ITRON
読み方:アイトロン
ITRONとは、東京大学の坂村健が中心となり推進しているTRONプロジェクトによって設計された、組み込みシステム用のリアルタイムOSのことである。
ITRONは、TRONプロジェクトのサブプロジェクトとして1984年に仕様の策定が開始された。1987年に初めてITRON1が公開され、ITRON2、μITRON2、ITRON3とバージョンアップを重ねている。
ITRONの仕様はカーネルに重点が置かれており、コンパクトでリアルタイム性に優れているなどの技術的特徴を持っている。また、オープンアーキテクチャで仕様が公開されている点も特徴のひとつとなっている。国内では、組み込みOSとして、ITRONが最も多く採用されている。
2008年11月現在、ITRONの最新バージョンの仕様は、μITRON4.0となっている。なお、組込み機器の高度化や複雑化へ対応するため、次世代ITRONとしてT-Kernelシリーズへの移行が推進されている。
参照リンク
ITRON Project Archive
ITRON
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/10 00:04 UTC 版)
ITRON(アイトロン、Industrial TRON)は、TRONプロジェクトが策定・維持している組み込みOS・リアルタイムOSカーネルの仕様である。
- 1 ITRONとは
- 2 ITRONの概要
- 3 発展
ITRON(μITRON)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 00:21 UTC 版)
「TRONプロジェクト」の記事における「ITRON(μITRON)」の解説
組込みシステム向け(を重視した)リアルタイムOS。TRONプロジェクトにおける最も古いプロジェクトであり、1984年にプロジェクトを開始した。 1982年より、日本電子工業振興協会・マイクロコンピュータ技術委員会・OS分科会において、日本の電機各社とともに日本のマイコン開発をどう進めるかを議論していた中で、主査であった坂村健(当時は東京大学理学部情報科学科助手)が構想したものが、形となったものである。「まず基盤となるリアルタイムOSを含む開発環境整備から進め、その後、そのOSが最も効率よく動くチップを作ろう」と言うことで、まず最初にITRONプロジェクトが開始された。 マイクロコンピュータ技術委員会に参加していたメンバーのうち、門田浩(当時NECの集積回路事業部、退社後に組込みシステム技術協会専務理事)と桑田薫(同、NEC退社後に東工大副学長)を中心とする日本電気(NEC)のチームによって最初にITRONの実装が進められ、1985年春にはNEC V20/30上で動作するITRONの実装ITRON/86がNECによって公開された。1986年8月には68000上で動作するITRON/68Kが日立によって公開されるなど、ITRONの仕様の策定と各社による実装が同時に行われ、各社の実装がITRON仕様にフィードバックされた。 1984年当時、日本の組み込みシステムはOSを搭載しておらず、そのためITRONの当時のライバルは「他のリアルタイムOS」ではなく「OSを利用していない組み込みシステム」であった。OSを搭載しないシステムと比較して、OSを搭載することでどうしても発生してしまうオーバーヘッドを最小限に減らし、OSの導入による標準化によって生じるソフトウェアの互換性や保守性の面でのメリットが上回るように、「弱い標準化」の方針で仕様の設計が行われた。 1987年5月に16bitプロセッサ向けの初版(ITRON1)を公開。ITRON1仕様はNEC Vシリーズやモトローラ68000を始めとして数十を超える16bitシステムに実装が行われた。 1989年にはITRON1仕様に機能の追加やITRON2相互間の互換性強化などを施した32bitの大規模組み込みプロセッサ(TRONCHIPを想定)向けの「ITRON2」を公開。同時に、小規模組込みシステム(シングルチップコンピュータや8ビットプロセッサ)向けのITRON2のサブセットとして「μITRON(μITRON2)」も公開された。「ITRON1の標準化の程度を上げて仕様拡張を行ったのがITRON2であり、ITRON1の適応化の程度を上げて仕様を簡略化したのがμITRON」とのこと。システム間で共通する標準OSとしての互換性を保つことと、各システムに合わせてOSを適応化することで得られる性能の向上は、トレードオフの関係になるため、高性能な32bitシステムと低性能な8bitシステムの双方において、そのバランスを取れるように策定された仕様である。 ITRON2仕様においては、ITRON間の互換性やアプリケーションプログラムの移植性が高められ、またITRON仕様とBTRON・CTRONとの整合性が強化された。ただし、μITRON仕様が非常に広く普及したのに対して、ITRON2仕様はほとんど利用例が無く、失敗に終わったといえる。 μITRON仕様の基本方針に関して、1989年当時、様々な汎用の16bitプロセッサにおいてITRONが使われていたが、家電製品や自動車への組み込みを目的としたチップ(シングルチップコンピュータや8bitプロセッサなど)においては、ROM容量・RAM容量の制限やコストの問題などから標準OSが使われることは少なく、アプリケーション側でOSの機能まで包含してプログラミングを行うのが一般的であった。いくらITRONは適応化によって不要な機能を削除できるといっても、元々16bitシステム用に策定されたITRON1仕様はこれらのシステムにおいては巨大であり、オーバーヘッドが発生するため、採用できない。そのため、μITRON仕様においては、ITRONのシステムコールインタフェースやパラメータの有無などいくつかの点について、推奨仕様あるいはインプリメント依存仕様に格下げを行うなど自由度大きくし、また、OSレベルでの機能のサブセット化を許し、OSのインプリメンタがプロセッサアーキテクチャに合った機能や必要性の高い機能を自由に選択できるなど、ITRON2の仕様書の言葉を借りるなら、OSとしての標準化が「限界を超える」所まで弱められた。この点から、「μITRONは、一つのOSの仕様を指すものではなく、OSの仕様設計を行ない、システムコールの命名を行うためのガイドライン」に過ぎないと坂村は考えており、「μITRONでは、プロセッサ毎あるいはアプリケーション毎に、一つのガイドラインに沿った別々のOS仕様が存在しており、それらのOSがμITRONというOSのファミリを形成」するものと想定された。ITRONが様々なプロセッサに実装される組み込みにおいては、OSの仕様の違いによる問題よりも、プロセッサ間による違いの方がずっと影響力が大きいため、標準OSとしての互換性が取れなくても問題ない。それでも、どのITRON仕様OSにおいてもμITRON仕様で決めたシステムコール名称を使っているため、プログラマの教育がしやすく、「教育の互換性」というメリットは大きなものだと坂村は考えた。 坂村の考えは成功し、μITRON3.0仕様が策定された1993年の時点で、ほとんどすべての日本メーカー製8bit MCUにμITRON2が実装され、さらにはμITRON2仕様カーネルを32bitプロセッサ用に実装するという、当初想定していなかった適用例も出てきた。そのため、1993年発表のμITRON3.0仕様においては、μITRON2における事例のフィードバックを受けて、ITRON2とμITRONの仕様が一本化され、μITRON仕様はITRON全体の新バージョンとして、ITRONのほぼ全てに相当する機能を持つようになった。μITRON3.0においては、標準化と適応化の強化に加えて、「接続機能」が追加されたことが大きな特徴で、1993年当時はコピー機やFAXなど、MCUの低価格化に従って1つの機器の制御に複数のMCUが使われるケースが増えてきていたことから、μITRON仕様カーネルを持ったノードを疎結合ネットワークによって相互接続した分散システムをサポートするための機能が追加された。また、開発環境の標準化などにも取り組んだ。 1994年よりトヨタ社が車載用OSの候補としてITRONを検討し始め、1997年にはITRON専門委員会の下にRTOS自動車応用技術委員会が設立され、1999年にはITRONを搭載した初の自動車、トヨタ・ランドクルーザープラドが発売された。この頃には、民生用機器においては、デジタル家電で広く使用されていた他、1990年代後半から2000代前半にかけて普及したフィーチャー・フォンにおいても広く使われていた。 1999年にはμITRON4仕様が公開される。ソフトウェア移植性の向上、外販することを前提とするソフトウェア部品構築のための機能、自動車制御分野おけるRTOSに対する要求、プロセッサの性能向上やメモリ容量の増加への対応(従来はオーバーヘッドが大きかったために見送られた機能も入れることができるようになった)、が主な追加点である。この頃には、ネットワーク応用やインターネット・イントラネット関連機器を中心として、通信やGUI・デバッグ関連のミドルウェアがITRON上で利用される機会が増加し、これらのミドルウェアの移植性向上に対する要求を満足するため、「弱い標準化」と「強い標準化」と言う相反する要求を満たす仕様となった。 組込み機器の機能の高度化や複雑化・大規模化に対応するため、2001年に「より強い標準化」を目指したT-Engineプロジェクトが開始され、ITRONプロジェクトは終了した。しかし「リアルタイム性、リソースを浪費しないコンパクトさ、柔軟な仕様適合性、オープンアーキテクチャポリシー」が強く支持され、その後も小規模システムにおいてはμITRONが広く使われている。 なお、μITRON4.0の仕様策定の中心人物であり、坂村健の監修のもとでμITRON4.0の仕様書を編纂した東大坂村研究室出身の高田広章は、T-Engineプロジェクトに移行せず、μITRON4.0仕様に準拠した「TOPPERS/JSPカーネル」をベースとするTOPPERSプロジェクトを独自に立ち上げた。
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