「魔の海」伝説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/26 19:55 UTC 版)
サルガッソ海は多くの船舶が沈没したり行方不明になる「魔の海」「船の墓場」であるという伝説で知られるが、それらの話には裏付けがなく、あくまでも伝説に過ぎない。 伝説では、風が吹かず帆船が何週間も動けずにいる間に船体に海藻が絡みつき、風が吹いたときには既に動けなくなっており、ボートで船を引っ張ろうとしてもそのボートのオールに海藻が絡み付く、あるいはスクリューが海藻に絡み付くなどして船が航行できず、船乗り達は水と食糧の不足でしばしば全滅した、などと言われる。また、無人となった船は、その後も幽霊船となって長い間この海域を彷徨うが、やがて帆が腐り、マストが倒れ、最後には海藻に付着して一緒に流されてきたフナクイムシに船体を食い荒らされて沈んでいき、無数の船がこの粘りつく海に捕まり脱出できぬまま沈んでいったとされる。 しかし、この海域の特異性を原因とした明確な遭難記録は皆無である。 この海域は貿易風と偏西風の狭間に位置する高気圧帯のため、帆船の航行に適した良風が吹きにくい。このため、貿易風や偏西風を利用して大西洋を航海していた帆船時代、この海域に進入すると船の速度は著しく落ちた。凪の状態になることも多いため、身動きがとれなくなる事もあった。魚がほとんど捕れない海域でもあり、船乗りは乗員の食糧保全のため、積荷の馬を食料とせざるを得なかったことから、北緯30度付近の大西洋中央海域を「ホース・ラティテューズ(Horse Latitudes, 馬の緯度、亜熱帯高圧帯)」と呼んだ。サルガッソ海は、本来の大西洋横断航海コースから外れた風の弱い海域であり、当時の船乗りにとって忌避すべき海域であったことから様々な伝説が生じたものと考えられる。 またこの海域は海流の澱みのようになっているため、他の海域に比べて浮遊性の海藻が集まりやすくなっている。しかし実際には、ホンダワラ類の海藻はほとんどが海面上を浮遊しているだけであり、外洋航海用に作られた船舶がそれにより航行不能に陥る事はあり得ない。また、海面下数メートルに位置するスクリューに、海面上の海藻が絡み付く事もない。 コロンブスの航海記によると、1492年9月16日に海藻が多く浮遊する海域に入っており、この日以降、凪が多く船がなかなか進まなかったことが記録されている。しかし、風が全く吹かなかった訳ではなく、南南西に船を進め、10月4日には海藻がなく風が吹く海域に達し、無事にこの海域を航行している。
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