ナシ ナシの概要

ナシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/27 20:45 UTC 版)

ナシ
Pyrus pyrifolia
ナシの木(品種は豊水)
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : バラ類 rosids
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
亜科 : サクラ亜科 Amygdaloideae[1]
: ナシ属 Pyrus
: ヤマナシ P. pyrifolia
変種 : ナシ var. culta
学名
Pyrus pyrifolia (Burm.f.) Nakai var. culta (Makino) Nakai (1926)[2]
和名
ナシ(梨)
英名
Nashi Pear
Sand Pear
Russet apple pear
Japanese pear[3]

主なものとして、和なし日本なしPyrus pyrifolia var. culta )、中国なし (P. bretschneideri ) 、洋なし西洋なしP. communis )の3つがあり、食用として世界中で栽培される。日本語で単に「梨」と言うと通常はこのうちの和なしを指し、本項でもこれについて説明する。他のナシ属はそれぞれの項目を参照のこと。

概要

ナシ和なし日本なし)は、日本の本州、四国、九州に生育する野生種ヤマナシ(ニホンヤマナシ、P. pyrifolia var. pyrifolia )を原種とし、改良・作出された栽培品種群のことである[4]。よく知られるものに、二十世紀、長十郎、幸水、豊水、新高、あきづきなどの品種がある。

高さ15メートルほどの落葉高木。葉は長さ12cm程の卵形で、縁に芒状の鋸歯がある。花期は4月頃で、葉の展開とともに5枚の白い花弁からなるを付ける。8月下旬から11月頃にかけて、黄褐色または黄緑色でリンゴに似た直径10 - 18センチメートル程度の球形の果実がなり、食用とされる。果肉は白色で、甘く果汁が多い。リンゴやカキと同様、尻の方が甘みが強く、一方で芯の部分は酸味が強いためあまり美味しくない。水気が多くてシャリシャリ、サクサクとした独特の食感がナシの特徴だが[4]、これは石細胞と呼ばれるものによる[5]。石細胞とは、ペントサン英語版リグニンという物質が果肉に蓄積することで細胞壁が厚くなったものである[5]。洋なしは和なしよりも石細胞の量が少ないために、洋梨と和梨とでは食感に大きな差が生じる。

野生のもの(ヤマナシ)は直径が概ね2 - 3センチメートル程度と小さく、果肉が硬く味も酸っぱいため、あまり食用には向かない。ヤマナシは人里付近にしか自生しておらず、後述のように本来日本になかった種が、栽培されていたものが広まったと考えられている。なお、日本に原生するナシ属にはヤマナシの他にもミチノクナシ(イワテヤマナシ) (Pyrus ussuriensis var. ussuriensis) 、アオナシ(Pyrus ussuriensis var. hondoensis、和なしのうち二十世紀など果皮が黄緑色のものを総称する青梨とは異なることに注意)、マメナシ (Pyrus calleryana) がある。

名前

ナシの語源には諸説ある。

  • 江戸時代の学者新井白石は、中心部ほど酸味が強いことから「中酸(なす)」が転じたものと述べている。
  • 果肉が白いことから「中白(なかしろ)」あるいは「色なし」
  • 風があると実らないため「風なし」
  • 「甘し(あまし)」
  • 「性白実(ねしろみ)」
  • 漢語の「梨子(らいし)」の転じたもの

また、ナシという名前は「無し」に通じることからこれを嫌って、家の庭に植えることを避けたり、「ありのみ(有りの実)」という呼称が用いられることがある(忌み言葉[6]。一方で「無し」という意味を用いて、盗難に遭わぬよう家の建材にナシを用いて「何も無し」、鬼門の方角にナシを植えることで「鬼門無し」などと、縁起の良さを願う利用法も存在する。

英語圏では多くの呼び名がある。

  • 産地から、Asian pear, Chinese pear, Korean pear, Japanese pear
  • リンゴのような形から Apple pear
  • 砂のようなシャリシャリした食感から Sand pear
  • 日本語の「ナシ」から Nashi pear

注釈

  1. ^ また、天の川に長十郎ではなく今村秋を掛け合わせたと考えられていたのが原因で、それぞれの品種の原産地である新潟県(天の川)と高知県(今村秋)の頭文字を取ったという俗説がある。
  2. ^ ただし、ワインとは厳密にはブドウから作られた酒のみを表す。正確には、和梨のシードル (: cidre) 、ペアサイダー (: pear cider) 、ペリー (: perry) 、スパークリングペリー(梨のスパークリングワイン)、和梨の発泡酒、ポワレ(: poiré)などと呼ぶのが適切である。

出典

  1. ^ Potter, D.; Eriksson, T.; Evans, R.C.; Oh, S.H.; Smedmark, J.E.E.; Morgan, D.R.; Kerr, M.; Robertson, K.R.; Arsenault, M.P.; Dickinson, T.A.; Campbell, C.S. (2007), “Phylogeny and classification of Rosaceae”, Plant Systematics and Evolution 266 (1–2): 5–43, doi:10.1007/s00606-007-0539-9, http://biology.umaine.edu/Amelanchier/Rosaceae_2007.pdf 
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Pyrus pyrifolia (Burm.f.) Nakai var. culta (Makino) Nakai ナシ(狭義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年1月27日閲覧。
  3. ^ a b c d e 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 201.
  4. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 198.
  5. ^ a b c d e ゼクシィキッチン. “梨にしかないシャリシャリ食感の秘密は?”. 2019年5月12日閲覧。
  6. ^ 有の実って何?忌み言葉色々”. 2021年3月21日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 200.
  8. ^ 卷第卅 七年(中略)丙午勅詔令天下勸殖桑苧梨栗蕪菁等草木以助五穀
  9. ^ 和漢三才図会 巻第八十七 梨”. 国立国会図書館 近代デジタルライブラリー. 2015年5月15日閲覧。
  10. ^ 鈴木晋一 『たべもの史話』 小学館ライブラリー、1999年、pp50-54
  11. ^ https://www.lalanet.gr.jp/sp/search/searchdtl.aspx?knd=6&ht=7&pageSiz=0&pageNum=0&&stdycd=16715
  12. ^ a b c d “秋の味覚「梨」品種ごとに違う味や旬の時期を知ろう”. ウェザーニュース. (2020年9月26日) 
  13. ^ フジテレビトリビア普及委員会『トリビアの泉〜へぇの本〜 2』講談社、2003年。 
  14. ^ 二十世紀(にじっせいき Nijisseiki) | 鳥取二十世紀梨記念館 なしっこ館”. なしっこ館. 2020年9月28日閲覧。
  15. ^ a b 松戸が二十世紀梨発祥の地です まつどの観光・魅力・文化 松戸市、2017年6月10日閲覧
  16. ^ a b 梨|旬鮮図鑑 千葉県、2017年6月10日閲覧
  17. ^ 二十世紀梨の原木【松戸市指定有形文化財】”. 松戸市観光協会. 2022年1月9日閲覧。
  18. ^ 二十世紀梨誕生の地 【松戸市指定文化財】”. 松戸市観光協会. 2022年1月9日閲覧。
  19. ^ 神奈川県園芸試験場桃季会:「桃季の郷に集う」創立10周年記念誌
  20. ^ a b c d 信州伊那谷生まれの梨、南水物語”. JA長野県. 2021年2月20日閲覧。
  21. ^ NPO法人かわさき歴史ガイド協会. “長十郎梨のふるさと” (pdf) (日本語). 2015年11月6日閲覧。
  22. ^ 埼玉ブランドの梨「彩玉(さいぎょく)」”. 埼玉県. 2020年8月29日閲覧。
  23. ^ 品種登録ホームページ 新甘泉 農林水産省生産局知的財産課
  24. ^ にっこり 農林水産省品種データベース、2021年2月20日閲覧
  25. ^ a b c d にっこり(梨)”. カラダにとちぎ. 一般社団法人とちぎ農産物マーケティング協会. 2017年4月29日閲覧。
  26. ^ 農産物のブランド化に対する行政の取り組み 宇都宮大学国際学部中村祐司研究室
  27. ^ いばらきの農林水産物 梨”. 茨城県営業戦略部販売流通課. 2018年11月21日閲覧。
  28. ^ 農林水産省生産局知的財産課 品種登録ホームページ きらり
  29. ^ 秋麗(しゅうれい)』(プレスリリース)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構https://www.naro.go.jp/collab/breed/0400/0415/001277.html2022年8月30日閲覧 
  30. ^ “見かけ覆す驚きの甘さ 熊本の梨「秋麗」”. 西日本新聞 (西日本新聞社). (2017年8月12日). https://www.nishinippon.co.jp/item/n/350452/ 2022年8月30日閲覧。 
  31. ^ 作況調査(果樹):農林水産省”. www.maff.go.jp. 2020年11月3日閲覧。
  32. ^ 教えてちばの恵み 旬鮮図鑑 梨 千葉県、2021年11月27日閲覧
  33. ^ 白井市 しろいの梨
  34. ^ 市川市 農水産業 市川のなしについて
  35. ^ 鎌ケ谷市 特産物 鎌ヶ谷の梨
  36. ^ 船橋のなし情報サイト
  37. ^ 松戸市 観光梨園(梨もぎ)
  38. ^ 柏市の梨直売所情報
  39. ^ まいぷれ八千代市 八千代市の梨のすべて
  40. ^ 市原市 特産品の概要 梨
  41. ^ 香取市 カトリノ郷物語vol.16 水郷梨
  42. ^ JAいすみ 梨
  43. ^ JA長生 とれたて彩菜 長生ブランド
  44. ^ 東京新聞 梨の出荷始まる 筑西のJA選果場
  45. ^ 茨城をたべよう
  46. ^ 宇都宮市 特産物のご案内 梨
  47. ^ ふくしま新発売。ふくしまの日本ナシ
  48. ^ 一般社団法人 福島市公設地方卸売市場協会 ナシ(梨)
  49. ^ 利府梨のルーツ 利府町観光協会、2022年2月27日閲覧
  50. ^ 石川遥一朗 (2020年8月24日). “日野藤吉”. https://kahoku.news/articles/20200824kho000000103000c.html 2022年2月27日閲覧。 
  51. ^ 食の都庄内 刈屋梨
  52. ^ 越中とやま食の王国 富山食ブランド 呉羽梨
  53. ^ 近畿おたから図鑑(京たんご梨)”. 経済産業省近畿経済産業局. 2021年2月20日閲覧。
  54. ^ 大淀町、2020年3月2日
  55. ^ 生協ひろしま 世羅 幸水梨・豊水梨
  56. ^ 道の駅 伊万里ふるさと村
  57. ^ 荒尾梨でおもてなしMAP
  58. ^ 四季を通して日田の梨
  59. ^ 梨 とれたてクッキング JA全農とっとり、2021年11月27日閲覧
  60. ^ a b 第3章 調理室における衛生管理&調理技術マニュアル”. 文部科学省. 2020年6月5日閲覧。
  61. ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  62. ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)
  63. ^ 歌舞伎事典:梨園”. 文化デジタルライブラリー. 2021年2月20日閲覧。
  64. ^ 梨の礫”. コトバンク. 2021年2月20日閲覧。






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