ルーマニア語 文法

ルーマニア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/09 18:59 UTC 版)

文法

ルーマニア語では形態変化にともなって語尾だけでなく語幹の母音や子音もかなり複雑な変化を行う。

名詞形容詞代名詞冠詞は性・数・格によって変化する。

名詞は男性・女性・中性の3つのを持つとされるが、「中性」と呼ばれているのは実際には単数で男性・複数で女性として扱われる名詞を言い、むしろ両性名詞(ambigeneric)とでも称するべきものである[3]。同様の名詞はイタリア語にも少数存在するが、ルーマニア語ではイタリア語より数がずっと多い。形容詞・代名詞・冠詞には男性と女性しかない。

は単数と複数がある。複数形のつくり方は複雑である。男性名詞の複数形はほとんど -i がつく。女性名詞は単数で -ă、複数で -e がつくものが多いが、それ以外に複数で -i や -le などのつくものもある。中性名詞の複数語尾は -e または -uri がつく。

は主格・属格・与格・対格・呼格の5格があることになっているが、人称代名詞以外は主格と対格・属格と与格がそれぞれ同形になるため、3種類の形しかない。名詞・形容詞は格によってほとんど形を変えず、呼格(有生物に対してのみ使われ、現在は衰えつつある[3])を別にすると、女性単数属格・与格が複数と同形になるのが唯一の変化である。このため、格標示は主に冠詞によって行われる。なお、目的語が有生物であるときには、前置詞 pe で対格を表すことができる。このときに目的語を代名詞で重複して表す[4]

数詞はunu(1)とdoi(2)が修飾する名詞の性に従って変化する(doisprezece(12)のdoi-の部分も変化する)。それ以外の数詞は不変化である。

冠詞には不定冠詞、定冠詞がある。不定冠詞(un/o)は他のロマンス語と同様に前置されるが、定冠詞(-ul/-a など)は後置され、名詞と結合して単一の語のように扱われる(つづりの上でも続けて書かれる)。後置冠詞はアルバニア語ブルガリア語にもあるためにバルカンの特徴とされることもあるが、北ゲルマン語にも見られる。

「所有冠詞(属格冠詞)」と呼ばれる語(al/a)は名詞属格の前に置いて「……のもの」を意味するほか、修飾される名詞に定冠詞がついていない場合に用いられる。「指示冠詞(形容冠詞)」と呼ばれる語(cel/cea)は、名詞を修飾する形容詞などの前に置いて、形容詞を名詞化したり、その意味を強める。所有冠詞・指示冠詞は修飾される名詞の性・数に合わせて変化する。

形容詞の比較級・最上級のための特別な形は存在せず、比較級にあたる意味は副詞maiを前置することで表す。最上級は指示冠詞をその前に加える。

動詞人称と数で6通りに変化する。時制には現在・半過去・単純過去(普通は使用されない[5])・複合過去・大過去・未来などがあり、法は直説法・不定法・命令法・接続法・条件法がある。また、現在分詞・過去分詞・動名詞がある。うち直説法の複合過去と未来、および条件法は迂言法を用いる。受動態もコピュラと過去分詞を組み合わせて作る。ほかのロマンス語同様に再帰動詞がある。接続法が非常に頻繁に現れるのはルーマニア語の特徴で、ほかのロマンス語なら不定法を使うところを接続法で表現する[6]

不定法はイタリア語と同様の -re で終わる形と -re のつかない形があるが、-re のつかない形が通常の不定法であり、-re のついた形は行為名詞的な意味になる(女性)。例:face(する、不定形)に対して facere(行為)[7]

不規則動詞にはfi(繋辞)、avea「持つ」、da「与える」、mânca「食べる」、bea「飲む」など十数種類あるが、フランス語スペイン語に比べるとずっと少ない。

前置詞は目的語として対格を取るのが普通だが、一部の前置詞は属格をとる。

人称代名詞

主語の人称は動詞の形から明らかであり、代名詞の主語は特に強調するとき以外はつけない。敬称が発達しているのも特徴である。

人称代名詞には強形と弱形がある。通常、弱形は動詞の直前に置かれる。弱形にはほかに接語として用いる短い形がある(省略)。

対格をとる前置詞の目的語としては強形が用いられる。動詞の目的語として対格強形を使うときは pe が必要である。

属格は三人称代名詞にのみ存在し、与格強形と同形である。三人称以外では所有形容詞を使用する。

単数 複数
第一人称 第二人称 第三人称男性 第三人称女性 第一人称 第二人称 第三人称男性 第三人称女性
主格 eu tu el ea noi voi ei ele
対格 強形 mine tine el ea noi voi ei ele
弱形 te îl o ne îi le
属格 lui ei lor
与格 強形 mie ție lui ei nouă vouă lor
弱形 îmi îți îi ne le

敬称には以下のものがある。

  • dumneata - 二人称単数
  • dumneavoastră - 文法上は二人称複数として扱われるが、意味の上では単数・複数の両方に用いられる。dumneata より丁寧。
  • dânsul / dânsa / dânșii / dânsele - 三人称の敬称の代用として使われる(あのお方)。
所有形容詞
男性単数 女性単数 男性複数 女性複数
一人称単数 meu mea mei mele
二人称単数 tău ta tăi tale
三人称単数 său sa săi sale
一人称複数 nostru noastră noștri noastre
二人称複数 vostru voastră voștri voastre

所有形容詞は所有される物の性・数にしたがって変化するが、三人称代名詞属格は所有者の性・数にしたがって変化する。

語順

ルーマニア語はSVO型の言語であるが、主語はしばしば省略される。主題として目的語を先に出し、OV(S)型の構文になることもあるが、このときは目的語を代名詞によって二重に標示する。

  • Vinul poți să-l alegi tu. ワインは君が選んでかまいません[8]。vinul(ワイン)poți(できる)să alegi(選ぶ、接続法)、-l(三人称男性単数対格の接語形)、tu(君が)
  • Pe Maria a văzut-o Ion. マリアにヨンは会った[9]。-o は三人称女性単数対格の接語形

疑問文は平叙文と同じ語順であり、抑揚によって区別される。

名詞属格・形容詞は原則として修飾する名詞に後置される。


  1. ^ Mallinson (1987) p.318
  2. ^ Mallinson (1987) p.308
  3. ^ a b Mallinson (1987) p.312
  4. ^ Mallinson (1987) pp.315-316
  5. ^ Mallinson (1987) p.314 によると、オルテニア方言でのみ使われる
  6. ^ Mallinson (1987) p.317
  7. ^ 泉井(1968) pp.123-125
  8. ^ 鈴木信吾、鈴木エレナ『ニューエクスプレス ルーマニア語 (CD付)』白水社、2008年、65頁。ISBN 9784560067956 
  9. ^ Mallinson (1987) p.316
  10. ^ a b Mallinson (1987) p.318
  11. ^ Melodie Hanners, The History of the Romanian Language, Linguistics 450, Brigham Young University, http://linguistics.byu.edu/classes/Ling450ch/reports/romanian.html 
  12. ^ Mallinson (1987) pp.318-319
  13. ^ Mallinson (1987) p.319
  14. ^ Mallinson (1987) pp.319-320






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