中国絵画理解のための基本語彙
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 09:09 UTC 版)
「中国の絵画」の記事における「中国絵画理解のための基本語彙」の解説
(以下に説明した語句については、本文解説中では注釈を省く。) 丹青(たんせい) - 字義は「赤と青」のことであり、転じて「色彩」「絵画」の意で用いられる。 用筆と用墨 - 唐末・五代の山水画家荊浩(けいこう)は、自著『筆法記』において、「自分は、呉道子の用筆と項容の用墨の長所を取り入れて、自己の山水画様式を確立した」という意味のことを述べている(呉道子と項容はいずれも唐代の画家)。ここでいう「筆」とは筆線、線描のことであり、「墨」とは水墨の「にじみ」や「ぼかし」を生かした技法のことを指す。 工筆画と写意画 - 主として、花卉画について用いられる概念である。工筆画は主として彩色画で、対象の輪郭線を精密に描き、その内側を彩色で埋めていく方式である。対する写意画とは、対象の外形を精密に再現しようとするものではなく、対象の「意」(本質、精髄)を描こうとするもので、色彩を用いる場合もあるが、水墨技法を主体とする。一例として、蘭の葉を描く場合、工筆画であれば葉の表側、裏側を精密に描写するが、写意画では葉のねじれている部分で描線が途切れてしまう場合がある。写意の花卉画の名手としては徐渭(じょい、明)、陳淳(明)などが知られる。 白描(はくびょう) - 墨一色で描く技法の一種であるが、「水墨画」とは異なり、もっぱら線描(輪郭線)のみをもって描写する技法。白描画の名手としては呉道玄(唐)、李公麟(宋)などが知られる。 界画(かいが) - 楼閣、船などを定規を用いて正確に描写した画のこと。定規が墨で汚れないように、筆に断面半円形の筒をかぶせて定規に当て、線を引く。元の郭忠恕、明の王振鵬などが名手として知られる。 鉤勒填彩(こうろくてんさい) - 対象の輪郭線を描き(鉤勒)、その中を彩色で埋める(填彩)画法。 没骨(もっこつ) - 上述の鉤勒填彩とは対照的に、輪郭線を用いず、面によってものの形を表す技法。 潑墨(はつぼく) - 水墨画の技法の一つだが、具体的にどのような技法であるかについては諸説ある。「潑」は「墨を注ぐ、はね散らす」ということで語義どおりには大量の墨を注いで描く技法ということになる。『唐朝名画録』には王墨という人物が潑墨技法で作画したエピソードが紹介されている。王墨とは「墨の王さん」という意味で、本名ではなく、他書では「王黙」「王洽」と表記している。王墨は素性不明の人物だが、酔った勢いで、筆の代わりに手足を使って墨をこすりつけたりして、偶然にできた墨の形から山水や風雨を描き出し、その見事さは神業のようであったという。このエピソードによれば、墨を注いで偶然生じた形をもとに山水樹木などを描く技法ということになる。 破墨(はぼく) - 『歴代名画記』に「破墨」の語があり、王維がこの技法を使用していたことがわかるが、具体的技法や「墨を破る」の語義については諸説あり明確でない。また、上述の「潑墨」としばしば混同される。一般的には、淡墨と濃墨の両方を用いて変化をつける技法と解釈されている。 焦墨(しょうぼく) - 水気の少ない、黒色の濃い墨を指す。 渲染(せんせん) - 填彩のように平面を一様に塗るのではなく、水気を多く含んだ墨または色をにじませて濃淡を表す技法。 皴法(しゅんぽう) - 「皴」の原義は「ひび」「しわ」のことだが、転じて中国画において山や岩の輪郭や表面のごつごつ、ざらざらとした感触を表す画法のこと。以下に例示するようなさまざまな種類がある。 斧劈皴(ふへきしゅん) - 皴法のうち、斧で断ち割ったような硬い感じを表すもの。筆を画面にしっかり押し付け、斜め下方に引くようにして表す。 披麻皴(ひましゅん) - 麻皮皴(まひしゅん)ともいい、「麻の繊維をほぐしたような皴法」という意味。五代・北宋の江南山水画(董源など)において、山の輪郭を複数の線を重ねて描き、柔らかい感じを出すために用いられている。 雨点皴(うてんしゅん) - 雨粒が土塀に次々と当たって、土塀の色を変えていくような感じを表すもので、逆筆(下から上へ)の短いタッチを重ねていくもの。北宋山水画の代表作である『谿山行旅図』(北宋・范寛)に用いられている。 折帯皴(せったいしゅん) - 順筆で水平に筆を動かした後、下方に直角に払うもので、元末四大家の倪瓚(げいさん)の山水画に効果的に用いられている。 米点(べいてん) - 北宋の米芾(べいふつ)・米友仁父子の創始とされる技法で、輪郭線を描く代わりに、筆の腹を使い、横長の楕円形の点を描き連ねて山などを表す技法。 点苔(てんたい) - 岩上の苔、山上の樹木などを表すために細かい点を打つ技法。 擦筆(さっぴつ) - 半渇きの筆を側筆でこすりつけるようにして描く技法。上述の皴法と併せて「皴擦」(しゅんさつ)ともいう。 三遠法(さんえんほう) - 北宋の郭煕(かくき)の『林泉高致』にみえるもので、高遠、平遠、深遠の3つの遠近法を指す。高遠は山を麓から見上げてその高さを表すもので、仰角視にあたる。平遠は近くの山から遠くの山を望み見るもので、水平視にあたる。深遠は「山の前から山の後を窺うもの」で、やや難解であるが、俯瞰視と解釈するのが一般的である。 花卉翎毛画(かきれいもうが) - 「卉」は草、「翎」は鳥の羽、「毛」は獣の毛の意味で、全体として草花鳥獣画という意味。 仕女図(しじょず) - 仕女とは宮中に仕える女性の意だが、「仕女図」は「美人図」とほぼ同義。 折枝画(せっしが) - 字義は「折り取った枝」の意だが、「折枝画」とは、花木の全体の姿ではなく、一つの枝のみをクローズアップして画題としたもの。 道釈画(どうしゃくが) - 道釈人物画ともいう。道教または仏教関係の人物(羅漢など)を描いた宗教画をさす。 (工筆画)辺文進『四喜図』 (写意画)徐渭『葡萄図』 (没骨)惲寿平『出水芙蓉図』 (白描)呉道玄『孔夫子像』 (界画) 王震鵬『龍池競渡図巻』 (潑墨)梁楷『潑墨仙人図』 (斧劈皴)夏珪『渓山清遠図』(部分) (披麻皴)董源『寒林重汀図』 (折帯皴)倪瓚『容膝斎図』 (高遠)范寛『谿山行旅図』 (三遠)郭煕『早春図』中央・高遠、左奥・平遠、右奥・深遠
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