雇用保険 目的・定義

雇用保険

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/20 07:52 UTC 版)

目的・定義

雇用保険は労働者失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする(第1条)。この目的を達するために、失業等給付及び育児休業給付を行うほか、二事業(雇用安定事業、能力開発事業)を行うことができる(第3条)。

雇用保険法において、「離職」とは、被保険者について、事業主との雇用関係が終了することをいう。「失業」とは、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいう(第4条)。したがって、「離職」=「失業」ではない。雇用関係が存続する限りは、賃金の支払いがなくても被保険者となる。

管掌

「雇用保険は政府が管掌する」と法定され(第2条)、雇用保険の保険者は国である。雇用保険法の本則では厚生労働大臣が幅広い権限を有しているが、雇用保険法に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができ(第81条1項)、この規定により都道府県労働局長に委任された権限は、厚生労働省令で定めるところにより、公共職業安定所長に委任することができる(第81条2項)、とされ、以下のように分掌される(施行規則第1条、施行令第1条)。

  • 第7条(被保険者に関する届出)、第9条1項(労働者が被保険者となったこと又は被保険者でなくなったことの確認)及び第38条2項(短期雇用特例被保険者に該当するかどうかの確認)の規定による厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長に委任する。
  • 前項の規定により都道府県労働局長に委任された権限は、第81条2項の規定により、公共職業安定所長に委任する。
  • 雇用保険に関する事務(労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則第1条1項に規定する労働保険関係事務を除く。以下同じ。)のうち、都道府県知事が行う事務は、適用事業の事業所の所在地を管轄する都道府県知事が行う。
  • 雇用保険に関する事務のうち、都道府県労働局長が行う事務は、厚生労働大臣の指揮監督を受けて、適用事業の事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長が行う。
  • 雇用保険に関する事務のうち、公共職業安定所長が行う事務は、都道府県労働局長の指揮監督を受けて、適用事業の事業所の所在地を管轄する公共職業安定所長(次の各号に掲げる事務にあっては、当該各号に定める公共職業安定所長)が行う。
    • 受給資格者、高年齢受給資格者及び高年齢求職者給付金の支給を受けた者であって、当該高年齢受給資格に係る離職の日の翌日から起算して1年を経過していないもの(「高年齢求職者給付金受給者」)、特例受給資格者及び特例一時金の支給を受けた者であって、当該特例受給資格に係る離職の日の翌日から起算して6か月を経過していないもの(「特例一時金受給者」)並びに第60条の2第1項各号に掲げる者について行う失業等給付(雇用継続給付を除く)に関する事務並びに日雇労働被保険者について行う認可に関する事務、第44条の規定に基づく事務及び日雇労働求職者給付金の支給に関する事務 その者の住所又は居所を管轄する公共職業安定所(「管轄公共職業安定所」)の長
    • 日雇受給資格者について行う就業促進手当の支給に関する事務 同号の安定した職業に係る事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長
    • 日雇労働被保険者について行う第43条2項の規定に基づく事務 その者が前2月の各月において18日以上雇用された又は継続して31日以上雇用された適用事業の事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長又は管轄公共職業安定所の長
    • 第10条3項に基づく事務及び日雇労働被保険者について行う日雇労働求職者給付金の支給に関する事務 その者の選択する公共職業安定所の長(厚生労働省職業安定局長が定める者にあっては、職業安定局長の定める公共職業安定所の長)
    • 第10条の3第1項の規定による失業等給付の支給を請求する者について行う当該失業等給付に関する事務 当該失業等給付に係る受給資格者、高年齢受給資格者(高年齢求職者給付金受給者を含む。)、特例受給資格者(特例一時金受給者を含む。)、日雇労働被保険者又は教育訓練給付金の支給を受けることができる者の死亡の当時の住所又は居所を管轄する公共職業安定所の長
  • 第63条1項1号に掲げる事業のうち職業能力開発促進法第11条1項に規定する計画に基づく職業訓練を行う事業主及び職業訓練の推進のための活動を行う同法第13条に規定する事業主等(中央職業能力開発協会を除く。)に対する助成の事業の実施に関する事務は、都道府県知事が行うこととする。

また、船員が失業した場合には、公共職業安定所のほかに地方運輸局も給付事務を行う。

行政庁は、雇用保険法の施行のため必要があると認めるときは(保険給付のほか、二事業に関する処分等も含む)、当該職員に、被保険者を雇用していたと認められる事業主の事務所に立ち入らせることができる。ただしこの権限は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない(第79条)。また行政庁は被保険者を雇用していたと認められる事業主又は労働保険事務組合に対して、雇用保険法の施行に関して必要な報告、文書の提出又は出頭を命ずることができる(第76条)。

厚生労働大臣は、雇用保険法の施行に関する重要事項について決定しようとするときは、あらかじめ労働政策審議会の意見を聴かなければならない。労働政策審議会は、厚生労働大臣の諮問に応じ、また必要に応じ雇用保険事業の運営に関して、関係行政庁に建議し、又はその報告を求めることができる(第72条)。

適用事業

労働者[注 1]が雇用[注 2]される事業は、「適用事業」となり(第5条)、雇用保険に強制加入となる。国・地方公共団体が行う事業、法人が行う事業(法人の種類は問わない)、外国人事業主が日本国内で行う事業も労働者が雇用される事業に該当すれば適用事業となる。船員を雇用する事業については、それ自体を独立した事業として取り扱う(同じ事業主との雇用契約の下、船員と船員でない労働者との雇用管理が1つの施設内で行われている場合であっても、適用事業所としてはそれぞれ別々に設置させることとなる。従って、1つの適用事業所の中に、船員と船員でない労働者とが混在して被保険者となっていることはない)。

以下のすべての要件を満たす事業は、「暫定任意適用事業」となり、雇用保険に加入するかどうかは任意となる。その事業に使用される労働者の2分の1以上の希望があった場合は事業主は雇用保険に加入しなければならず、また事業主が加入しようとする場合にはその事業に使用される労働者の2分の1以上の同意を取り付ける必要がある(徴収法附則第2条2項、3項)[注 3]。事業主が加入義務違反や、加入希望者に対する不利益取り扱いがあったときは罰則がある。任意加入に当たっては加入申請書を所轄公共職業安定所長を経由して都道府県労働局長に提出し、事業主に法令上の業務の履行が期待できるかについて所轄公共職業安定所長による十分な審査が行われる。

  • 農林水産業(船員が雇用される事業を除く)であること
    • 船員を雇用する事業にあっては、農林水産業の事業であっても、強制適用事業となる。
  • 個人経営であること
  • 常時5人未満の労働者を使用すること。
    • 「5人」の算定に当たっては、雇用保険法の適用を受けない労働者も含めて計算する。ただし、法の適用を受けない労働者のみを使用する場合は、適用事業として取り扱う必要はない。
    • 「常時」とは、年間を通して5人以上であることをいう。したがって繁忙期は5人以上であっても閑散期に5人未満となることが通例であれば、強制適用ではなく暫定任意適用事業となる。
    • 同一事業主が適用事業の部門と暫定任意適用事業の部門とを兼営している場合、それぞれの部門が独立した事業と認められれば、適用事業の部門のみが適用事業となる。

事業所の設置(廃止)をしたときは、その翌日から起算して10日以内に所轄公共職業安定所長に雇用保険適用事業所設置(廃止)届を提出しなければならない。平成28年1月からは、設置(廃止)届には法人番号の記載が必要となる。

事業主及び労働保険事務組合は、雇用保険に関する書類(二事業及び徴収法による書類をのぞく)をその完結の日から2年間(被保険者に関する書類にあっては4年間)保存しなければならない(規則第143条)。


注釈

  1. ^ 雇用保険法上は労働者の定義はなされていないが、行政手引によれば「事業主に雇用され、事業主から支給される賃金によって生活している者、及び事業主に雇用されることによって生活しようとする者であって現在その意に反して就業することができないものをいう」とされる。これを解釈すれば、「労働組合法第3条でいう労働者と同義である」とされる(福岡高判平成24年2月28日等)。
  2. ^ 行政手引によれば「雇用関係とは、民法第623条の規定による雇用関係のみでなく、労働者が事業主の支配を受けて、その規律の下に労働を提供し、その提供した労働の対償として事業主から賃金、給料その他これらに準ずるものの支払を受けている関係をいう。」とされる。
  3. ^ ここでいう「その事業に使用される労働者の2分の1」とは、その事業において使用される労働者総数の2分の1以上の者ではなく、その事業が任意加入の認可を受けて適用事業となっても被保険者とならない労働者を除いた労働者の2分の1以上の者をいうものである。この場合、被保険者となるべき者であるかどうかの判断は、任意加入申請書が提出された際に行う。労災保険とは異なり、雇用保険では任意加入すれば労働者に保険料の負担が発生するための取り扱いである。
  4. ^ 監査役は使用人を兼ねることはできないとされるが(会社法第335条)、名目的に就任しているにすぎず、常態的に従業員として事業主との間に明確な雇用関係があると認められる場合には被保険者となることができる。
  5. ^ この場合、公共職業安定所へ雇用の実態を確認できる書類等の提出が必要となる。
  6. ^ この場合、出向元は被保険者資格喪失届(資格喪失の原因は「離職以外の理由」となる)、出向先は被保険者資格取得届の提出が必要である。
  7. ^ 被保険者証の汚損・滅失による再発行は、所轄ハローワークでなくても、全国どのハローワークでも可能である。
  8. ^ 離職票の汚損・滅失による再発行は、被保険者証の場合と異なり、当該離職票を交付したハローワークでないと行えない(施行規則第17条4項)。
  9. ^ 平成19年度から平成28年度までは「それぞれの100分の55とする」暫定措置がなされてきたが(附則第13条)、国庫負担については引き続き検討を行い、2020年度(「平成32年度」)以降できるだけ速やかに安定した財源を確保したうえで、暫定措置を廃止するものとされる。
  10. ^ この取り扱いにより、一般的には、会社側は会社都合で解雇すると雇い入れ関係助成金が受けられなくなるので、会社都合退職であっても会社側は労働者の自己都合退職にしたがる。サービス残業が多い場合はタイムカードのコピーを取っておいたり、退職を強要された場合には人事担当者の発言を録音するなど、ハローワークに申し出るに際しては記録を残しておくことが肝要である。
  11. ^ かっては、「社会的事情により就職が著しく阻害されている者」の中に、いわゆる「同和地区出身者(35歳以上で高等学校卒業以下の学歴であり、大企業の正社員として勤務したことがない者に限る)」が含まれていた。2001年4月に行われた国の同和対策の転換(「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(地対財特法)の失効)により、国は社会全体に対する啓発である「一般対策」としての同和対策を行うものとされ、同和地区出身者に対して個別に優遇措置を適用すること(「特定対策」)は全廃されるに至っている。この方針を受けて、現在では単に「同和地区出身者」という理由だけでは「就職困難者」とは認められない。
  12. ^ 4週間目の日が国民の祝日年末年始など官公庁の休庁日に当たる場合、求人、求職の状況、ハローワークの事務量等を勘案して適宜前後にずらされる。
  13. ^ そのため、ほとんどのハローワークで、当初より本人名義の金融機関口座の通帳と印鑑の持参を求めている。
  14. ^ ただし、ハローワークの閉庁日(土・日・祝日、年末年始)の前日に就職の届出を行った者が、閉庁日または閉庁日の翌日に就職する場合に限って例外的に郵送による失業認定が可能である。
  15. ^ a b 所定給付日数内での就職率を見た場合、この年齢層について、他の層と比べて低くなっていることから、平成29年4月の改正で所定給付日数が拡充された。
  16. ^ 1か月は28日として計算する。したがって、4か月以上というのは85日以上のことである。
  17. ^ 訓練延長給付を受けている受給資格者については、再就職の見込みを立てた上で公共職業安定所長の受講指示に基づき、具体的な就職支援として必要な職業訓練等を実施している者であることから、個別延長給付の対象者に該当しない。
  18. ^ 待期期間が経過する前に保育等サービスの利用を開始した場合は、待期期間が経過した後の保育等サービスの利用分のみ支給対象となる。
  19. ^ 同一の事業主に継続雇用される場合のほか、離職して基本手当を受給せずに再就職する場合を含む。
  20. ^ 他の給付を受けて基本手当が支給されたとみなされる場合を含む。
  21. ^ 「子」は法律上の子であればよく、実子であるか養子であるかを問わない。また特別養子縁組を成立させるために監護している者を含む。平成29年1月からは、里親である被保険者に養育されている子も含む。
  22. ^ 厚生労働省は、二事業に関する処分は行政不服審査法上の不服申立ての対象とはならず、処分に不服がある場合は行政事件訴訟法に基づき直接、処分の取消訴訟を提起することになる、との立場をとっている。
  23. ^ 雇用福祉事業(具体的には勤労者福祉施設雇用促進住宅等。改正前の第64条)は「保険料の無駄遣い」等の強い批判があり廃止された。

出典

  1. ^ 有斐閣「現代社会福祉事典」雇用保険法の項目
  2. ^ 労働保険の保険料の徴収等に関する法律 2条1項
  3. ^ 労働力調査 基本集計 全都道府県 結果原表 全国 年次 2019年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口』(レポート)総務省統計局、2019年1月31日、基本集計 第II-10表https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200531&tstat=000000110001&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001040276&tclass2=000001040283&tclass3=000001040284&result_back=1 
  4. ^ 昭和27年2月5日旧労働省通達「宗教法人又は宗教団体の事業又は事務所に対する労働基準法の適用について」
  5. ^ 令和4年度雇用保険料率のご案内厚生労働省
  6. ^ 2022年10月からの「雇用保険料引き上げ」とは? どんな影響がある?ファイナンシャルフィールド
  7. ^ 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準(厚生労働省)
  8. ^ 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応した給付日数の延長に関する特例について - 厚生労働省
  9. ^ 「「自己都合」の失業給付前倒し」読売新聞2023年6月7日付朝刊社会保障面
  10. ^ 新しい資本主義実現会議(第19回)内閣官房
  11. ^ a b c 失業手当:日本、不受給77% 先進国中最悪の水準-ILO報告 - 毎日新聞 2009年3月25日配信 東京夕刊掲載(NPO法人仙台夜まわりグループのブログより)
  12. ^ http://www.economist.com/blogs/freeexchange/2010/12/labour_markets
  13. ^ http://www.reuters.com/article/2013/12/03/us-usa-economy-joblessbenefits-idUSBRE9B20XA20131203
  14. ^ http://ftp.iza.org/dp3570.pdf
  15. ^ http://www.pole-emploi.fr/candidat/le-montant-de-votre-allocation-@/suarticle.jspz?id=4125
  16. ^ http://entreprise.lefigaro.fr/chomeurs-unedic.html
  17. ^ importe maximo desempleo 2012
  18. ^ Krugman, Paul (2013年12月8日). “The Punishment Cure”. New York Times. http://www.nytimes.com/2013/12/09/opinion/krugman-the-punishment-cure.html?partner=rssnyt&emc=rss&_r=0 2013年12月10日閲覧。 






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