地中海 名称

地中海

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/10 01:31 UTC 版)

名称

地中海を指す Mediterranean という語は、「大地の真ん中」を意味するラテン語mediterraneus メディテッラーネウス(medius 「真ん中」 + terra 「土、大地」)に由来する。またギリシア語では、これと全く同じ造語法でもって、mesogeiosμεσογειος)と呼んでいた。

歴史的には、他にも各国語で様々に呼ばれてきたことが古文書などを通じて明らかになっている。たとえば古代ローマ時代のラテン語では mare nostrum と呼ばれたが、これは「我らが海」という意味であった。聖書には「偉大なる海」あるいは「西の海」として登場している。近代のヘブライ語では、"ha-Yam ha-Tichon"הים התיכון、"the middle sea") と呼ばれ、その語義はドイツ語 Mittelmeer と変わるところがない。トルコ語では Akdeniz と言い、これは「黒海Karadeniz に対する「白海」という意味である。アラビア語では Al-Baḥr Al-'Abiaḍ Al-Muttawasitالبحر الأبيض المتوسط)と呼んで、「中央の白い海」という意味合いになっている。

近年[いつ?]の英語では、"The Med" という短縮語が、地中海とそれを取り巻く周辺地域を日常の会話で語る場合の共通の語として用いられている。

地理

地中海の地図

正確には、西をジブラルタル海峡大西洋と接し、東はダーダネルス海峡ボスポラス海峡を挟んでマルマラ海黒海につながる海をいう。マルマラ海を地中海に含めることもあるが、黒海を含めることはしない。19世紀に掘削されたスエズ運河の開通以降は紅海を経由してインド洋につながる。

内海であるため、比較的波が穏やかである。また沿岸は複雑な海岸線に富んでいるため良港に恵まれ、3つの大陸(ヨーロッパアジアアフリカ)を往来することができる。こうした条件から、地中海は古代から海上貿易が盛んで、古代ギリシア文明ローマ帝国などの揺籃となった。21世紀初頭の現在も世界の海上交通の要衝の一つである。

地中海の沿岸は夏に乾燥、冬に湿潤となり、地中海性気候と呼ばれる。この気候のため、オリーブ等の樹木性作物の栽培が盛んであるほか、夏のまばゆい太陽や冬季の温和な気候を求めて太陽に恵まれない地域から多くの観光客が訪れる。

下記のように巨大なプレートの衝突によって形成された海であるため、火山が点在し、ヴェスヴィオ山エトナ山サントリーニ島など現代に至るまで活発に活動を続ける火山も多い。地震も頻発する。

海況

6月の地中海表面海流

内海であり、西端のジブラルタル海峡のみ[注 1] でしか外海と接続のないことは、地中海の海水循環に大きな影響を与えている[4]。ジブラルタル海峡は狭く浅いため、北大西洋海流のような外洋の大きな海流の直接の流入はない。大西洋からの海水の流入と、ナイル川などの地中海に流入する河川の水量をあわせても海面からの蒸発量が大幅に上回るため、塩分濃度が高く、潮位が低くなっている。

蒸発量は気温が高く乾燥の度合いの強い地中海東部においてより激しく、そのため東部では水面が低く塩分濃度も高い[5]。こうして低くなった東部には大西洋から西部を通じて低塩分の海水が流れ込み、東の高塩分水はそれによって西へと押し出され、ジブラルタル海峡より大西洋へと戻る。このため、地中海の表層の海流は軽い低塩分水が東へと流れ、深層海流は重い高塩分水が西へと向かっている[6]。地中海から流れ出た高塩分水は大西洋で数千kmも特徴を保ち続ける[7]

しかし全般的に言って、地中海の潮流は非常に弱い。閉鎖性水域であり[2]、海水の循環が不十分であるうえに、沿岸人口は3億6000万人を超える世界でも開発の進んだ地域の一つであることによって、地中海の水質悪化が懸念されている[8]


注釈

  1. ^ 厳密にはもう一箇所、スエズ運河を介しても外海と接続しているが、海況に与える影響は極僅かと言える。

出典

  1. ^ Pinet, Paul R. (2008). Invitation to Oceanography. Jones & Barlett Learning. p. 220. ISBN 0763759937. https://books.google.co.jp/books?id=6TCm8Xy-sLUC&pg=PA220&lpg=PA220&redir_esc=y&hl=ja 
  2. ^ a b 世界の代表的な閉鎖性海域環境省せとうちネット」(2020年8月22日閲覧)
  3. ^ 弓削達『地中海世界 ギリシア・ローマの歴史』(講談社学術文庫)。
  4. ^ Pinet, Paul R. (1996), Invitation to Oceanography (3rd ed.), St Paul, Minnesota: West Publishing Co., p. 202, ISBN 0-314-06339-0 
  5. ^ Pinet 1996, p. 206.
  6. ^ Pinet 1996, pp. 206–207.
  7. ^ Pinet 1996, p. 207.
  8. ^ ベルテルスマン社、ミッチェル・ビーズリー社編『ビジュアルシリーズ 世界再発見1 フランス・南ヨーロッパ』(同朋舎出版、1992年5月20日第1版第1刷)p84。
  9. ^ Marseille Climate and Weather Averages, France
  10. ^ Gibraltar Climate and Weather Averages
  11. ^ Malaga Climate and Weather Averages, Costa del Sol
  12. ^ Athens Climate and Weather Averages, Greece
  13. ^ Barcelona Climate and Weather Averages, Spain
  14. ^ Iraklion Climate and Weather Averages, Crete
  15. ^ Venice Climate and Weather Averages, Venetian Riviera
  16. ^ Valencia Climate and Weather Averages, Spain
  17. ^ Valletta Climate and Weather Averages, Malta
  18. ^ Alexandria Climate and Weather Averages, Egypt
  19. ^ Naples Climate and Weather Averages, Neapolitan Riviera
  20. ^ Larnaca Climate and Weather Averages, Cyprus
  21. ^ Limassol Climate and Weather Averages, Cyprus
  22. ^ Tel Aviv Climate and Weather Averages, Israel
  23. ^ 石坂昭雄、壽永欣三郎、諸田實、山下幸夫著『商業史』(有斐閣、1980年11月20日初版第1刷)p.67。
  24. ^ 園田英弘『世界一周の誕生――グローバリズムの起源』(文春新書、 2003年)p62。
  25. ^ 加賀美雅弘『ハプスブルク帝国を旅する』(講談社現代新書、1997年6月20日)p99 
  26. ^ “地中海で「近年最悪の海難事件」、難民500人水死の恐れ”. AFPBB News. (2014年9月16日). https://www.afpbb.com/articles/-/3025947 2016年11月28日閲覧。 
  27. ^ 『地球を旅する地理の本4 西ヨーロッパ』(大月書店 1993年2月19日第1刷)p.43-44
  28. ^ 「トルコ・ギリシャ対立激化 東地中海ガス田開発」『読売新聞』朝刊2020年8月26日(国際面)
  29. ^ 佐々木伸(星槎大学大学院教授)【中東を読み解く】トルコ、リビア内戦に“私兵軍団”背景に天然ガスめぐる資源争い WEDGE Infinity(2019年12月28日)2020年8月26日閲覧
  30. ^ Limits of Oceans and Seas, 3rd edition”. International Hydrographic Organization. p. 15-18 (1953年). 2011年10月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年4月20日閲覧。






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