初期のヒト属による火の利用 初期のヒト属による火の利用の概要

初期のヒト属による火の利用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/20 00:28 UTC 版)

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火を使ったことで知られる初期のヒト属ホモ・エレクトスの再現像

ヒト属による単発的な火の使用の開始は、170万年から20万年前までの広い範囲で説が唱えられている[2]。最初期は、火を起こすことができず、野火などを利用していたものと見られる[3]が、日常的に広範囲にわたって使われるようになったことを示す証拠が、約12万5千年前の遺跡から見つかっている[4]。「40万年前から広い範囲で使われていた」とする説もあったが、多くが否定されているか、あるいは確かな証拠が示されていない[5]

火が生活に与えた影響

周口店の北京原人遺跡北京原人はH.エレクトスの一種であり、火を使っていたと考えられている。

ヒトの生活は、火とその明るさで大きな影響を受けた。夜間の活動も可能となり[6]、獣や虫除けにもなった[1][2]。また、当初は火を起こすのが難しかったため、火は集団生活で共用されるものとなり、それにより集団生活の必要性が増した[7]

火の使用は栄養価の向上にも繋がった。タンパク質は加熱することで、栄養を摂取しやすくなる[1][8][9]。黒化した獣の骨から分かるように、肉も火の使用の初期から加熱調理されており、動物性タンパク質からの栄養摂取をより容易にした[10][11]。加熱調理された肉の消化に必要なエネルギーは生肉の時よりも少なく、加熱調理はコラーゲンのゼラチン化を助け、炭水化物の結合を緩めて吸収しやすくする[11]。また、病原となる寄生虫や細菌も減少する。

また、多くの植物には灰汁が含まれ、マメ科の植物や根菜にはトリプシンやシアングリコーゲンなどの有毒成分が含まれる場合がある[7]。また、アマキャッサバのような植物には有害な配糖体が含まれる場合もある[12]。そのため、火を使用する前には植物の大部分が食用にならなかった。食用にされたのは種や花、果肉など単糖や炭水化物を含む部分のみだった[12]ハーバード大学リチャード・ランガム英語版は、植物食の加熱調理でデンプンの糖化が進み、ヒトの摂取カロリーが上がったことで、脳の拡大が誘発された可能性があると主張している[13][14][15]

実際、ホモ・エレクトスの歯や歯の付着物から、加熱調理無しには食べるのが難しい硬い肉や根菜などが見つかっている[16][17]

考古学的考証の難しさ

石器時代のような極めて古い遺跡の発掘作業において、ヒトが火を使っていたかどうかを調べるのは非常に困難である。小規模な火の跡は風雨にさらされるなどして証拠が遺物として残らない場合があるし、一方で、化学反応、火山活動、落雷などによる自然発火・加熱現象があるためである。また、洞窟などは風雨に晒されにくいため、火を使った跡が比較的残りやすいが、古代人が住んだ洞窟は石灰岩など浸食されやすい石でできている場合が多く[18]:89、確実に遺跡が残るとは限らない。

オーストラリアの人類学者レイモンド・ダートは、自身が発見したアウストラロピテクスが300万から200万年前に火を使っていたと信じ、これをアウストラロピテクス・プロメテウス(プロメーテウスは人類に火を伝えたとされるギリシア神話の神)と名付けたが、今では間違いだったと判明している[19]:208


  1. ^ a b c Price, David. “Energy and Human Evolution”. 2007年11月12日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o James, Steven R. (February 1989). “Hominid Use of Fire in the Lower and Middle Pleistocene: A Review of the Evidence”. Current Anthropology (University of Chicago Press) 30 (1): 1–26. doi:10.1086/203705. 
  3. ^ JAXA 人類
  4. ^ a b First Control of Fire by Human Beings--How Early?”. 2007年11月12日閲覧。
  5. ^ "Fire was used by Homo erectus in northern China more than 400,000 years ago, and there is sketchy evidence suggesting that it may have been used long before that (Gowlett, 1984, pp. 181-82)." Price, David. “Energy and Human Evolution”. 2007年11月12日閲覧。
  6. ^ Stone, Linda; Paul F. Lurquin, Luigi Luca Cavalli-Sforza (2007). Genes, Culture, And Human Evolution: A Synthesis. Blackwell Publishing. p. 33 
  7. ^ a b c 『人類誕生の考古学』
  8. ^ a b c Weiner, S.; Q. Xu, P. Goldberg, J. Liu, O. Bar-Yosef (1998). “Evidence for the Use of Fire at Zhoukoudian, China”. Science 281 (5374): 251–253. doi:10.1126/science.281.5374.251. PMID 9657718. 
  9. ^ Eisley, Loren C. (1955). “Fossil Man and Human Evolution”. Yearbook of Anthropology (University of Chicago Press): 61–78. 
  10. ^ What evidence is there that Homo erectus used fire? Why did they use it?”. 2007年11月12日閲覧。
  11. ^ a b Gibbons, Ann (June 15, 2007). “Food for Thought” (pdf). Science 316 (5831): 1558. doi:10.1126/science.316.5831.1558. PMID 17569838. http://www.sciencemag.org/cgi/reprint/316/5831/1558.pdf 2007年11月12日閲覧。. 
  12. ^ a b Stahl, Ann Brower (April 1984). “Hominid Dietary Selection Before Fire”. Current Anthropology (University of Chicago Press) 25 (2): 151–168. doi:10.1086/203106. 
  13. ^ William R. Leonard. “Food for Thought: Into the Fire”. Scientific american. 2008年2月22日閲覧。
  14. ^ Wrangham R, Conklin-Brittain N. (2003 Sep). “Cooking as a biological trait”. Comp Biochem Physiol a Mol Integr Physiol 136 (1): 35–46. doi:10.1016/S1095-6433(03)00020-5. PMID 14527628. オリジナルの2005年5月19日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20050519215539/http://anthropology.tamu.edu/faculty/alvard/anth630/reading/Week%208%20Diet%20tubers/Wrangham%20and%20Conklin-Brittain%202003.pdf. 
  15. ^ Lambert, Craig (May-June 2004). “The Way We Eat Now”. Harvard Magazine. http://harvardmagazine.com/2004/05/the-way-we-eat-now.html 
  16. ^ Viegas, Jennifer (2005年11月22日). “News in Science - Homo erectus ate crunchy food - 22/11/2005”. http://www.abc.net.au/science/news/stories/2005/1514032.htm 2007年11月12日閲覧。 
  17. ^ Early Human Evolution:  Homo ergaster and erectus”. 2007年11月12日閲覧。
  18. ^ a b c d e f g 『火の賜物』
  19. ^ a b c d e 『石器時代文明の驚異』
  20. ^ AGAZI NEGASH GEOCHEMICAL PROVENANCE OF OBSIDIAN ARTEFACTS FROM THE MSA SITE OF PORC EPIC, ETHIOPIA
  21. ^ Somalipress.com Historical Sites In Ethiopia
  22. ^ Renfrew and Bahn (2004). Archaeology: Theories, Methods and Practice (Fourth Edition). Thames and Hudson. Page 341.
  23. ^ Rincon, Paul (2004年4月29日). “Early human fire skills revealed”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/3670017.stm 2007年11月12日閲覧。 
  24. ^ サイエンスジャパン 古代の石器作製では火を利用していた
  25. ^ a b Brown KS, Marean CW, Herries AI, Jacobs Z, Tribolo C, Braun D, Roberts DL, Meyer MC, Bernatchez J. (2009). Fire As an Engineering Tool of Early Modern Humans. Science, 325: 859-862. doi:10.1126/science.1175028
  26. ^ Webb J. Domanski M. (2009). Fire and Stone. Science, 325: 820-821. doi:10.1126/science.1178014
  27. ^ Callaway. E. (13 August 2009) Earliest fired knives improved stone age tool kit. New Scientist, online
  28. ^ Karkanas P, Shahack-Gross R, Ayalon A, et al. (August 2007). “Evidence for habitual use of fire at the end of the Lower Paleolithic: site-formation processes at Qesem Cave, Israel”. J. Hum. Evol. 53 (2): 197–212. doi:10.1016/j.jhevol.2007.04.002. PMID 17572475. http://www.tau.ac.il/humanities/archaeology/info/ran_barkai/HabitualUseofFireJHE2007.pdf. 
  29. ^ a b 人類学関連新聞記事紹介 2000年-2009年
  30. ^ 兵頭政幸ら 中国元謀およびアジアにおける他の地域の原人の古地磁気年代、2000年
  31. ^ Knox College Early Hominids





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