設計への批判と問題点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 17:07 UTC 版)
「M60機関銃」の記事における「設計への批判と問題点」の解説
M60は、アバディーン試験場でテストされた時には極めて有効な兵器と評価された。しかし、すぐに投入された東南アジアのジャングルでは、初期型はすぐに数々の問題点を露呈した。重さ自体が問題だったという批判も少なくないが、同時代の7.62mm機関銃の中では最も軽く、代替品のM240より軽いほどである。 本銃の評価は良いものから悪いものまで幅広いが、ガスオペレーションシステムの複雑さに起因する信頼性の低さは、この銃に関する共通の批判であった。ベトナムの実戦部隊からの最も一般的な苦情は、M60は信頼性が低く、特に長期間使用を続けて汚れた時にジャム(弾詰まり)を起こしたり、他の動作不良を起こしたりしがちということであった。M60の機関部は複雑で、砂埃で即座に動作が停止してしまう傾向がある。このことは、イスラエル国防軍がM60を不採用とした最も重要な理由の一つとなった。特に汚れが酷い時には、空薬莢の排出不良を起こしがちで、たいていはリムがちぎれた空薬莢が薬室に残ってしまう。こうした場合には銃身から棒を突き入れるなどして、空薬莢を手作業で抜き出さねばならない。この処置には時間がかかった。 ボルトが作動にともなって摩耗しやすく、ボルトの前進位置すなわち頭部間隙(ヘッドスペース)が狂うと、空薬莢が破断する事故につながった。戦闘中に空薬莢が破断して、前半部分が薬室の中に残った場合には、銃身そのものを交換しなければならない。 ジャングルでない普通の状態でも、数千発を発射するとしばしば弾詰まりを起こした。これは、実戦においては非常に深刻な問題である。ベトナム戦争時のM60の写真には、レーションの丸い空き缶を給弾トレイの脇に括りつけている物が良く見られるが、これは、弾帯の流れ込みをスムーズにするための現地での工夫だった。 この機関銃は、ブローニングM1918自動小銃(BAR)よりも清掃とメンテナンスが難しかった。安全装置(セーフティ)は扱いが厄介で、他の銃では発射準備時にセーフティを下に移動させるが、本銃では上に移動させるようになっており、M16やM1911A1に慣れた兵士には誤操作の原因となった。 バレル・ラッチ機構(小レバーを前後に回す)は、射手の装備に引っかかり、ラッチが意図せずに閉鎖を解いてしまい、バレルが脱落するという結果を引き起こしがちであった。このレバー機構の回転軸には、押して解除できるロックボタンが追加された。しかし、レバー機構そのものは未だに残っており、この銃が制式採用されてから60年間経った今でもこの問題は再発している。 グリップとトリガーのアセンブリは、他の設計でよくある取り外し可能ピンではなく、壊れやすい板バネクリップで取り付けられている。このクリップは、最初に試験場で試験された時に、壊れやすいことを指摘されたことが知られている。戦地でのM60は粘着テープやケーブル結束タイが付いているのが時々見受けられるが、これは、クリップが壊れたために現地部隊が取り付けたものである。 初期のM60における最も深刻で致命的な部品は、レシーバー・カバーと給弾トレイである。これらはプレス加工された薄い鉄板で、無理な力を加えると容易に歪んだり破損した。強化部品が供給されるようになったのは1970年代初期である。さらに、初期のM60では部品の軽量化のため、ドライビング・スプリング・ガイドとオペレーティング・ロッドが細すぎ、また、ピストン・ヘッドの後ろにあるガス・ピストンは非常に小さく、いずれも脆弱で破損しやすかった。1970年代には強化部品に変更され、緩慢ながら代替されていった。 銃身下のガス・シリンダーの栓が緩みやすく、射撃中に外れて飛んでしまう事も多発したため、現地部隊では脱落、紛失防止として針金を巻いて固定する予防策が流行した。 ボルトを後退位置で止めるシアが摩耗しやすいため、射手が射撃中にトリガーを緩めてもシアとボルトがスリップしてしまい、フルオート射撃が止まらなくなる事故の原因となった。 他のいくつかのバージョンのM60における問題として、FN MAGやPK、ラインメタルMG3など銃身が交換可能な7.62mm汎用機関銃の二脚がガス・シリンダーまたは銃身覆いに取り付けられていたのに対してM60では銃身に付けられていた。これは、命中精度に影響するので、のちに強化銃身に変更された。 アメリカ海兵隊の大部分の部隊ではM60を信頼せず、代用にいったん制式から外されたブローニング自動小銃(BAR)を1967年-1968年まで公式に使い続けていた。1980年代半ばには海兵隊仕様のM60も8.61kgに軽量化されて、わずかながら信頼性の改良を含む設計が施されたM60E3が支給された。しかしながら、部隊からはすぐに銃身の過熱について苦情が出た。これは、他のM60と共通の問題である。 これまでは銃身交換のタイミングが200発の持続発射だったところ、M60E3の軽量銃身は100発の持続発射で交換しなければならない。M60では銃身側に取り扱い用のハンドルがなく、射撃後に取り扱うためには耐熱手袋が必要である。また銃身には二脚が付属しているため、三脚を使わない限り、銃身交換作業の際には銃本体を手で支えるか、地面に横たえねばならない。予備銃身にはガスシステムと二脚が付属するため、常に持ち運ぶには重くかさばる。しかし、M60E3では二脚が銃本体側へ、またハンドルが銃身後部へ移されたので、銃を二脚で地面等に据えたままで、ハンドルを使って耐熱手袋無しに銃身を交換することができるようになった。 この機関銃のM249軽機関銃への更新は1980年代から始まった。また、1991年に制式採用されたM240機関銃(FN MAGのライセンス生産品)への交換が20世紀の終わり頃から始まった。M240はM60よりはるかに重いが、その高い信頼性から重用されている。しかしながら、多数のM60がアメリカ陸軍予備役部隊と州兵部隊で使われ続け、また、米軍特殊部隊において7.62mm機関銃として1990年代の終わり頃まで、さらに、SEALs(アメリカ海軍特殊部隊)によって1990年代から最近まで使われ続けた。また、航空機、艦船やヘリ用ドアガンとしても配備が継続されているが、耐用年限到達に伴い、M240の各バージョンに段階的に更新されている。最終的には、残存するM60と現役のM240は双方とも、新開発の軽量型7.62mm機関銃と代替予定となっている。
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