痛風 痛風の概要

痛風

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/03 08:22 UTC 版)

痛風
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
内科学, リウマチ学
ICD-10 M10
ICD-9-CM 274.0 274.1 274.8 274.9
OMIM 138900 300323
DiseasesDB 29031
eMedicine emerg/221 med/924 med/1112 oph/506 orthoped/124 radio/313
Patient UK 痛風
MeSH D006073
GeneReviews
テンプレートを表示
ウィキペディア:ビデオウィキ-痛風

日本語の名称

この疾患の「痛風」という日本語名の由来には、以下の様に幾つかの説が存在する。

  • 痛みが起こる場所(発作の箇所)が、まるで風が吹くように足・膝・腰・肩・肘・手・胸骨など、全身の関節や骨端部を移動し、なおかつ風が強くなったり穏やかになったりするように痛みが酷くなったり和らいだりを繰り返すことから命名されたという説。
  • 痛みの悪風に中る(あたる)という意味で「痛風」となったとする説。
  • 痛み発作が出ている部分は吹いてきた風が当たるだけでも痛いから「痛風」となったとする説。

原因

関節液中の尿酸ナトリウムの針状結晶

ヒトを含むヒト科は、進化の過程で尿酸オキシダーゼを失ったため、プリン塩基を処分する時、体内では尿酸までで処理が止まってしまい、尿酸よりも水溶性が高いアラントインへの変換は、一部が体内で発生した活性酸素種によって非酵素的に進む程度である[1]

尿酸は水溶性が低いため、体内に蓄積すると、特に体温の低い末梢部で体液に溶け切れなくなった尿酸が析出しやすい。析出して結晶化した尿酸は、炎症を引き起こして痛風発作を誘発する[2][3]。痛風発作は尿酸ナトリウムの針状結晶によって引き起こされる[4]。X線回折法により痛風患者より得られた針状結晶は尿酸水素ナトリウムの結晶であることが確認された[5]

高尿酸血症の患者にきっかけが加わると痛風を発症する。何がきっかけなのか明確ではないことも多い。

健康状態における人体の血中には、ごく普通に尿酸が含有されているが、この濃度(血中尿酸値)が何らかの理由により著しく上昇すると、本来人体が持つ恒常化機能を超えて飽和解消できず、特に体温が低い足部などにおいて、尿酸が溶解しきれずに尿酸塩として結晶化して関節包内などに付着することが知られている。この状況においては、白血球群のうち、特に好中球が尿酸結晶を攻撃(捕食活動)を行うことが知られている。

好中球による尿酸結晶捕食活動が激化すると、その活動による過大なエネルギーや、尿酸を抱え込んで死亡した好中球の遺骸そのものによる影響などから、血管壁がダメージを受けて大きな炎症を発生する。当然に、当該部位周囲の神経組織をも相当に刺激し、患者は「内側からの激痛」を感じることとなる。

また、血中含有尿酸の濃度が急激に低下した場合においても、痛風発作が生じることが知られている。これは、好中球が攻撃対象である尿酸結晶の行方を急激に見失うと、対象を探し続けて活動を激化させることによるためとも言われているが異論も多く、血中尿酸値急降下時の明確な発作システム自体の解明はなされていない。ただし後述の通り、疫学的には、血中尿酸値の上昇とともに血中尿酸値の急降下も、痛風発作の要因であることは広く知られており、痛風発作時であっても尿酸生成阻害剤や尿酸排出促進剤などを発作前から服用していた場合はそのまま飲み続けるのに対して、痛風発作時に尿酸生成阻害剤や尿酸排出促進剤などを開始することは薦められない。

必ずしも恒常的な高尿酸血症患者がすべて痛風発作を起こすわけではなく、そのメカニズムは解明しきれていないが、よく知られている発作のきっかけとしては、脱水症状に伴う急激な尿酸値の変動、物理的衝撃による結晶の剥落、不適切なタイミングでの尿酸コントロール薬の投与、激しすぎるスポーツなどが考えられている。酒の痛飲は、エタノールによって利尿が起こって発生する脱水症状に加え、乳酸と尿酸の競合による尿酸排出の遅れによって尿酸値を激しく変動させ、翌日朝に痛風を起こすきっかけとなることが多いともされる。

あくまで、高尿酸血症の患者でも痛風を起こさないケースは少なくないため、引き金となる要因が全て分かっているわけではない。アメリカ合衆国で、高尿酸血症の患者に尿酸値を下げる薬を処方しないのはその考え方に基づいているが、高尿酸血症は腎臓結石など別の病気のリスク要因であることは忘れるべきではない。

血清尿酸値に影響を及ぼす比較的頻度の高い遺伝子としてURAT1 (SLC22A12) が知られていたが、ゲノムワイド関連解析により大規模に発見された。即ち SLC11A9, SLC2A9, SLC17A1, SLC22A12, SLC22A11, SLC16A9, ABCG2, LRP2, PDZK1, GCKR, TRIM46, INHBB, INHBC, SFMBT1, TMEM171, VEGFA, BAZ1B, STC1, PRKAG2, HNF4G, A1CF, ATXN2, UBE2Q2, IGF1R, NFAT5, MAF, HLFなどである。これらの遺伝子は一般の痛風の発症に関係していると考えられる。この中でSLCのつくものはATP結合カセットを持たないトランスポーター(輸送蛋白質)であり、腎臓の尿細管に分布し尿酸の尿中排泄に関係すると考えられる。ABCG2は主として腸管に分布し、腸からの尿酸排泄の低下により高尿酸血症を来し、痛風を来す事が示唆されている[6]。この他、痛風になりやすいヒトは、アセトアルデヒド脱水素酵素に特定の変異を持っているとする研究結果も存在する[7]

疫学

飲酒による影響

範囲=患者のうち90%以上[8][9]、文献によっては98%以上[10]が男性であると記載する。これほどに男女差が大きい疾患は他では少なく、疫学的研究によると、蒸留酒である焼酎ウイスキーなどは醸造酒と比べてプリン体の含有量が少ないことが知られているものの、エタノールは肝臓で尿酸が作られるのを促進して尿酸濃度をあげてしまうため、痛風のリスクを高める。

特にプリン体を多く含む上に、ホップが持つ食欲増進効果などによって食事量が増加しがちなビールは最もリスクが高い[11]

一方で、ワインは醸造酒であるにもかかわらず飲んでも痛風のリスクを高めないとする報告もある[11]

少量飲酒者(アルコール12.5g/日以下)で1.16、中程度飲酒者(12.6-37.4g/日)で1.58、大量飲酒者(37.5g/日以上)で2.64のように飲酒により痛風のリスクが上昇するとの報告がある。

飲酒が痛風のリスクを上昇させる理由として、アルコール代謝によるATPの分解に伴うプリン体からの尿酸の生成、アルコール飲料に含まれるプリン体の摂取、飲酒により生成される乳酸が尿酸の排泄を阻害、などが原因として考えられている[12]

プリン体等による影響

尿酸とはプリン体と呼ばれる物質の代謝産物であり、プリン体を多く摂取すると高尿酸血症、さらには痛風の引き金となると考えられる。のみならずに含まれるプリン体も痛風のリスクを高めるが、野菜に含まれるプリン体(麦芽[13]類に多い)は高めない[14]。また、フルクトース(果糖)は急速に代謝されてアシドーシスを引き起こしやすく[15]、酸性下で尿酸が析出しやすくなる。フルクトースを構成体に持つ砂糖の多いドリンクを週に5-6杯飲む場合やフルクトースを含むフルーツジュースの摂取も痛風のリスクを増大させる[16]。近年、高尿酸血症に関わる遺伝子が各国(含日本)で発見されている。

そのほか、精神的ストレスや水分摂取の不足も発症の引き金となる。特に水分摂取の不足に関しては、日常的に意識して水分を多めに取り、血中尿酸濃度を(排尿によって体外に出す事で)低く保つことが勧められている。

2018年(平成30年)10月10日付けのBMJ誌電子版に、ニュージーランドオタゴ大学のTanya J Majorらは、食事の内容は血清尿酸値に影響は与えるが、一般集団の血清尿酸値の変動に対する食生活の寄与は、遺伝的な要因に比べると遙かに小さかったとする報告を掲載した[17]


  1. ^ 藏城雅文、尿酸の酸化作用と抗酸化作用 『痛風と核酸代謝』 2014年 38巻 2号 p.145-, doi:10.6032/gnam.38.145
  2. ^ 高木和貴, 上田孝典、「尿酸分解酵素PEG化ウリカーゼの適応と意義」『高尿酸血症と痛風』18(2), 2010, pp.41-46, hdl:10098/2955
  3. ^ 痛風 MSDマニュアル家庭版
  4. ^ 金子希代子、山辺智代、藤森新、「尿酸塩結晶生成に及ぼす溶液中のタンパク質とpHの影響 - フローサイトメーターを用いた検討」『痛風と核酸代謝』 2001年 25巻 2号 p.121-128, doi:10.6032/gnam1999.25.2_121
  5. ^ 後藤武史ほか「X線回折法による痛風結節内容物の結晶学的同定」、『整形外科と災害外科』1984年 32巻 3号 p.755-758, doi:10.5035/nishiseisai.32.755
  6. ^ Kimiyoshi Ichida; Hirotaka Matsuo, Tappei Takada, Akiyoshi Nakayama, Keizo Murakami, Toru Shimizu, Yoshihide Yamanashi, Hiroshi Kasuga, Hiroshi Nakashima, Takahiro Nakamura, Yuzo Takada, Yusuke Kawamura, Hiroki Inoue, Chisa Okada, Yoshitaka Utsumi, Yuki Ikebuchi, Kousei Ito, Makiko Nakamura, Yoshihiko Shinohara, Makoto Hosoyamada, et al. (2012). “Decreased extra-renal urate excretion is a common cause of hyperuricemia.”. Nature Communications 3. doi:10.1038/ncomms1756. PMID 22473008. http://www.nature.com/ncomms/journal/v3/n4/full/ncomms1756.html. 
  7. ^ Identification of rs671, a common variant of ALDH2, as a gout susceptibility locus
  8. ^ 痛風(高尿酸血症) 一般社団法人 愛知県薬剤師会
  9. ^ 痛風はなぜ男性に多いのか? 公益財団法人 痛風・尿酸財団
  10. ^ 痛風(高尿酸血症)患者の98%が男性、30歳代で増加 肥満や飲酒、ストレスが発症の誘因 痛みがなくても尿酸値に注意して”. min-iren.gr.jp. 全日本民主医療機関連合会 (2004年9月1日). 2020年1月7日閲覧。
  11. ^ a b Choi HK; Atkinson K; Karlson EW; Willett W; Curhan G. Alcohol intake and risk of incident gout in men: a prospective study. Lancet 2004 17;363:1277-81.
  12. ^ 金子希代子, 山岡法子, 福内友子 ほか「アルコールが尿酸代謝に悪い理由」『痛風と核酸代謝』2017年 41巻 2号 p.228- doi:10.6032/gnam.41.228, 日本痛風・核酸代謝学会
  13. ^ KIRIN_お問い合わせ プリン体と人体の関係について (参考)
  14. ^ Choi HK; Atkinson K; Karlson EW; Willett W; Curhan G. Purine-rich foods, dairy and protein intake, and the risk of gout in men. NEJM. 2004 11;350:1093-103.
  15. ^ 高橋隆一 高カロリー輸液施行中に認められるアシドーシス
  16. ^ Hyon K Choi, Gary Curhan. Soft drinks, fructose consumption, and the risk of gout in men: prospective cohort study BMJ 2008; 336: 309-12.
  17. ^ Merriman, Tony R.; Dalbeth, Nicola; Topless, Ruth K.; Major, Tanya J. (2018-10-10). “Evaluation of the diet wide contribution to serum urate levels: meta-analysis of population based cohorts” (英語). BMJ 363: k3951. doi:10.1136/bmj.k3951. ISSN 1756-1833. PMID 30305269. https://www.bmj.com/content/363/bmj.k3951. 
  18. ^ Man CY et al. Comparison of oral prednisolone/paracetamol and oral indomethacin/paracetamol combination therapy in the treatment of acute goutlike arthritis: A double-blind, randomized, controlled trial. Ann Emerg Med 2007;49:670-7.
  19. ^ 細谷龍男、「第4章 合併症,併発症に対する治療」『痛風と核酸代謝』 2002年 26巻 Supplement号 p.45-57, doi:10.6032/gnam1999.26.Supplement_45, 日本痛風・核酸代謝学会
  20. ^ 食品・飲料中のプリン体含有量/公益財団法人痛風財団
  21. ^ J Rheumatol 2013 Jun; 40:872.
  22. ^ 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン ダイジェスト版』日本痛風・核酸代謝学会、2002年9月。ISBN 4-901935-02-X
  23. ^ FDAから業者への警告通知
  24. ^ USA Todayの記事


「痛風」の続きの解説一覧




痛風と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「痛風」の関連用語

痛風のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



痛風のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの痛風 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS