赤潮
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/29 08:30 UTC 版)
赤潮の抑制
富栄養化の防止
赤潮の原因とされてきた富栄養化を、特に閉鎖的な水域において抑制すべく、日本では地方自治体による下水道整備事業が各所で行われている。この他、人工干潟の造成も行われている。人工干潟では微生物が大量発生し、これをアサリなどの貝類が食べる事で湾内の水質改善に期待が寄せられている。また、整備如何によっては、潮干狩りや自然学習を目的としたレジャー施設の創造も期待できる。
対策の転換期
瀬戸内海では過去に赤潮に伴う甚大な漁業被害があり、兵庫県では「海をきれいにする取り組み」を長年続けてきた。取り組みの1つが下水処理場の排水基準の厳格化であった。しかし、海域の窒素量が減り海がきれいになると共に、漁獲量も減少し始めた。兵庫県は、植物プランクトンの生育に必要な栄養分が減り、漁業に影響が出ていると判断し、2018年から独自に県内3カ所の下水処理場で排水基準を緩めるなど「海をきれいにし過ぎない取り組み」への転換を図った[8]。
ウイルスの利用
生物農薬の1種として、藻類に感染するウイルスを用いて赤潮を防除する技術の研究もある[9]。
水産研究・教育機構水産技術研究所の実験によると、赤潮発生歴がある海域の海底の泥には原因プランクトンに感染するウイルスが棲息しており、泥をいったん凍結させて細菌や藻類を死滅させ、ウイルスを残した泥を海に戻すと、赤潮の収束が早まるという[10]。
代表的な赤潮構成生物
日本近海で優占するプランクトンを列挙する。★印は大量発生種や有毒種など、防除の観点から特に重要とされる種。有害プランクトンによる赤潮は特に「有害藻類ブルーム」(HABs; Harmful Algal Blooms)と呼ばれる。プランクトンや微細藻類の毒は、貝などに取り込まれ、ヒトに摂取された場合に中毒を引き起こす。また、ヤコウチュウ(夜光虫)を因とする赤潮の場合は、夜間における発光現象が、観光資源となることもある。
- キートケロス属 Chaetoceros spp.
- スケルトネマ・コスタツム Skeletonema costatum
- リゾソレニア属 Rhizosolenia spp.
- リゾソレニア・インブリカータ R. imbricata
- リゾソレニア・セティゲラ R. setigera
- タラシオシラ属 Thalassiosira spp.
- シャットネラ属 Chattonella spp.
- シャットネラ・アンティカ C. antiqua ★
- シャットネラ・マリナ C. marina ★
- ヘテロシグマ・アカシオ Heterosigma akashiwo ★
- アレキサンドリウム属 Alexandrium spp.
- ギムノディニウム属 Gymnodinium spp.
- ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ Heterocapsa circularisquama
- カレニア属 Karenia : ギムノディニウム属から分離された属。有毒種を多く含む。
- カレニア・ブレビス K. brevis (旧 Gymnodinium breve)
- カレニア・ミキモトイ K. mikimotoi (旧 Gymnodinium mikimotoi)
- ヤコウチュウ Noctiluca scintillans
- プロロセントラム属 Prorocentrum spp.
- プロロセントラム・ミカンス P. micans
- アカシオウズムシ Mesodinium rubrum
文学との関係
日本の歴史上、文献に残る最初の赤潮に関わる記録は、奈良時代に成立した『続日本紀』天平3年(731年)6月13日条に記載されており、紀伊国阿氐郡(現和歌山県有田郡)沿岸で、海の色が5日間にわたり赤く染まった事例であるとされている。
また「赤潮」は俳句において夏の季語の1つとして用いられることがある[11]。
- ^ 赤潮(あかしお)はなぜ発生するのですか。農林水産省(2021年5月5日閲覧)
- ^ 赤潮とは?東京都環境局(2021年5月5日閲覧)
- ^ この画像の変色海域が赤潮である根拠は、国土地理院監修、財団法人日本地図センター発行『カラー空中写真判読基準カード集』1978年9月1日発行、148ページにて同画像(Ckk-74-10_c17_16)を赤潮の判読基準サンプルとしている事による。
- ^ a b “湘南の海が南国のような色に 相模湾で珍しい「白潮」”. 朝日新聞. 2020年5月23日閲覧。
- ^ “丹後の海からの情報(平成23年4月)”. 京都府農林水産部海洋センター. 2020年5月23日閲覧。
- ^ a b 石井裕一. “海藻がもたらす環境問題-グリーンタイドの発生と構成種の特徴-”. 国立環境研究所. 2020年5月23日閲覧。
- ^ “青潮”. 一般財団法人環境イノベーション情報機構. 2020年5月23日閲覧。
- ^ “兵庫県、瀬戸内海への排水基準緩和 魚に「肥料」”. 『日本経済新聞』 (2019年9月15日). 2020年3月8日閲覧。
- ^ 長崎慶三「殺藻性ウイルスによる赤潮防除の可能性」『Microbes and environments』第13巻第2号、日本微生物生態学会、1998年6月、109-113頁、doi:10.1264/jsme2.13.115、ISSN 13426311、NAID 110001272816。
- ^ 「ウイルスがもたらす海への恩恵」『朝日新聞』GLOBE(朝刊別刷り)233号【特集】世界はウイルスに満ちている、5面(2020年9月6日)
- ^ 松村 明、山口 明穂、和田 利政 編『旺文社 国語辞典(第8版)』 p.1429 旺文社 1992年10月25日発行 ISBN 4-01-077702-8
赤潮と同じ種類の言葉
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