雇用保険 二事業

雇用保険

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/20 07:52 UTC 版)

二事業

「雇用安定事業」と「能力開発事業」を総称して「二事業」という。二事業は、被保険者等の職業の安定を図るため、労働生産性の向上に資するものとなるよう留意しつつ行われるもの、とされる(第64条の2)。二事業の財源は、事業者が納付する二事業率分の保険料のみであり、原則として国庫や被保険者負担分保険料からの支出はない(64条事業については被保険者負担あり。また職業訓練受講給付金の支給については2分の1の国庫負担あり)。なお、雇用安定事業及び63条事業については、被保険者等の利用に支障がなく、かつその利益を害しない限り、被保険者等以外の者に利用させることができる(第65条)。

雇用安定事業

政府は、被保険者、被保険者であった者及び被保険者になろうとする者(以下「被保険者等」という)に関し、失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定を図るため雇用安定事業として、次の事業を行うことができ(第62条1項、施行規則第102条の2~第120条の2)、その事業の一部を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に行わせる(第62条3項)。

  1. 景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合において、労働者を休業させる事業主その他労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行うこと。(雇用調整助成金
  2. 離職を余儀なくされる労働者に対して、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第26条1項に規定する休暇を与える事業主その他当該労働者の再就職を促進するために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行うこと。(労働移動支援助成金
  3. 定年の引上げ、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条に規定する継続雇用制度の導入等により高年齢者の雇用を延長し、又は同法第2条2項に規定する高年齢者等に対し再就職の援助を行い、若しくは高年齢者等を雇い入れる事業主その他高年齢者等の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行うこと。(労働移動支援助成金、六十五歳超雇用推進助成金、特定求職者雇用開発助成金及びトライアル雇用助成金
  4. 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第34条1項の同意を得た同項に規定する地域高年齢者就業機会確保計画(「同意地域高年齢者就業機会確保計画」)に係る同法第34条2項3号に規定する事業のうち雇用の安定に係るものを行うこと。
  5. 雇用機会を増大させる必要がある地域への事業所の移転により新たに労働者を雇い入れる事業主、季節的に失業する者が多数居住する地域においてこれらの者を年間を通じて雇用する事業主その他雇用に関する状況を改善する必要がある地域における労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行うこと。(地域雇用開発助成金及び通年雇用助成金)
  6. 前各号に掲げるもののほか、障害者その他就職が特に困難な者の雇入れの促進、雇用に関する状況が全国的に悪化した場合における労働者の雇入れの促進その他被保険者等の雇用の安定を図るために必要な事業であつて、厚生労働省令で定めるものを行うこと。(特定求職者雇用開発助成金及びトライアル雇用助成金)

能力開発事業

63条事業

政府は、被保険者等に対し、職業生活の全期間を通じてこれらの者の能力を開発し、及び向上させることを促進するため、能力開発事業を行うことができ(第63条1項、施行規則第121条~139条の4)、その事業の一部を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に行わせるものとする(第63条3項)。

  1. 職業能力開発促進法第13条に規定する事業主等及び職業訓練の推進のための活動を行う者に対して、同法第11条に規定する計画に基づく職業訓練、同法第24条3項(同法第27条の2第2項において準用する場合を含む。)に規定する認定職業訓練その他当該事業主等の行う職業訓練を振興するために必要な助成及び援助を行うこと並びに当該職業訓練を振興するために必要な助成及び援助を行う都道府県に対して、これらに要する経費の全部又は一部の補助を行うこと。(広域団体認定訓練助成金、認定訓練助成事業費補助金、人材開発支援助成金、中央職業能力開発協会費補助金及び都道府県職業能力開発協会費補助金)
  2. 公共職業能力開発施設(公共職業能力開発施設の行う職業訓練を受ける者のための宿泊施設を含む。)又は職業能力開発総合大学校(職業能力開発総合大学校の行う指導員訓練又は職業訓練を受ける者のための宿泊施設を含む。)を設置し、又は運営すること、職業能力開発促進法第15条の7第1項ただし書に規定する職業訓練を行うこと及び公共職業能力開発施設を設置し、又は運営する都道府県に対して、これらに要する経費の全部又は一部の補助を行うこと。
  3. 求職者及び退職を予定する者に対して、再就職を容易にするために必要な知識及び技能を習得させるための講習(「職業講習」)並びに作業環境に適応させるための訓練を実施すること。
  4. 職業能力開発促進法第10条の4第2項に規定する有給教育訓練休暇を与える事業主に対して、必要な助成及び援助を行うこと。(人材開発支援助成金)
  5. 職業訓練(公共職業能力開発施設又は職業能力開発総合大学校の行うものに限る。)又は職業講習を受ける労働者に対して、当該職業訓練又は職業講習を受けることを容易にし、又は促進するために必要な交付金を支給すること及びその雇用する労働者に職業能力開発促進法第11条に規定する計画に基づく職業訓練、認定職業訓練その他の職業訓練を受けさせる事業主(当該職業訓練を受ける期間、労働者に対し所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う事業主に限る。)に対して、必要な助成を行うこと。(人材開発支援助成金)
  6. 技能検定の実施に要する経費を負担すること、技能検定を行う法人その他の団体に対して、技能検定を促進するために必要な助成を行うこと及び技能検定を促進するために必要な助成を行う都道府県に対して、これに要する経費の全部又は一部の補助を行うこと。(中央職業能力開発協会費補助金、都道府県職業能力開発協会費補助金、指定試験機関費補助金)
  7. 同意地域高年齢者就業機会確保計画に係る高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第34条2項3号に規定する事業のうち労働者の能力の開発及び向上に係るものを行うこと。
  8. 前各号に掲げるもののほか、労働者の能力の開発及び向上のために必要な事業であつて、厚生労働省令で定めるものを行うこと。(人材開発支援助成金、中央職業能力開発協会費補助金及び都道府県職業能力開発協会費補助金)
64条事業(就職支援法事業)

政府は、被保険者であった者及び被保険者になろうとする者の就職に必要な能力を開発し、及び向上させるため、能力開発事業として、職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(求職者支援法)に規定する認定職業訓練を行う者に対して、助成を行うこと及び特定求職者に対して、職業訓練受講給付金を支給することができる(第64条)。


注釈

  1. ^ 雇用保険法上は労働者の定義はなされていないが、行政手引によれば「事業主に雇用され、事業主から支給される賃金によって生活している者、及び事業主に雇用されることによって生活しようとする者であって現在その意に反して就業することができないものをいう」とされる。これを解釈すれば、「労働組合法第3条でいう労働者と同義である」とされる(福岡高判平成24年2月28日等)。
  2. ^ 行政手引によれば「雇用関係とは、民法第623条の規定による雇用関係のみでなく、労働者が事業主の支配を受けて、その規律の下に労働を提供し、その提供した労働の対償として事業主から賃金、給料その他これらに準ずるものの支払を受けている関係をいう。」とされる。
  3. ^ ここでいう「その事業に使用される労働者の2分の1」とは、その事業において使用される労働者総数の2分の1以上の者ではなく、その事業が任意加入の認可を受けて適用事業となっても被保険者とならない労働者を除いた労働者の2分の1以上の者をいうものである。この場合、被保険者となるべき者であるかどうかの判断は、任意加入申請書が提出された際に行う。労災保険とは異なり、雇用保険では任意加入すれば労働者に保険料の負担が発生するための取り扱いである。
  4. ^ 監査役は使用人を兼ねることはできないとされるが(会社法第335条)、名目的に就任しているにすぎず、常態的に従業員として事業主との間に明確な雇用関係があると認められる場合には被保険者となることができる。
  5. ^ この場合、公共職業安定所へ雇用の実態を確認できる書類等の提出が必要となる。
  6. ^ この場合、出向元は被保険者資格喪失届(資格喪失の原因は「離職以外の理由」となる)、出向先は被保険者資格取得届の提出が必要である。
  7. ^ 被保険者証の汚損・滅失による再発行は、所轄ハローワークでなくても、全国どのハローワークでも可能である。
  8. ^ 離職票の汚損・滅失による再発行は、被保険者証の場合と異なり、当該離職票を交付したハローワークでないと行えない(施行規則第17条4項)。
  9. ^ 平成19年度から平成28年度までは「それぞれの100分の55とする」暫定措置がなされてきたが(附則第13条)、国庫負担については引き続き検討を行い、2020年度(「平成32年度」)以降できるだけ速やかに安定した財源を確保したうえで、暫定措置を廃止するものとされる。
  10. ^ この取り扱いにより、一般的には、会社側は会社都合で解雇すると雇い入れ関係助成金が受けられなくなるので、会社都合退職であっても会社側は労働者の自己都合退職にしたがる。サービス残業が多い場合はタイムカードのコピーを取っておいたり、退職を強要された場合には人事担当者の発言を録音するなど、ハローワークに申し出るに際しては記録を残しておくことが肝要である。
  11. ^ かっては、「社会的事情により就職が著しく阻害されている者」の中に、いわゆる「同和地区出身者(35歳以上で高等学校卒業以下の学歴であり、大企業の正社員として勤務したことがない者に限る)」が含まれていた。2001年4月に行われた国の同和対策の転換(「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(地対財特法)の失効)により、国は社会全体に対する啓発である「一般対策」としての同和対策を行うものとされ、同和地区出身者に対して個別に優遇措置を適用すること(「特定対策」)は全廃されるに至っている。この方針を受けて、現在では単に「同和地区出身者」という理由だけでは「就職困難者」とは認められない。
  12. ^ 4週間目の日が国民の祝日年末年始など官公庁の休庁日に当たる場合、求人、求職の状況、ハローワークの事務量等を勘案して適宜前後にずらされる。
  13. ^ そのため、ほとんどのハローワークで、当初より本人名義の金融機関口座の通帳と印鑑の持参を求めている。
  14. ^ ただし、ハローワークの閉庁日(土・日・祝日、年末年始)の前日に就職の届出を行った者が、閉庁日または閉庁日の翌日に就職する場合に限って例外的に郵送による失業認定が可能である。
  15. ^ a b 所定給付日数内での就職率を見た場合、この年齢層について、他の層と比べて低くなっていることから、平成29年4月の改正で所定給付日数が拡充された。
  16. ^ 1か月は28日として計算する。したがって、4か月以上というのは85日以上のことである。
  17. ^ 訓練延長給付を受けている受給資格者については、再就職の見込みを立てた上で公共職業安定所長の受講指示に基づき、具体的な就職支援として必要な職業訓練等を実施している者であることから、個別延長給付の対象者に該当しない。
  18. ^ 待期期間が経過する前に保育等サービスの利用を開始した場合は、待期期間が経過した後の保育等サービスの利用分のみ支給対象となる。
  19. ^ 同一の事業主に継続雇用される場合のほか、離職して基本手当を受給せずに再就職する場合を含む。
  20. ^ 他の給付を受けて基本手当が支給されたとみなされる場合を含む。
  21. ^ 「子」は法律上の子であればよく、実子であるか養子であるかを問わない。また特別養子縁組を成立させるために監護している者を含む。平成29年1月からは、里親である被保険者に養育されている子も含む。
  22. ^ 厚生労働省は、二事業に関する処分は行政不服審査法上の不服申立ての対象とはならず、処分に不服がある場合は行政事件訴訟法に基づき直接、処分の取消訴訟を提起することになる、との立場をとっている。
  23. ^ 雇用福祉事業(具体的には勤労者福祉施設雇用促進住宅等。改正前の第64条)は「保険料の無駄遣い」等の強い批判があり廃止された。

出典

  1. ^ 有斐閣「現代社会福祉事典」雇用保険法の項目
  2. ^ 労働保険の保険料の徴収等に関する法律 2条1項
  3. ^ 労働力調査 基本集計 全都道府県 結果原表 全国 年次 2019年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口』(レポート)総務省統計局、2019年1月31日、基本集計 第II-10表https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200531&tstat=000000110001&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001040276&tclass2=000001040283&tclass3=000001040284&result_back=1 
  4. ^ 昭和27年2月5日旧労働省通達「宗教法人又は宗教団体の事業又は事務所に対する労働基準法の適用について」
  5. ^ 令和4年度雇用保険料率のご案内厚生労働省
  6. ^ 2022年10月からの「雇用保険料引き上げ」とは? どんな影響がある?ファイナンシャルフィールド
  7. ^ 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準(厚生労働省)
  8. ^ 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応した給付日数の延長に関する特例について - 厚生労働省
  9. ^ 「「自己都合」の失業給付前倒し」読売新聞2023年6月7日付朝刊社会保障面
  10. ^ 新しい資本主義実現会議(第19回)内閣官房
  11. ^ a b c 失業手当:日本、不受給77% 先進国中最悪の水準-ILO報告 - 毎日新聞 2009年3月25日配信 東京夕刊掲載(NPO法人仙台夜まわりグループのブログより)
  12. ^ http://www.economist.com/blogs/freeexchange/2010/12/labour_markets
  13. ^ http://www.reuters.com/article/2013/12/03/us-usa-economy-joblessbenefits-idUSBRE9B20XA20131203
  14. ^ http://ftp.iza.org/dp3570.pdf
  15. ^ http://www.pole-emploi.fr/candidat/le-montant-de-votre-allocation-@/suarticle.jspz?id=4125
  16. ^ http://entreprise.lefigaro.fr/chomeurs-unedic.html
  17. ^ importe maximo desempleo 2012
  18. ^ Krugman, Paul (2013年12月8日). “The Punishment Cure”. New York Times. http://www.nytimes.com/2013/12/09/opinion/krugman-the-punishment-cure.html?partner=rssnyt&emc=rss&_r=0 2013年12月10日閲覧。 






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