陸上移動局
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/14 02:20 UTC 版)
定義
総務省令電波法施行規則第4条第1項第12号に「陸上を移動中又はその特定しない地点に停止中運用する無線局(船上通信局を除く。)」と定義している。ここでいう「陸上」とは、第3条第1項第5号により「河川、湖沼その他これらに準ずる水域を含む」ものである。また、第3条第1項第8号には、陸上移動業務を「基地局と陸上移動局(陸上移動受信設備を含む。)との間又は陸上移動局相互間の無線通信業務(陸上移動中継局の中継によるものを含む。)」と定義している。
概要
定義にみるとおり、もっぱら陸上で用いられる移動する無線局のことであり、移動局の一種でもある。陸上で使用でき、船舶・航空機に持ち運んでも使用できる無線機はかつては移動局、現在は携帯局として海事・航空関係者に免許している。なお、携帯電話事業者の移動基地局車やIP無線利用者が基地局と呼ぶ据置型の端末は基地局ではなく陸上移動局である。
中継車などの一部例外を除き、移動しながらの運用が前提の為、無線機の構造や電源容量に制約が大きく見通し範囲内の通信に用いられる。周波数帯はVHF以上が使用され、ほとんどの場合、不特定の方向に電波を発射することとなること、車両や携帯形の無線機に直付けする単純な構造によるものにならざるを得ないことから、空中線(アンテナ)は無指向性の垂直偏波となる。
- 海上での使用
従来、これらに準ずる水域の解釈は防波堤またはこれに準ずるものの内側とされていた。しかし、マリネットホン廃止の際に、代替となるMCA無線移動機や携帯電話端末についてマリネットホンの移動範囲を引き継ぐ形で平水区域とし、更に沿岸区域まで緩和した。これを受け携帯電話事業者、MCA無線事業者は、約款において「これらに準ずる水域」を「沿岸の海域」と表現している。これは、おおむね領海(沿岸から12海里、約22km)を指すものとしている。携帯電話やMCA無線を領海上で使用できることとなったわけではあるが、船舶局の代用になるものではなく、海上交通管制などの海上安全にかかわる通信には使えない。また、基地局の配置に依存するので確実に領海内で使用できるとは限らないが、MCA無線では沿岸から100km超まで実用になる例[1]もある。その他の用途については沿岸水域(沿岸から3海里、約5.5km)又は港の区域内としている。
- 単向通信[2]
音声・画像・データ伝送や遠隔操作・無人移動体の操縦など単向通信と呼ばれる一方的な送信にも用いられる。特定ラジオマイク、車載型FPU、無人移動体画像伝送システムの産業用ロボット、920MHz帯の陸上移動局などである。
- ヘリテレシステムのFPU、ドローンと通称される無人航空機の送信機は携帯局として免許される。
- 無人移動体画像伝送システム制度化以前の産業用ラジコンで陸上又は水上で使用されるものは、免許不要局によるものしかなかった。
- 920MHz帯の陸上移動局は、かつての移動体識別(RFID)用簡易無線局が無線局の種別を変更されたものである。後に構内無線局の機器も陸上移動局として登録できるようになった。
免許・登録
外国籍の者に免許は原則として与えられないことは電波法第5条第1項に定められているが、第2項に例外が列挙され
- 第7号 自動車その他の陸上を移動するものに開設し、若しくは携帯して使用するために開設する無線局又はこれらの無線局若しくは携帯して使用するための受信設備と通信を行うために陸上に開設する移動しない無線局(電気通信業務を行うことを目的とするものを除く。)
- 第8号 電気通信業務を行うことを目的として開設する無線局
が規定されているので、外国籍の者にも免許されることがある。
携帯電話端末と携帯電話中継器およびMCA無線移動機は特定無線局として包括免許される。包括免許以外でも、ほとんどの場合、特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則により認証された適合表示無線設備を使用することとなるので簡易な免許手続の規定が適用され、予備免許や落成検査が省略されて免許される。*特定無線設備が制度化される以前は、無線機器型式検定規則による検定に合格した「検定機器」によるものが、簡易な免許手続の対象とされていた。中継機能を持つ空中線電力10mW以下のPHSの陸上移動局(PHS用小電力レピータ)、10mWを超える5GHz帯無線アクセスシステムおよび920MHz帯の陸上移動局は、登録局である。
種別コードはML。免許・登録の有効期間は5年。但し、包括免許以外の免許は当初に限り有効期限は4年をこえて5年以内の5月31日[3]となる。
用途
局数の推移に見るとおり電気通信業務用が大多数を占めるが、ほとんどが携帯電話端末のことである。IP無線端末や小電力レピータなどと呼ばれる個人や小規模施設が用いる携帯電話中継器も含まれる。
電気通信業務用以外では鉄道・タクシー・バス事業者などの陸上運輸用、その他国家行政用(警察用を含む。)、国および地方自治体の防災行政用、消防用などが続く。
局数
包括免許の無線局免許状に記載される指定局数は開設可能な局数の上限であり、すべてが稼動しているとは限らない。また、無線局登録状に局数は記載されない。総局数に対する比率も平成2年度以降は常に局種別の首位であり、平成5年度には過半数を、平成9年度には90%を超えている。[4]
- 自衛隊の移動体に搭載する又は携帯する無線機については、自衛隊法第112条第1項により免許を要しないので無線局数の統計に含まれない。
通信の相手方
電波法第52条の目的外使用として同条第6号の「その他総務省令で定める通信」を受けた電波法施行規則第37条に規定するもの(官公庁およびこれに準ずる団体にしか認められないもの、同一免許人所属の携帯局や携帯基地局など陸上移動業務以外の無線局との通信などに限定される。)を除き、免許人所属の陸上移動局又は基地局(異免許人間通信を同意した他の免許人所属の陸上移動局又は基地局を含む。)に限られる。これは、陸上移動業務の無線局は原則として同一免許人内の通信に利用するものであることによる。
旧技術基準の機器の使用
無線設備規則のスプリアス発射等の強度の許容値に関する技術基準改正[5]により、旧技術基準に基づく無線設備が免許されるのは「平成29年11月30日」まで[6]、使用は「平成34年11月30日」まで[7]とされた。
対象となるのは、
- 「平成17年11月30日」[8]までに製造された機器または認証された適合表示無線設備
- 経過措置として、旧技術基準により「平成19年11月30日」までに製造された機器[9]または認証された適合表示無線設備[10]
である。
新規免許は「平成29年12月1日」以降はできないが、使用期限はコロナ禍により符号分割多元接続方式携帯無線通信および時分割・符号分割多元接続方式携帯無線通信の無線局を除き「当分の間」延期[11][12]された。
詳細は無線局#旧技術基準の機器の使用を参照。
無人航空機への携帯電話等の搭載
携帯電話の普及に伴い、これを無人航空機に搭載し、画像・データ伝送等に利用したいとのニーズが高まってきた。しかし、携帯電話等の移動通信システムは、地上での利用を前提としていることから、上空での利用は通信品質の確保・地上での利用への影響などの課題がある。
そこで、携帯電話または無線アクセスの陸上移動業務を行う無線局については陸上移動局の定義の「(船上通信局を除く。)」を(船上通信局を除き、陸上移動業務に係る実用化試験局を含む。)と読み替え、「陸上」について「これらに準ずる水域を含む」を「これらに準ずる区域を含む」と読み替えるものともした。
具体的には、利用者が試験計画を電気通信事業者に提出し、電気通信事業者が実用化試験局の免許を取得後、利用者が許可通知を受領して利用するという手順になる。なお、高度150m未満で一定の技術的条件に合致する場合は、電気通信事業者の手続きは簡素化され、申込みから利用までの時間が短縮される。
詳細は実用化試験局#無人航空機への携帯電話等の搭載も参照
- ^ 新潟小型船舶無線協会(移動無線センター - 海上・船舶利用) - ウェイバックマシン(2017年5月31日アーカイブ分)
- ^ 電波法施行規則第2条第1項第16号「単向通信方式」とは、単一の通信の相手方に対し、送信のみを行なう通信方式をいう。(送り仮名の表記は原文ママ)
- ^ 平成19年総務省告示第429号 電波法施行規則第8条第1項の規定に基づく陸上移動業務の無線局等について同時に有効期間が満了するよう総務大臣が毎年一の別に告示で定める日第1号(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)に6月1日とあることによる。
- ^ 各年版情報通信白書による。
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第2項および平成19年総務省令第99号による同附則同条同項改正
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第1項
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正の施行日の前日
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第2項
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第5条第4項
- ^ 無線設備規則の一部を改正する省令の一部改正等に係る意見募集 -新スプリアス規格への移行期限の延長-(総務省報道資料 令和3年3月26日)(2021年4月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ 令和3年総務省令第75号による無線設備規則改正
- ^ 平成2年郵政省告示第240号 電波法施行規則第33条の規定に基づく無線従事者の資格を要しない簡易な操作第3項第5号(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
- ^ 昭和25年電波監理委員会規則第3号
- ^ 昭和33年郵政省令第26号による電波法施行規則改正
- ^ 昭和35年郵政省告示第1017号制定
- ^ 昭和36年郵政省令第12号による電波法施行規則改正
- ^ 昭和45年郵政省令第29号による電波法施行規則改正
- ^ 昭和46年郵政省令第31号による電波法施行規則改正
- ^ 昭和57年郵政省令第34号による電波法施行規則改正
- ^ 昭和59年法律第87号による電波法改正の施行
- ^ 平成5年郵政省令第50号による電波法施行規則改正
- ^ 平成5年郵政省告示第217号による昭和35年郵政省告示第1017号改正
- ^ 平成5年法律第71号による電波法改正の施行
- ^ 平成5年郵政省告示第601号(後に平成19年総務省告示第429号に改正)
- ^ 平成5年郵政省令第61号による電波法施行規則改正の施行
- ^ 平成6年郵政省令第32号による電波法施行規則改正
- ^ 平成9年郵政省令第71号による電波法施行規則改正
- ^ 平成9年郵政省令第75号による電波法施行規則改正
- ^ 平成9年法律第100号による電波法改正の施行
- ^ 平成10年郵政省令第111号による電波法施行規則改正
- ^ 平成13年総務省令第15号による電波法施行規則改正
- ^ 平成13年総務省令第63号による電波法施行規則改正
- ^ 平成17年総務省令第82号による電波法施行規則改正
- ^ 平成17年総務省令第82号による電波法施行規則改正附則第2項および第3項
- ^ 平成19年総務省令第154号による電波法施行規則改正
- ^ 平成21年総務省告示第321号による昭和35年郵政省告示第1017号改正
- ^ 平成23年総務省令第162号による電波法施行規則改正
- ^ 平成28年総務省令第72号による電波法施行規則改正
- ^ 平成28年総務省令第82号による無線設備規則改正
- ^ 平成29年総務省令第62号による無線設備規則改正
- ^ 平成29年総務省告示第296号による周波数割当計画改正による簡易無線用への割当て削除
- ^ 平成29年総務省令第62号による電波法施行規則改正附則第2項
- ^ 平成30年総務省令第4号による電波法施行規則改正
- ^ 平成31年総務省令第24号による電波法施行規則規則改正
- ^ 平成12年度以前の分野別データ(総務省情報通信統計データベース - 分野別データ)(2004年12月13日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ a b 用途別無線局数 総務省情報通信統計データベース - 用途別無線局数
- ^ 情報通信白書 総務省情報通信統計データベース - 情報通信白書
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