椅子から立ち上がる男性の肖像

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椅子から立ち上がる男性の肖像

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2025/05/09 06:36 UTC 版)

『椅子から立ち上がる男性の肖像』

オランダ語: Portret van een man die uit een stoel opstaat 英語: Portrait of a Man Rising from His Chair
作者	レンブラント・ファン・レイン
製作年	1633年
素材	キャンバス上に油彩
寸法	124.1 cm × 98.4 cm (48.9 in × 38.7 in)
所蔵	タフト美術館（英語版）、シンシナティ

『椅子から立ち上がる男性の肖像』（いすからたちあがるだんせいのしょうぞう、蘭: Portret van een man die uit een stoel opstaat、英: Portrait of a Man Rising from His Chair）は、17世紀オランダ絵画黄金時代の巨匠レンブラント・ファン・レインが1633年にキャンバス上に油彩で制作した絵画である^[1]。2006年以来、米国オハイオ州のシンシナティにあるタフト美術館（英語版）に所蔵されている^[1][2][3]。画面右側の男性の手の下に「Rembrandt.f / 1633」という署名と制作年が記されており^[2]、レンブラントの真作であることになんら疑問の余地はない。

作品

レンブラント『扇を持つ若い女性の肖像』 (1633年)、メトロポリタン美術館、ニューヨーク

この富裕な人物のポーズは非常に生き生きとしている。おそらく、彼は来客に挨拶をするためか、来客に妻を紹介するために立ち上がっているところである。妻は対作品『扇を持つ若い女性の肖像』 (メトロポリタン美術館、ニューヨーク) に表されている^[1][2][3][4]。1793年以来、両作品は別々の所有者の手に渡った^[3][5]が、ときおり特別展でいっしょに展示されてきた^[4]。両作のサイズと構図の類似点に最初に気づいたのはドイツの美術史家ヴィルヘルム・フォン・ボーデ（英語版）で、1897年の彼のレンブラントの作品目録で対作品として提示した^[2]。

オランダでは、1620年代を通して対作品の肖像画は保守的な形式のものにとどまったが、それはスペインの宮廷肖像画 (オランダは16世紀にスペインの支配下にあった) と、より近い時期のイングランドの公的な肖像画の影響によるものであった^[3]。レンブラントの対作品では人物が鑑賞者に提示され、お互いに革新的に関わっており、画家が保守的な基準から離脱していることを示している。この点で、彼はフランドルの巨匠ヴァン・ダイクに一部影響を受けている^[3]。

本作では、光が男性のレースのカラーとカフス、ピンク色の頬、伸ばされた腕を照らしている^[1]。レンブラントは見事な技術で男性の衣服の細部を描き、実際に血が通っているかのような温かな肌を創造している。富裕なオランダの中産階級は、結婚を記念するためにしばしば肖像画を依頼した。対作品である『扇を持つ若い女性の肖像』は本作の右側に掛けられたはずで、本作の男性は彼女にジェスチャーをしているかのように見えたであろう。それは、当時としては革新的なポーズであった^[1]。

男性の黒と白の謹厳な衣服は謙虚さを示すが、衣服の細部と材質は富を示す^[1]。労働者階級の女性たちによって作られた高価なレースが彼のカラーとカフスを装飾し、金糸で縁取られた絹のリボンがジャカード織の花模様のある黒いジャケットを飾っている。深い黒色の布地を制作するには、中米の沼地から奴隷とされた人々によって収穫されたアカミノキの染料が必要であった。この染料は贅沢品で、その使用は国々が競って制限しようとしたものである^[1]。

来歴

本作は、パリのプルタレ (Pourtalès) 家からチャールズ・P・タフト (Charles P. Taft) 氏によって購入された^[1][2]。絵画に支払われた価格は公にされなかったものの、ロンドンのタイムズ紙では、購入された当時 (1909年ごろ) には50万ドルであったと報じられた^[6]。1927年に作品はタフト氏からシンシナティ美術館に寄贈されたが、2006年にタフト美術館に移された^[1]。

脚注

1. ^ ^{a b c d e f g h i} “Portrait of a Man Rising from His Chair”. Taft Museum of Art. 2025年5月9日閲覧。
2. ^ ^{a b c d e} “Portrait of a man rising from his chair, dated 1633”. オランダ美術史研究所公式サイト (英語). 2025年5月9日閲覧。
3. ^ ^{a b c d e} “Portrait of a Man Rising from His Chair”. Web Gallery of Art. 2025年5月9日閲覧。
4. ^ ^{a b} Durrell, Jane (1992年11月). “The Collection of a Lifetime”. Cincinnati Magazine. pp. 54. 2014年4月7日閲覧。
5. ^ Liedtke, Walter A. (2007). Dutch Paintings in the Metropolitan Museum of Art, Volumes 1-2. Metropolitan Museum of Art. pp. 589. ISBN 9781588392732. https://books.google.com/books?id=jtnQ7PIT8mcC&pg=PA589 2014年4月7日閲覧。 
6. ^ Industrial Bureau of Cincinnati (1909). The Cincinnati Industrial Magazine, Volumes 1-2. pp. 50. https://books.google.com/books?id=XSoWAAAAYAAJ&pg=PA50 2013年5月20日閲覧。 

外部リンク

• オランダ美術史研究所公式サイト、レンブラント・ファン・レイン『椅子から立ち上がる男性の肖像』 (英語)
• タフト美術館公式サイト、レンブラント・ファン・レイン『椅子から立ち上がる男性の肖像』 (英語)
• Web Gallery of Artサイト、レンブラント・ファン・レイン『椅子から立ち上がる男性の肖像』 (英語)

表 話 編 歴 レンブラント・ファン・レイン
歴史画	『五感（ドイツ語版）』（1624‐1625年） 『聖ステファノの石打ち』（1625年） 『トビトと子ヤギを持ったアンナ』（1626年） 『バラムとロバ』（1626年） 『愚かな金持ちの譬え』（1627年） 『エジプトへの逃避』（1627年） 『寺院の中のシメオン』（1627-1628年） 『論争する二人の老人』（1628年） 『エマオの晩餐 (ジャックマール＝アンドレ美術館)』 (1628年ごろ) 『銀貨30枚を返すユダ』（1629年） 『サムソンとデリラ』（1629年-1630年） 『エルサレムの滅亡を嘆くエレミヤ』（1630年） 『アンドロメダ』（1630年） 『シメオンの賛歌』（1631年） 『プロセルピナの略奪』（1631年） 『ラザロの復活』（1630年-1632年頃） 『エウロペの誘拐』（1632年） 『東方三博士の礼拝』（1632-1633年） 『ガリラヤの海の嵐』（1633年） 『キリスト昇架』（1633年） 『キリスト降架』（1633年） 『使徒パウロ』（1633年頃） 『アクタイオンとカリストのいるディアナとニンフの水浴』（1634年） 『フローラ』（1634年） 『ホロフェルネスの饗宴におけるユディト』（1634年） 『ガニュメデスの略奪』（1635年） 『洗礼者聖ヨハネの説教』（1634-1635年） 『イサクの犠牲』（1635年） 『書斎のミネルヴァ』（1635年） 『舅を脅かすサムソン』（1635年） 『ダナエ』（1636年） 『ペリシテ人に目を潰されるサムソン』（1636年） 『スザンナ』（1636年） 『トビアスの家族から去る大天使ラファエル』（1637年） 『売春宿の放蕩息子』（1637年） 『ベルシャザルの饗宴』（1635年-1638年） 『サムソンの婚宴』（1638年） 『ダビデとヨナタン』（1642年） 『姦淫の女』（1644年） 『天使のいる聖家族』（1645年） 『ヨセフの夢』（1645年） 『スザンナと長老たち』（1647年） 『エマオの晩餐 (ルーヴル美術館)』（1648年） 『キリストの頭部』（1645年-1650年） 『ホメロスの胸像を見つめるアリストテレス』（1653年） 『ダビデ王の手紙を手にしたバテシバの水浴』（1654年） 『フローラ』（1654頃） 『パラス・アテナ』（1655年頃） 『ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ』（1656年） 『十戒の石板を破壊するモーセ』（1659年） 『天使と闘うヤコブ』（1659-1660年） 『聖ペテロの否認』（1660年） 『エステルの饗宴におけるアハシュエロス王とハマン』（1660年） 『聖マタイと天使』（1661年頃） 『クラウディウス・キウィリスの謀議』（1661年–1662年） 『詩を口述するホメロス』（1663年） 『ルクレティア』（1664年） 『運命を悟るハマン』（1665年頃） 『放蕩息子の帰還』（1668年）
肖像画	『笑う男』 (1629-1630年頃) 『テュルプ博士の解剖学講義』（1631年） 『読書をする老婦人』（1631年） 『ヤーコブ・デ・ヘイン3世の肖像』（1632年） 『横顔の若い女性』（1632年） 『アマーリア・ファン・ゾルムスの肖像』（1632年） 『ファン・ベレステイン家の一員と思われる男性の肖像』（1632年） 『男性の肖像 (ウィーン)』 (1632年頃) 『椅子から立ち上がる男性の肖像』（1633年） 『扇を持つ若い女性の肖像』（1633年） 『ヨハネス・ウーテンボハールトの肖像』（1633年） 『若きサスキアの肖像』（1633年） 『船大工とその妻』（1633年） 『アルカディアの衣装を着たサスキア』（1635年） 『ポーランドの貴族』（1637年） 『マリア・トリップの肖像』（1639年頃） 『羽根飾りのある帽子をかぶる男のトローニー』 (1635-1640年頃) 『額縁の中の少女』（1641年） 『アハタ・バス』（1641年） 『メノー派説教師アンスロとその妻』 (1641年) 『夜警』（1642年） 『水浴する女』（1654年） 『デイマン博士の解剖学講義』（1656年） 『開かれた上扉による若い女性』 (1654-1657年) 『僧としてのレンブラントの息子ティトゥス』（1660年） 『二人のアフリカ人男性』 (1661年) 『布地商組合の見本調査官たち』（1662年） 『老人の肖像』（1665年頃） 『ヘラルト・デ・ライレッセの肖像』（1665年-1667年） 『老人の肖像』（1667年） 『ユダヤの花嫁』（1665年-1669年）
自画像	『アトリエの画家』（1628年） 『首当てをつけた自画像』（1629年頃） 『縁なし帽を被り、金の鎖を付けた自画像』（1633年） 『34歳の自画像』（1640年） 『大きな自画像』 (1652年) 『金の鎖のネックレスとイヤリングをつけた毛皮の上着の自画像』（1655年） 『自画像 (フリック・コレクション)』 (1658年) 『ベレー帽と立襟の自画像』（1659年） 『画架の前の自画像』（1660年） 『使徒パウロに扮した自画像』（1661年） 『ゼウクシスとしての自画像』（1668年頃） 『二つの円のある自画像』（1655年–1669年頃） 『63歳の自画像』（1669年）
風景画・動物画	『石橋のある風景』（1637年） 『アーチ型の橋のある風景』（1637年頃） 『善きサマリア人のいる風景』（1638年） 『城のある風景』（1640-1642年頃） 『風車』（1645年-1648年） 『屠殺された牛』（1655年）
主題	オランダ黄金時代の絵画 写実主義 キアロスクーロ
レンブラント 研究	鑑定 レンブラント・カタログ・レゾネ 主要な専門 家と学者 ケネス・クラーク サミュエル・ファン・ホーホストラーテン アルノルト・ホウブラーケン
関連人物	サスキア・ファン・オイレンブルフ (妻・モデル) ピーテル・ラストマン (師) ヤン・リーフェンス (同僚・友人)
主要な美術館 と展覧会	レンブラントの家 アムステルダム国立美術館 マウリッツハイス美術館 大英博物館 メトロポリタン美術館 フリック・コレクション
因んだ名前	レンブラント広場 レンブラントライティング
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