村上世彰 人物

村上世彰

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/23 05:51 UTC 版)

人物

M&Aコンサルティングを核とする村上ファンドの創設者。東京大学卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省し公務員として約16年勤務する中で、日本経済の永続的な成長のためにはコーポレート・ガバナンスが大切であることを実感し、自らがプレーヤーとなって変えていこうと決意して40歳を目前にファンドを立ち上げる[1]

現金や遊休優良資産を抱えていながら有効活用していない上場会社株式を取得し、日本の株主の多くが(もしくは一般化された日本人像として)経営関与には消極的な中で、積極的に株主提案を行い企業価値の向上を計り、株主を軽視する経営者に対しては株主総会などで経営陣を批判・叱咤することから「物言う株主」として注目を集めた。

投資対象とした会社の株を購入した上で、利益の上がる事業に専念させて会社の株主価値向上を目指す投資手法を採った。代表的な案件に、東京スタイルニッポン放送阪神電気鉄道などがある。投資規模が拡大の一途をたどる最中、ファンド設立から6年後、いまだ法的解釈は賛否両論あるものの、ニッポン放送株式の内部者取引の容疑で逮捕された。

主義主張に「企業にとってのお金は人間の身体でいうなら血液、企業成長にはお金(血液)の流れが大切であり、流れが滞ると企業の健康に悪い影響が出る」というものがある[1]

村上ファンドと近い時期に、同じく積極的な経営手法で注目された元ライブドア社長堀江貴文と関連して語られることも多い。

ニックネームは「せしょう」または「せいしょう」。世彰を本来の「よしあき」でなく、音読みさせて「せしょう」と読む人が多いためだという。小学校・中学校時代は、「よしあき」ではなく「せいしょう」と呼ばれていたため、本名の呼び名を知らない人もいた。

コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード、伊藤レポートといった上場企業機関投資家に対する指針が日本国政府によって示された中、自身が持ち続けてきた上場企業のあるべき姿についての信念も単行本の形で世に出すことを決意し、2017年6月、自著『生涯投資家』(文藝春秋)を上梓。

相場観

買い

暴落時に買うか、上昇トレンドに乗ってから買うかについて、村上はあくまでもファンダメンタルを重視し「1000円の価値があると思われる株が500円になっている」と判断できるならば、バリュー面では買いだと考える。基本的には大きく下げた場面で買うが、どんなに大きく下落しようと、資産収益の状況から魅力的でないなら「買い」とは判断しない。同時に経済相場のトレンドも意識する。

父の教えである「上がり始めたら買え、下がり始めたら売れ」という言葉を守っている。買いは、悪材料がほとんど株価に織り込まれ、これ以上株価が下げづらいという状況で、さらに底を打って上がり始めるのを確認してから買うというスタンスである。

決算発表前後の投資家の態度について、決算が予想されているよりも良い内容になりそうだと思えば決算発表前に買うこともあるし、予想されているよりも悪くなりそうだと思えば決算発表前に売ることもあり、普段からその業界を勉強し、チェックし、経済や世界の動きを確認。その会社について気になることがあれば、決算発表の1カ月くらい前までに問い合わせして、今どんな状況なのか確認すべきとする。

会社が決算で業績予想の上方修正をしたにもかかわらず、株価が下落するのは、上方修正自体が、多くの投資家から予想されていたため(株価に織り込まれる)であり、自分の考えた投資シナリオが狂い始めてきたと判断できるような変化があったのなら、売却も検討すべきと発言している[2]

損切り

損切りについては、自分の投資判断が間違っていたということがわかれば、価格にかかわらず損切りする。ただし、村上が最も得意とするバリュー株投資については、基本的には損切りは考えていない。相場における感情のコントロールについては、村上は感情を表に出すのはかまわない。無理にポーカーフェイスにすることもないと考えている。

ただ、儲かっても舞い上がって強気になることはなく、また大失敗してもさほど落ち込むこともないという。メンタルは若い頃より強く、落ち込むということはなくて、「どうして失敗したのか」、「次からどうしたらいいか」ということを考える姿勢は若いころから変わっていない。結果にかかわりなく、考えることの重要性を説いている[2]

失敗

村上は2020年8月現在、過去10年間に2度大きな失敗を経験している。2011年のギリシャ国債への投資と2013年中国マイクロファイナンス事業への投資である。前者では当時のギリシャは財政危機に陥り、ギリシャ国債が額面の半値以下に下がっており、額面通りに償還されれば年率300%を超えるようなリターンとなる状況であった。他の類似ケースなどを参考にしても国外資産などを原資に3割程度は回収できると踏んだ。しかし、結果はシナリオ通りにはいかず、大きな損失を出した。後者は、2015年から中国経済は急激に減速し、債権の焦げ付きが急増。さらに、現地の運営者が債権の焦げ付きの比率を隠蔽して事態を悪化させた。しかし、村上は後悔はしなかった。ただ、「よく自分がわからないこと」に投資をするのは、期待値を正確に導き出すことができないため、やめようと決意した。この2件で、村上は自分で直接状況を確認したり肌で感じることができ意見が言え、自分もネットワークの中である程度はリスクコントロールできるような案件や、会社側に改善策などを働きかけられるような案件以外はやるべきではないという教訓を得た[2]


  1. ^ a b c d e f g h i j k 村上世彰著『生涯投資家』文藝春秋、2017年6月、ISBN 978-4-16-390665-2
  2. ^ a b c 投資家・村上世彰氏がN高生を「学習効果がない」とバッサリ切ったワケ 高校生1人20万円で投資した結果”. PRESIDENT Online (2020年8月1日). 2020年10月25日閲覧。
  3. ^ 村上世彰著『生涯投資家』p.12 (文藝春秋社刊)
  4. ^ a b 小山雄人「村上世彰の罪と罰 モラルなき友との四半世紀 」(『新潮45』2006年9月号)。
  5. ^ 村上世彰著『生涯投資家』(文藝春秋社刊)
  6. ^ a b c 新生・村上ファンド その野望と内情―この先、村上氏はどう出るのか?」、週刊東洋経済 2013年2月9日号
  7. ^ 週刊東洋経済2008年2月16日号
  8. ^ 老人ホームを営む「村上ファンド」
  9. ^ “村上ファンド元代表の上告棄却”. J-CASTニュース. (2011年6月8日). https://www.j-cast.com/2011/06/08097842.html 2012年5月15日閲覧。 
  10. ^ 新生・村上ファンド その野望と内情”. 東洋経済オンライン (2013年2月11日). 2015年7月28日閲覧。
  11. ^ a b “新生”村上ファンド、再び表舞台に出た真意は?”. 会社四季報オンライン (2015年7月28日). 2015年7月28日閲覧。
  12. ^ 日本を揺るがした投資家が寄付の世界へ BuzzFeed NEWS 2017/09/24
  13. ^ 村上元代表を強制調査 アパレル株の株価操作の疑い 証券監視委
  14. ^ 村上ファンドは本当に「相場操縦」をしたのか
  15. ^ 村上ファンドのTSI株相場操縦罪、成立しない可能性濃厚=第三者委
  16. ^ 村上氏株取引『相場操縦に当たらず』 第三者委が報告書」(日本経済新聞 2016年3月25日)
  17. ^ 村上世彰氏らの刑事告発断念 相場操縦「起訴見込めず」 証券監視委
  18. ^ “出光・昭シェル、経営統合が実現した舞台裏” 東洋経済オンライン 2018/7/10
  19. ^ “出光・昭シェル統合に“物言う株主”が突き付けた「新条件」” ダイヤモンドオンライン 2018/7/17
  20. ^ “村上世彰氏、出光創業家との合意は「大きな意味」” 産経デジタル 2018/7/13
  21. ^ “「株主目線で誠実に関わる」村上世彰氏、創業家との橋渡し担う” SankeiBiz 2018/7/13
  22. ^ “意見分かれた出光創業家の「兄弟」” 日経ビジネスONLINE 2018/7/11
  23. ^ “出光・昭和シェル統合 背中押した「物言う株主」村上世彰氏の動き” 産経デジタル 2018/7/10
  24. ^ “村上氏が一計、出光創業家動かす” 朝日新聞DIGITAL 2018/7/11
  25. ^ “出光・昭和シェル統合、村上氏まとめ役 「名を捨て実を取る」戦略” SankeiBiz 2018/7/11
  26. ^ “The Scourge of Japan's Boardrooms Turns Peacemaker With Big Win” Bloomberg 2018/7/17
  27. ^ 生涯投資家 - 文藝春秋


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