ったアンナ』（1626年） 『バラムとロバ』（1626年） 『愚かな金持ちの譬え』（1627年） 『エジプトへの逃避』（1627年） 『寺院の中のシメオン』（1627-1628年） 『論争する二人の老人』（1628年） 『エマオの晩餐 (ジャックマール＝アンドレ美術館)』 (1628年ごろ) 『銀貨30枚を返すユダ』（1629年） 『サムソンとデリラ』（1629年-1630年） 『エルサレムの滅亡を嘆くエレミヤ』（1630年） 『アンドロメダ』（1630年） 『シメオンの賛歌』（1631年） 『プロセルピナの略奪』（1631年） 『ラザロの復活』（1630年-1632年頃） 『エウロペの誘拐』（1632年） 『東方三博士の礼拝』（1632-1633年） 『ガリラヤの海の嵐』（1633年） 『キリスト昇架』（1633年） 『キリスト降架』（1633年） 『使徒パウロ』（1633年頃） 『アクタイオンとカリストのいるディアナとニンフの水浴』（1634年） 『フローラ』（1634年） 『ホロフェルネスの饗宴におけるユディト』（1634年） 『ガニュメデスの略奪』（1635年） 『洗礼者聖ヨハネの説教』（1634-1635年） 『イサクの犠牲』（1635年） 『書斎のミネルヴァ』（1635年） 『舅を脅かすサムソン』（1635年） 『ダナエ』（1636年） 『ペリシテ人に目を潰されるサムソン』（1636年） 『スザンナ』（1636年） 『トビアスの家族から去る大天使ラファエル』（1637年） 『売春宿の放蕩息子』（1637年） 『ベルシャザルの饗宴』（1635年-1638年） 『サムソンの婚宴』（1638年） 『ダビデとヨナタン』（1642年） 『姦淫の女』（1644年） 『天使のいる聖家族』（1645年） 『ヨセフの夢』（1645年） 『カーテンのある聖家族』（1646年） 『スザンナと長老たち』（1647年） 『エマオの晩餐 (ルーヴル美術館)』（1648年） 『キリストの頭部』（1645年-1650年） 『ホメロスの胸像を見つめるアリストテレス』（1653年） 『ダビデ王の手紙を手にしたバテシバの水浴』（1654年） 『フローラ』（1654頃） 『パラス・アテナ』（1655年頃） 『ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ』（1656年） 『十戒の石板を破壊するモーセ』（1659年） 『天使と闘うヤコブ』（1659-1660年） 『聖ペテロの否認』（1660年） 『エステルの饗宴におけるアハシュエロス王とハマン』（1660年） 『聖マタイと天使』（1661年頃） 『クラウディウス・キウィリスの謀議』（1661年–1662年） 『詩を口述するホメロス』（1663年） 『ルクレティア』（1664年） 『運命を悟るハマン』（1665年頃） 『放蕩息子の帰還』（1668年）
肖像画	『笑う男』 (1629-1630年頃) 『テュルプ博士の解剖学講義』（1631年） 『ニコラース・リュッツの肖像』（1631年） 『読書をする老婦人』（1631年） 『ヤーコブ・デ・ヘイン3世の肖像』（1632年） 『横顔の若い女性』（1632年） 『アマーリア・ファン・ゾルムスの肖像』（1632年） 『62歳の女性の肖像』（1632年） 『ファン・ベレステイン家の一員と思われる男性の肖像』（1632年） 『ファン・ベレステイン家の一員と思われる女性の肖像』（1632年） 『男性の肖像 (ウィーン)』 (1632年頃) 『椅子から立ち上がる男性の肖像』（1633年） 『扇を持つ若い女性の肖像』（1633年） 『ヨハネス・ウーテンボハールトの肖像』（1633年） 『若きサスキアの肖像』（1633年） 『船大工とその妻』（1633年） 『アルカディアの衣装を着たサスキア』（1635年） 『ポーランドの貴族』（1637年） 『マリア・トリップの肖像』（1639年頃） 『羽根飾りのある帽子をかぶる男のトローニー』 (1635-1640年頃) 『額縁の中の少女』（1641年） 『アハタ・バス』（1641年） 『メノー派説教師アンスロとその妻』 (1641年) 『夜警』（1642年） 『水浴する女』（1654年） 『ポーランドの騎手』 (1655年頃) 『デイマン博士の解剖学講義』（1656年） 『開かれた上扉による若い女性』 (1654-1657年) 『僧としてのレンブラントの息子ティトゥス』（1660年） 『二人のアフリカ人男性』 (1661年) 『布地商組合の見本調査官たち』（1662年） 『フレデリック・リヘル騎馬像』（1663年頃） 『老人の肖像 (ウフィツィ美術館)』（1665年頃） 『ヘラルト・デ・ライレッセの肖像』（1665年-1667年） 『老人の肖像 (マウリッツハイス美術館)』（1667年） 『ユダヤの花嫁』（1665年-1669年）
自画像	『アトリエの画家』（1628年） 『首当てをつけた自画像』（1629年頃） 『縁なし帽を被り、金の鎖を付けた自画像』（1633年） 『34歳の自画像』（1640年） 『大きな自画像』 (1652年) 『金の鎖のネックレスとイヤリングをつけた毛皮の上着の自画像』（1655年） 『自画像 (フリック・コレクション)』 (1658年) 『ベレー帽と立襟の自画像』（1659年） 『画架の前の自画像』（1660年） 『使徒パウロに扮した自画像』（1661年） 『ゼウクシスとしての自画像』（1668年頃） 『二つの円のある自画像』（1655年–1669年頃） 『63歳の自画像』（1669年）
風景画・動物画	『石橋のある風景』（1637年） 『アーチ型の橋のある風景』（1637年頃） 『善きサマリア人のいる風景』（1638年） 『クジャクのある静物』（1639年頃） 『城のある風景』（1640-1642年頃） 『エジプト逃避途上の休息のある風景』 (1647年) 『風車』（1645年-1648年） 『屠殺された牛』（1655年）
主題	オランダ黄金時代の絵画 写実主義 キアロスクーロ
レンブラント 研究	鑑定 レンブラント・カタログ・レゾネ 主要な専門 家と学者 ケネス・クラーク サミュエル・ファン・ホーホストラーテン アルノルト・ホウブラーケン
関連人物	サスキア・ファン・オイレンブルフ (妻・モデル) ピーテル・ラストマン (師) ヤン・リーフェンス (同僚・友人)
主要な美術館 と展覧会	レンブラントの家 アムステルダム国立美術館 マウリッツハイス美術館 大英博物館 メトロポリタン美術館 フリック・コレクション
因んだ名前	レンブラント広場 レンブラントライティング
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